もう少し仲間が欲しい。寂しい。 不意に思った私は適切な助言が得られそうな太郎太刀に相談を持ちかけた。ら、彼の弟を薦められました。 なんでも弟は小さい事は気にしない、良く言えば親しみやすい、悪く言えば大雑把な性格だという。 次郎太刀曰く「兄が大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう」といった様子で性格が丸々変わった私に寛容な方らしい。 そしてこの次郎太刀、どうやらお酒が大の好物だとか。しかし今まで前の"私"の目があって酒を飲むことが出来ず干からびていたらしい。 言ってくれたら買うのに。・・・予算に余裕がないから少ししか無理だけど。もしかして太郎太刀、それが分かってたから言わなかったのかな。 何はともあれ次郎太刀と仲良くなるには酒だ酒。実は内緒で一本日本酒を買ったんだ。食器棚の奥にしまってあるから何かつまみを作って一緒に持っていこうと思う。真昼間からかよと思うけど善は急げってね。 誰とも会わないようにこっそり廊下を歩いて──いや、隠れる必要ないんだけど──おっと今獅子王がいた。危ない危ない。・・・しかしなんか楽しくなってきた。昔ゲームでやったスニーキングミッションを思い出すのだが。どこかに段ボールはないですかね? 忍び足と物陰に隠れながらで厨の前に辿り着いて、壁に張り付く。厨は人がいる可能性が高いからね。 そろりと厨を覗き込む。と、小さい人影が見える。バケツを踏み台にして包丁で何かの皮を剥く左文字三兄弟の末弟、小夜左文字がいた。 大分苦戦しているその姿がとても可愛いのだけどどうしよう。普通に入っても良いかな。大人の刀剣がいたら出て行くのを待ってようと思ったけど子供だし。可愛いし。・・・仲良くなりたいなぁ。私もお小夜って呼びたい。 「こんにちは、何剥いてるの?」 壁から身を乗り出して小夜に話しかければ彼の身体がビクリと大きく跳ねる。その拍子に手から滑り落ちたのは大ぶりの柿だった。ここから見ても分かるくらい実がガタガタだ。そういえば小さい子は食事係の番に入れてなかったから包丁の使い方教えてなかったな。 「えっと、驚かせちゃってごめんね。良かったら皮の剥き方教えてあげよっか?」 「・・・いい」 私が話しかけてから物凄く警戒している彼は、こちらを見たままギュッと包丁を握りしめた。一瞬腰に手が掛かったが己の本体がなかったからだろう。審神者には逆らえないはずだが本能的なものだと思う。 「あー、でもほら、包丁の使い方覚えればもっと綺麗に剥けてたくさん食べられるよ」 「・・・」 「怪我したら危ないし・・・ちょっと練習すれば出来るようになるからさ」 「・・・怒らないの。柿、勝手に食べようとしたのに」 何も喋らないから勝手に話しかけていれば、少し俯いた小夜がぼそりと呟いた。どうやら許可を取らずに勝手に食料を取ったことを怒られると思っていたらしい。 別に足りなくなるほど取らなければ好きに食べても良いと思うのだけど。むしろリクエストしてくれたら予算と相談してだけど取り寄せるのに。 「いいのいいの。夕餉に出す予定で沢山取り寄せたから一個くらい減っても大丈夫だよ。ほら、お皿出して・・・フォークだと洗い物出るから爪楊枝持ってく?これなら片付け簡単だし」 「いっ、いい!いらない・・・!」 手伝おうと爪楊枝の入った棚の引き出しを開けて取り出すが、その隙にガタガタと音がして振り返った時には小夜が厨から走って出て行く姿がチラリと見えただけだった。 止める間もない。 「・・・」 数秒間、あっけにとられていたがようやく相手を怖がらせて逃げられてしまった事に気付いて深く息を吐く。 ──私だって人間だ。仲良くしようとした相手にあんな態度を取られては傷付くし悲しくもなる。"私"と私は違うって結論が出たんでしょ。ならもっと歩み寄りがあっても良いじゃない。 「なんかなぁ・・・私、何か悪いことしたかなぁ・・・」 ここに来たことも先住人と仲がよろしくなかったことも、そもそも根本から運が悪すぎる。 私が何をしたっていうんだ。・・・や、私も彼等も悪くないか。悪いのは元凶の"私"だ。うん、誰かに八つ当たりする前にそう結論を出しておこう。 ああ、いままで一対一になってあんな態度を取られたことはなかったからへこむなぁ。 「・・・日を改めよう。ふて寝だふて寝。そういえば今日は星座占いの順位が悪いんだった」 こうして賄賂で仲良くなろう計画は戦略的撤退という形で幕を閉じた。 [ back ] |