本丸記 | ナノ

ここ最近、今剣の元気がない。
どこかぼんやりしていたり溜め息を付いたり、何かあったのだろうか。
そう心配して何があったか聞くが「なんでもありません」の一点張りで教えてくれない。ようやく審神者の仕事が分かってきたばかりの私には付き合いの短い彼の気持ちが分からず困ったものなのだが・・・しかし、一つ心当たりはあった。

先日こっそり外に出て散歩をしていた時、なにやら言い合いをしている声を聞いたのだ。
少し離れたところにいるのか全てが聞き取れたわけではないが今剣とそれより低い男らしい声。口調を強めて声高に言った言葉に「主様が」とか「信じられるか」とかがあったから私の事で争っていたのだと思う。

「──今剣、今日も元気ないね」
「えっ、いえ!そんなことないですよ!」
「何か困り事があるなら言ってくれないと心配なんだけどな」

気遣うように言ってもやはり「大丈夫」ばかりで話してくれそうにない。が、ここ数日で彼等の状況が少しだけ分かったと思う。
たぶん、"私"が変わったことで刀剣達の間で混乱が広がっているのだ。それで事情を知っていそうな今剣は何があったか聞かれたけど私が口止めしてるから言えず、でも彼の性格から言われっぱなしにも出来なくて険悪な雰囲気になってる──感じかな。

遅かれ早かれそうなるとは思ってたけど、やっぱり何があるか分からないから"私"の中身が変わったことは表沙汰にしたくないよねぇ。
契約が無効になっててある日後ろからグサリ、気付いたら死んでましたなんて冗談じゃない。
ただ今剣が仲間外れになるようなことはあってはならない。私の事情で口を噤んでもらってるのにそのせいで変な疑惑をもたれたりしては彼に申し訳がなさすぎる。

「・・・今剣」
「はい?なんでしょう」
「明日から近侍を、えーと・・・長谷部に戻します」
「え、なっ、なんでですか!?」

なんで、ぼく、じょうだんですよね、どうして
突然の解雇宣言にオロオロと言葉を零す今剣。
わぁ待って待って泣かないで!ちゃんと説明するから!

「ほら最近今剣元気ないじゃん?あの原因、私の所為で仲間と上手くいってないからでしょ?」
「あ・・・ごぞんじだったのですか・・・」
「まぁ私も家ン中ウロウロすることあるしね」

んで、口止めしたのは私だけどそのせいで仲間割れをするのは駄目だからさ。
私が恨まれたり陰口言われたりするのは良いよ?もともとそうだったみたいだし。でも今剣は違うじゃん。日は浅かったけど仲良くしてたんでしょ。
それに私は最悪指示さえ出せれば仕事をこなせるけど、君達は六人一組で戦場に出なきゃだから。日常でも仕事でも一緒にいる時間が長いんだから他の刀剣との関係は良いに越したことはないよ。

「だから今剣は私から離れて皆のところに戻っておいで。私の気まぐれが終わったってことにして、前と同じように長谷部を近侍に戻せば少しはまともになると思うからさ」

なるべく優しく言い聞かせたつもりだが、話が終わった頃には今剣の顔は悔しげに怒りを滲ませていた。
何と声を掛けていいか分からず閉口しているとしばらくの沈黙の後返ってきた返事は"NO"。
主様は良い人なのにとか悪いのは貴方じゃないとかもっと話したいとか、膝の上で拳を握って悔しげにポツリポツリと言葉を零していた。
しかしこちらも譲るわけにはいかないと様々な理由を並べて、そしたら更に今剣も言葉を重ねて──あっという間に二時間ほども経っていた。疲れた。

結局折れたのは私の方だった。あれやこれやと理由を並べて理論的に諭そうとした私に対して今剣が最後に出したのは天下の宝刀・泣き落とし。
付喪神とはいえ子供である彼に私の理論は通じなくて、逆に子供好きな私は今剣にぐずつかれて大ダメージを受けたのだ。

項垂れて白旗を上げる私とは反対に今剣は涙をぬぐいながらホッとしたように笑みを浮かべていた。嗚呼、悔しいけど可愛い・・・。

「じゃあぼく、そろそろしゅつじんのじゅんびしてきますね!」
「ああうん・・・気を付けてね・・・怪我したら無理せずに帰ってくるんだよ・・・」

瀕死状態の私を置いて、ニコニコ笑顔の今剣は足取り軽く部屋を出て行った。


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