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「なぜだ……」

小さな声でそう呟いたジュリアンの瞳からは止めど無い涙が流れていた。



「酷いじゃないか!
やり直しが利かないなら、なぜ最初からそう言ってくれなかったんだ…
こんなひどい事…
俺には耐えられねぇ!!」

ジュリアンの感情はもはや抑えられることはなく、すすり泣きは号泣に変わっていた。



『ジュリアン…おまえはなにか勘違いをしているのではないか?
死とは本来、そういうものなのだ。
遺された者は深く傷付き悲しみ、様々なことを後悔する。
だが、いくら泣いても悔やんでも一度死んだ者は生き返ることはない。
今までは、おまえが、その現実をねじ曲げてきたに過ぎない。』

「そ…そんなことは…俺だって…
だが、今回のことは俺のせいで…」

子供のように息を切らしながら、ジュリアンは途切れ途切れに言葉を紡ぐ。



『世の中にはもっと辛い出来事だって山ほどあるのだ。
ほんの些細な過ちから、自分の愛する者を失う者も多い。
しかし、起きてしまったことはもうどうしようもない…
それがどれほど辛いことであれ……逃げる事は出来ないのだ。』

エレスの言葉にジュリアンは何も言うことが出来なかった。



『おまえは今まで何人かの命を救ったことで、慢心していたのではないか?
死というものをどこか軽んじてはいなかったか?
死んでしまっても、また生き返らせれば良いんだと軽く考え始めていたのではないか?
……自惚れるな。
おまえは神ではない。
世の中では毎日どのくらいの人が命を落としているかわかっているのか?
おまえは、その全部の命を救えるとでも思っているのか?
おまえが今までに救った命など、砂漠の一粒の砂粒にも敵わん。
それ以外の者は皆、その大きな悲しみを受け止めているのだ。
傷付きずたずたになっても逃げる事なく…な』

エレスが言葉を終えた時、ジュリアンの慟哭はさらに大きなものに変わった。
エレスの言う通りだった。
知らず知らずのうちに、エレスチャルの不思議な力で現実を捻じ曲げることを当たり前のように感じ始めていた。
そのせいで、大切な友人を…
本来ならば死ぬ運命ではなかったかもしれない友人の命を、もう一人を救ってしまったために結果として奪ってしまったことに…
そのことに対して自分が出来る事が何もない悔しさに…
ジュリアンは、ただ、泣き喚くだけだった…


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