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「ジュリアン、じゃ、親方に紹介しよう。」
炭坑に着くなり、ネイサンはジュリアンにそう言った。
「あ…それなんだが…親方に会うのはもう少し待ってくれ。
ちょっと見学させてもらうよ。
で、様子をみて続けられそうかどうか考えてみるから…
じゃないと、雇ってもらったのは良いがすぐにやめたりしちゃあ申し訳ないからな。」
「そうか…石を掘ってたあんたならやれる仕事だと思うが…けっこう慎重なんだな。
じゃあ、俺は仕事があるからまた昼食の時にでもな。」
「あぁ、いろいろありがとうな!」
ジュリアンは、ネイサンに手を振り、その後こっそりと彼の後をつけた。
物陰からネイサンの姿を見ながら、ジュリアンは彼の様子を窺っていた。
「確か、今日の仕事は午前中で終わるんだったな。
そしたら、ネイサンはかみさんに渡す石を掘りに行くと言い出すはずだ…
なんとかしてそれを食い止めれば、ネイサンは被害にはあわねぇ。」
『奴を引き留めるくらいなら、なんとでもなるだろう。』
「そうだな。
あ…そうだ!!
この石をネイサンにやろう!
そしたら、もう鉱山に行く必要なくなるもんな!」
ジュリアンは、あの日、もう少しでネイサンが手にするはずだったアメジストをポケットから取り出した。
「……地震がなかったら…きっと、ネイサンは自分の手でこの石を掘り出してたに違いない…
だから、これはネイサンの石なんだ。」
『妻に贈る石だから自分で掘るって言い出すんじゃないか?』
「任せとけよ。そのあたりは俺がうまいこと言うから。」
『そうだな。おまえは頭は良くないくせに、時折、詐欺師並みにうまい口実を思い付くことがあるからな。』
「誰が詐欺師なんだ!
そもそも、詐欺師っていうのは相手をだまくらかして金品を巻き上げるんだぞ!
俺は助けるために嘘を吐くんだから、全然、違うぞ!」
『詐欺師と言ってはおらん。
詐欺師並みに…と、言ったのだ。
人の話はよく聞け!』
「ちっ、いつもそんな屁理屈ばっかり。」
ジュリアンとエレスが、喧嘩交じりにくだらないことを話しているうちに、ネイサンの動きに変化があった。
ジュリアンには、それは責任者らしき男が皆を集め何事かの指示を出しているように見えた。
「きっと仕事が終わりだって話だな。」
ジュリアンの推測通り、男達は片付けを始め、やがてぞろぞろと宿舎の方へ戻り始めた。
「やっぱりだ!」
ジュリアンは、宿舎の方に先回りをして、何気ない素振りでネイサンを待ち構えた。
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