「……あの〜……」

物陰からネイサンの家をうかがうジュリアンの背後から、物静かな女性の声が聞こえた。



「なんだ?」

ジュリアンが振り返ると、そこにいたのは長い金髪の女性だった。



「もしかして、うちにご用ですか?」

「え……うちってことは…あんた、ネイサンの…」

「あぁ、主人のお知りあいの方なんですね。」

女性はにっこりと微笑んだ。



(噂通りだ…いや、思ってた以上だ!
こりゃあ、ネイサンが夢中になるもの当然だな…!)



「あ……お、俺はジュリアンっていうもんなんだ。
最近、ネイサンと知り合って…えっと…あの、ネイサンはもう炭坑に戻ったのかい?」

「ええ、昨日から仕事だったものですから、戻りました。」

「昨日、地震の後に戻って来たんじゃないのか?」

「いえ…戻ってませんが…」

「あれ?そうなのか…?
じゃあ、違ったのかな?」

「彼が何か?」

「いや…なんでもないんだ。」

ジュリアンはそう答えながら、何とも言えない奇妙な胸騒ぎを感じていた。



(じゃあ、ネイサンはどこに行ったんだ?
結局、あの晩、炭坑の宿舎には帰っちゃ来なかった。
おかしいじゃないか。町に戻ってないとしたら、ネイサンは一体どこへ…?)



「じゃあ、奥さん、またな!」

「あ、ジュリアンさん…!」

ジュリアンは、ネイサンの妻の声に振り返ることもなく、今通って来たばかりの道を炭坑に向かって引き返した。







「ジュリアンじゃないか!どうしたんだ!」

今朝、町に帰ったジュリアンの姿を見て、宿舎にいた鉱夫達は驚いたような顔を向けた。



「ネイサンはいるか?」

「それが今日は休んでるんだ。
あいつが休むことなんてめったにないんだけどな。」

その言葉を聞いて、ジュリアンの顔色が変わった。



「大変だ。
今日、あれから町に帰ってネイサンの家に寄ってみたんだが、ネイサンは昨日家を出たっきり、家には戻っちゃいないってことだった。」

「なんだって?それじゃあ、あいつ、一体、どこに…?」

「地震の前、ネイサンと何かしゃべった奴はいないのか?」

誰も首を振るばかりだったが、そのうちの一人がぽつりと呟いた。



「そういえば、あいつ…つるはしを持ってたような気がする…」

「つるはしを?」

「あぁ、どこか修理でもするんじゃないかと思ってたんだが…」

「ジュリアン!もしかしたら、ネイサンは石を掘りに鉱山に行ったんじゃないか?!」

そう言うポールに、ジュリアンは深く頷いた。



「きっと、そうだ!」

「ジュリアン…まさか、そこで何かが…」

「おかしなことを言うんじゃねぇ!
とにかく行ってみるしかねぇだろ!」

ジュリアンと数人の男達は、鉱山を目指して歩き出した。


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