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「……あの〜……」
物陰からネイサンの家をうかがうジュリアンの背後から、物静かな女性の声が聞こえた。
「なんだ?」
ジュリアンが振り返ると、そこにいたのは長い金髪の女性だった。
「もしかして、うちにご用ですか?」
「え……うちってことは…あんた、ネイサンの…」
「あぁ、主人のお知りあいの方なんですね。」
女性はにっこりと微笑んだ。
(噂通りだ…いや、思ってた以上だ!
こりゃあ、ネイサンが夢中になるもの当然だな…!)
「あ……お、俺はジュリアンっていうもんなんだ。
最近、ネイサンと知り合って…えっと…あの、ネイサンはもう炭坑に戻ったのかい?」
「ええ、昨日から仕事だったものですから、戻りました。」
「昨日、地震の後に戻って来たんじゃないのか?」
「いえ…戻ってませんが…」
「あれ?そうなのか…?
じゃあ、違ったのかな?」
「彼が何か?」
「いや…なんでもないんだ。」
ジュリアンはそう答えながら、何とも言えない奇妙な胸騒ぎを感じていた。
(じゃあ、ネイサンはどこに行ったんだ?
結局、あの晩、炭坑の宿舎には帰っちゃ来なかった。
おかしいじゃないか。町に戻ってないとしたら、ネイサンは一体どこへ…?)
「じゃあ、奥さん、またな!」
「あ、ジュリアンさん…!」
ジュリアンは、ネイサンの妻の声に振り返ることもなく、今通って来たばかりの道を炭坑に向かって引き返した。
*
「ジュリアンじゃないか!どうしたんだ!」
今朝、町に帰ったジュリアンの姿を見て、宿舎にいた鉱夫達は驚いたような顔を向けた。
「ネイサンはいるか?」
「それが今日は休んでるんだ。
あいつが休むことなんてめったにないんだけどな。」
その言葉を聞いて、ジュリアンの顔色が変わった。
「大変だ。
今日、あれから町に帰ってネイサンの家に寄ってみたんだが、ネイサンは昨日家を出たっきり、家には戻っちゃいないってことだった。」
「なんだって?それじゃあ、あいつ、一体、どこに…?」
「地震の前、ネイサンと何かしゃべった奴はいないのか?」
誰も首を振るばかりだったが、そのうちの一人がぽつりと呟いた。
「そういえば、あいつ…つるはしを持ってたような気がする…」
「つるはしを?」
「あぁ、どこか修理でもするんじゃないかと思ってたんだが…」
「ジュリアン!もしかしたら、ネイサンは石を掘りに鉱山に行ったんじゃないか?!」
そう言うポールに、ジュリアンは深く頷いた。
「きっと、そうだ!」
「ジュリアン…まさか、そこで何かが…」
「おかしなことを言うんじゃねぇ!
とにかく行ってみるしかねぇだろ!」
ジュリアンと数人の男達は、鉱山を目指して歩き出した。
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