ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ



「……ならば…
君の記憶と成長を私にくれるか?
それらと引き換えでも良いというのなら…このリラを君に譲ろう。」

アルベールには老詩人の語った言葉の意味がわからなかった。
だが、そんなことよりもここで彼の申し出を飲めば、このリラが手に入るのだということがアルベールにはより魅力的に思えた。



「本当ですか!
私はこのリラがいただけるのなら、過去の記憶等いりません。」

老詩人はアルベールのその言葉に少し不機嫌な表情を浮かべる。



「君の親、兄弟のこと、故郷のこと、そのすべてをこんなリラと引き換えることが出来ると言うのか?
本当に後悔しないのか?」

「後悔等致しません!
私は、このリラを持って、一生各地を飛び回っていたいのです。
そのためには過去のことなどすっかり忘れてしまった方が、いっそ…」

詩人は片方の眉を吊り上げた。



「そうか…ならば、そうしてみるが良いだろう。
終わりのない旅がどんなものか、このリラと共にその目で確かめてくるが良い。」

老詩人は、眉を吊り上げたままアルベールの胸にリラを押し付けるように差し出す。
アルベールには老詩人の怒りの意味が理解出来なかったが、そんなことよりもリラを譲ってもらえることが嬉しく、ただその想いだけで受け取った。
受け取った瞬間に、世界が一周するような眩暈を感じたが、それは嬉しさによる興奮のためだと考えた。



「ありがとうございました!」

顔を上げた時、そこには詩人の姿はなかった。
瞬き一つするかしないかの間にその場から消え去ったのだ。
アルベールは、一瞬、薄ら寒い想いを感じたが、リラは変わらずその腕の中にあり、そのことが他のどんなことをも吹き飛ばした。



(今日はなんて幸運な日だったのだろう…
こんな素晴らしいリラが手に入るなんて…!)

アルベールは、今まで使っていた古びたリラをそこに残し、白いリラを大事そうに抱えて立ち去った。


- 28 -

しおりを挟む
コメントする(0)

[*前] | [次#]

お礼企画トップ 章トップ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -