ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







街道に出ると、アルベールの手にしたリラを見て彼の職業を知り、親しげに話しかけて来る者、逆に冷たい視線を投げかける者…彼は、いつも様々な反応にさらされる。
行き交う者が途切れた道で、アルベールはふと昔の出来事を思い出していた。
それは、遠い昔のようでもあり、また昨日のことのようにも思える。



吟遊を始めて間もない頃、アルベールは、白いリラを持つ老いた詩人に出くわした。
本体に刻まれた彫刻が素晴らしく、アルベールは一目でそのリラに心奪われた。
なにしろ、当時のアルベールが使っていたリラは道具屋で買った中古のリラで、古いばかりではなく元々があまり高級なものではなかったからだ。
アルベールは、思わずその詩人に声をかけた。
少しで良いからそのリラを弾かせてほしいというアルベールの願いを、詩人は快く承諾してくれた。
膝に乗せた時点で、そのリラが自分のものとはまるで違うことをアルベールははっきりと確信した。
膝に馴染む感じ、本体の手触り…その何もかもが違う。
弦に触れると、当然の如く音の響きが素晴らしく、アルバートは気が付くと、一曲を歌い終えていた。

「とても良い声をしているな。
リラも君に奏でられて喜んでるようだ。」

リラを受け取りながら、詩人は穏やかに微笑んだ。



「あの…このリラを…私に譲ってはいただけないでしょうか!?
今には今は金がありませんが、もし譲っていただけるのなら、どんなことをしてでも金を作ります!
どうか…どうかこのリラを私にお譲り下さい!」

「それほどにこのリラが気に入ったか…
少し聞かせてほしい。
君は、なぜ吟遊をしているのかね?」

「それは…歌う事が好きで、いろいろな場所を旅するのが好きだからです。」

「なぜ、旅をすることが好きなのかね?」

「それは…知らないものを見たり聞いたり知ることが出来るからです。」

「君は…ずでにあるものよりも目新しいものが好きだということか…
しかし、本当にそうだろうか?
私には過ぎ去った記憶の方が大切なように思えるが…」

「でも、新しい物を知ればそれがまた記憶になります。
古いものに縛られているよりは、私はより新鮮ななにかを求めていたいのです。」

「…そういうものだろうか。
そんなことを続けていれば、いつかは疲れてしまうのではないだろうか?」

「私はいくつになってもきっとそんな気持ちにはならないことでしょう。
それほどまでに私は自分の知らない世界をより多く知りたいという欲求が強いのです!」

問答のような対話がそこで突然途切れ、二人の間に長い沈黙が流れた。


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