ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







狭い部屋の中に、ジョシュアと老人のまばらな拍手が響く。



「では…遠い異国の戦の歌を…」

アルベールの細い指が、膝に抱えたリラの弦を撫でるとどこか物悲しい音色が奏でられた。

愛する家族を残し、持ちなれない銃を手にして戦場に赴く若者の気持ち…
戦いに明け暮れる日々の中、友人を亡くし、打ちひしがれ、生きる意味さえ忘れかけた若者が、悩み葛藤しながらも家族のことを想い、最後まで戦い抜く…
やがて、長かった戦が終わり、故郷に戻った若者が目にしたものは、動くものの姿のない死に絶えた町だった。

アルベールは情感を込め、血を吐くようにその歌を歌いきった。
普段話す時の物静かな声とは違い、張りのあるその声は時には地の底から響くように、また、時には女性のようなファルセットを使い、若者の心情を歌い分ける。

ジョシュアと祖父は、号泣にも近い涙で頬を濡らしていた。



「…すみません。
もっと明るい歌の方が良かったですか?」

「いえ…とても素晴らしかったです。
まるで、目の前にその情景が浮かぶようで……僕…とても感動しました!
な…じいちゃん……」

老人は何度も頷き、手拭で涙を拭う。
その後は、がらりと雰囲気を変え、美しい故郷を想う歌、清らかな少女の初恋をコミカルに表現した歌等を、アルベールは立て続けに何曲も歌い続けた。
時が過ぎていく度に、老人の顔には赤みが差し、手を動かして拍子を取るようになっていた。







「ありがとうございました。アルベールさん。
こんな素敵な歌が聞かれるのなら…わしはもっと長く生きていたい…
そんな気持ちになれました。
……いつかまたあなたの歌を聞かせていただけますか?」

アルベールは、老人の手を取り微かに微笑んだ。



「この世には数え切れない程の風景や出来事や想いがひしめきあっています。
どれほど歌い続けても歌い尽せない程に…
だから、私は歌い続けるのです。
歌い尽せない事がわかっているから…」

「……歌い尽せないことがわかっているから…?」

繰り返すその言葉に、老人の脳裏に何かが浮かび上がった。







「アルベールさん、本当にありがとうございました。
祖父はとても元気付けられたと思います。
僕も…何か今まで感じたことのないような…勇気をいただけたような気がします。
もしもまたお近くに来られることがあれば、あなたの歌を聞かせて下さい。」

「ジョシュア、お礼を言うのはこちらの方ですよ。
こんな機会を得られたことをとても感謝しています。
どうか、これからもお祖父様を大切に…あなたの優しいお気持ちをいつまでも持ち続けて下さいね。
では、またいつかどこかで…」

二人は固い握手を交わし、アルベールは静かに去って行った。


- 25 -

しおりを挟む
コメントする(0)

[*前] | [次#]

お礼企画トップ 章トップ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -