ジネットは実はそのことで困惑していた。

レヴの屋敷に来て、二〜三日した時のことだった。
ジネットは、ダニエルの写真がないことに気が付いた。



(そうだわ!
本の間に挟んだまま、ピエールさんの所に忘れてきてしまったんだわ!)

ダニエルの写真は、いつの間にか、ジネットにとってのお守りのような存在になっていた。
それを持っていれば、ダニエルが見守り、ダニエルの息子…すなわち、森の民の次の長になるべき人に出会える…
そんな風に考えていたのだ。
しかし、ジネットのまわりには常に二人のメイドが付き添っていた。
一度、忘れ物を取ってくると言ってみたことがあったのだが、そんなことなら私達が行って来る…と言われてしまったので、忘れ物は思い違いだったと言って誤魔化した。

あの部屋はふだんはほとんど使ってないとピエールは言っていた。
現に部屋に入った時は、うっすらとほこりが積もっていた位だから、それは嘘ではないだろう。
と、いうことは、見付かる可能性は少ないかもしれないが、みつかる、みつからないという事よりも持っていないということがジネットにとってはどうにも不安なことだった。
しかし、明日はフレデリックの新居へ行くことになっている。
帰って来てからでないと、取りに行くのは無理だろうとジネットは諦めた。







やがて、旅立ちの朝がやってきた。
四人は、白い四頭建ての馬車に乗り込んだ。
今回はプライベートな旅ということで、メイドは三名のみ同行することになった。
レヴ達四人の乗った馬車と、両親達、メイド達の乗ったものの三台の馬車に別れて出発した。



「うっわ〜!早いねぇ!
やっぱり歩くのとは比べ物にならないね!
ねぇ、今度からの旅は馬車で移動しようよ。」

「平坦な広い道なら、それで構わんのだが、今まではそんな場所はほとんどなかったではないか。」

「そういや、そうだね。」

「私は馬車よりは馬に乗る方が好きなのだ。
馬は良いぞ…
そうだ、ヴェール!
向こうに着いたら、君も乗馬をやってみないか?」

「本当ですか!ぜひ、教えて下さい。」

馬車の中でも、賑やかな会話は途切れない。



「もうすぐ別荘だ。」

「またどうせすごい別荘なんだろうねぇ…」

「いや、ここの別荘はそんなにたいしたものではないぞ。」



(…レヴにはたいしたことなくても、きっとすごいもんに決まってるさ…)


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