ジネットは、店を出る頃から急に口数が減り、沈んだ表情になっていた。

「…あの…レヴさん…
おかしなことを言うようですが…暗き森を通って行きませんか…?」

「何をおっしゃるんです!?
あの森は暗く入り来んでいて、案内なしで入るのは死ににいくようなものだと、さっきのウェイターも言っていたではありませんか。」

「そうだよ。少しくらい時間はかかっても安全な道を進まないと…」

「でも、私は幼い頃から森の中で育ってますし、夜目も効く方なんです。
暗き森を迷わずに進める自信はありますわ。
森の中を進んだ方がずいぶん近道なんですから、こちらから行きましょうよ!」

「だが、特に急ぐ必要のある旅ではありません。
それに、今から進むと夜を森で過ごすことにもなります。
それはあまりに危険だ。
賛成出来かねます。」

「……では、私だけで参ります。」

「なぜです?
なぜ、そんなにもあなたは暗き森に行きたがるのです?」

「そ…それは……」



「行きましょう…」



三人は一斉にヴェールに顔を向けた。



「良いではありませんか…
ジネットさんがそれほどまでに行きたいと思われるなら、皆で行ってみようではありませんか!
幸い、私も森にはけっこう慣れています。
きっと、なんとかなりますよ。」

「…ヴェールさん…」

ヴェールが何を考えているのかはわからなかったが、レヴがヴェールの方を見ると、小さく頷いて見せた。
それは「任せてくれ」ということなのだろうとレヴは理解し、黙ってついていくことにした。



「では、私が先頭を進みますから、皆さんははぐれなように近い距離で着いて来て下さいね。」

ヴェールは知り尽くしている暗き森の中を、わざとぎこちなく進んでみせた。
ヴェールがいる限り、この道で迷う事のないことはわかっていたが、彼がここに来てどういう心境になるかということをレヴは心配していた。
ここでの日々を思い出し、辛い気持ちがよみがえるのではないだろうか…
せっかく明るくなった彼の気持ちがまた揺らぎはしないかと考えたのだ。

それもすべてはジネットがこの森に入りたがったせいだが、当のジネットはこの森に入ってからも必要なこと以外は何もしゃべらず深刻な面持ちで歩き続けていた。


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