「すると、その森を抜けると隣の町へ着くということなんですね。」

「いえ。
暗き森は、とても通り抜けられるものではありません。
以前は、案内をしてくれる者がいたのですが、その男が姿を消してからは誰一人としてあの森へ踏み入ろうなんて者はいませんよ。
案内なしであの森に入るなんて、死にに行くようなものですから。」



(……暗き森……!!)

ジネットは身体の震えを止めることが出来なかった。



(…なんだかこのあたりには以前来たことがあるような気がしてたのだけど、ここは暗き森の近くだったのね!)

あの時のジネットはは精神的に追い詰められ、とても不安定な状況だった。
さらに、以前来た時は夜だったため今見ている景色とはずいぶん印象が違い気が付かなかったのだ。



「あ…あのっ!
案内人さんはいなくなってから、一度も戻られてはいないんですか?」

「え?…ええ。
あの男は、ある日突然にいなくなり、そして戻っては来ませんでした。
死んだんじゃないかという者もいるくらいです。」

「そ、そんな…!!」

「ジネット、どうしたんだい?
案内人がどうかしたのかい?」

「……い…いえ…
なんでもありませんわ。」

ジネットの態度は誰が見ても明らかにおかしいものだった。
レヴは一瞬ジネットが案内人と知り合いなのかと考えたが、もしそうだとしたら、ヴェールが案内人だということに気付かない筈がないし、ヴェールもジネットを知ってることになるのだから、それはありえない。
ジネットが、なぜ、あれほど動揺しているのか、レヴにはその理由がわからなかった。

レヴは口実を設けて、ヴェールと店の外に出た。



「ヴェール、君は以前、ジネットさんに会ったことがあるのか?」

レヴは、先程の疑問を確認するようにヴェールに尋ねた。



「いいえ、ありません。」

「忘れているのではないか?
森を案内したことはなかったか?」

「いえ。ありません。
道案内を頼む人も少なかったですが、その中に女性は一人もいませんでしたから。」

「では、なぜ、ジネットさんは案内人にあれほど反応したのだろう?」

「私も不思議に思いました。
あの様子はただごとではありませんでしたよね。
一体何が…」

その答えはすぐには出そうになかった。
あまり長い間、外にいると余計な詮索をされそうなので、二人は諦めて店の中に戻った。



「お待たせしました。
……では、そろそろ発ちましょうか?」


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