(パパ、ママ…本当にごめんなさい。
でも、私、やっぱり祐也と離れることなんて出来ない…)



短い書置きを残して、私はお手伝いさんにみつからないようにそっと家を出た。


これから先のことはわからない。
どこへ行くのかも、私は知らない。
でも、そんなことはどうだって構わない。
祐也と一緒なら…この先にどんなことが待っていようとも、私には怖れることは何もない。



(すっごい雨…)



暗く厚い雲から、ざあざあと降りしきる雨もなんともなかった。
私の邪魔をしたいのならするが良い。
私は、何も怖くないんだから…



空を見上げ…私は三日前のことを思い出していた。







「馬鹿なこと、言わないで!
私は祐也とは絶対に別れないわ。」

「僕だって、そうしたい。
でも、今回のことでわかったじゃないか。
君のご両親は、絶対に僕とのことは認めないって、そうはっきりおっしゃったんだよ。
……その気持ちがわからないわけじゃない。
君のお父さんは、大手の建設会社の社長さんだ。
僕みたいに何の取り柄の無い男を気に入る道理はないよ。」

「私は、祐也の人柄を好きになったのよ。
お金だとか学歴だとか、そんなもの、私には何の関係もないわ。」

祐也からの別れ話を私は必死にねじ伏せた。
そして、祐也が出した答え…それは、一週間もう一度冷静になって考えてくれとのことだった。
一週間後、私達はある駅で会う約束をした。
もしも、一週間経っても私の気持ちが変わらなかったら、駆け落ちしようということになったのだ。



「祐也、一週間なんて待つことないわ。
今から行きましょう!
行き先なんてどこでも良い!
あなたと一緒なら、私どこへだって…」

祐也はゆっくりと首を振る。



「だめだよ、その間にじっくりと考えてほしいんだ。
わかってるのか?駆け落ちするってことは、君のご両親を捨てるってことなんだよ。」

「わかってるわ、そんなこと…でも、私は…」

「僕にもいろいろとやることがある。
だから、一週間後だ…
それまでは連絡も取らない。」

「そんな……」

祐也が本気だということはよくわかった。
だから、私ももうそれ以上は何も言わなかった。


そして、瞬く間に一週間の時が過ぎ…私はあの日から少しも変わらぬ決意を胸に家を出た。







(早く、祐也に会いたい!)

待ち合わせの時間までにはまだ十分あるとわかっているのに、気持ちが焦る。


一週間も連絡を取り合わなかったことなんて、今までにはなかったことだもの。
早く彼に会いたい!
そんな気持ちが私の頭の中を埋め尽くしていた。



駅はもう目の前。
歩道橋を渡ったらすぐだ。
傘をさすのももどかしい。
本当なら、こんなもの空に放り投げてしまいたい。
でも、そうもいかないから、私は忌々しい傘を持ったまま、小走りで階段を駆け下りた。



「あ…あぁっ!!」



降りしきる雨で足元が滑り、私の身体はバランスを失って、固いコンクリートの階段を転がり落ちて行った…



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