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「どうですか?この方を思い出せますか?」
「いいえ。」
私がそう答えると、私の目の前にいた中年の女性の方が顔を覆って泣き崩れた。
私は歩道橋から落ちて頭を打ったらしく、記憶を失ってるとのことだった。
自分が誰なのかもわからない。
今、目の前にいる二人は、私の両親だと聞いたけど、私には何も思い出せない。
ただ…なにか、とても大切なことを忘れているという…そんな漠然とした想いが私を苦しめた。
だが、それがどんなことなのかは、どんなに考えても思い出せないのだ。
「心配することはない。
記憶なんてすぐに思い出せるからな。」
「そうよ、歩実…
大丈夫、大丈夫だからね…」
両親だとされる二人は本当に優しい。
けれど、私の気持ちは落ち着かない。
なんだったんだろう?
何が私をこんな気持ちにさせるのだろう…?
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