「ごめんな、わざわざ出て来てもらって…
せっかくだからめしでも食う?それとも……」

千絵はただ頷いただけだった。
曖昧な返事だったけど、一応、食事に行くということだろうと解釈して、俺は何度か行ったことのあるイタリアンの店に向かった。
土曜の昼ということで、店はけっこう混んでいた。



「これ、おふくろからの手紙と、お土産。」

席に着いて、オーダーしてから、俺はそれらを手渡した。



「ありがとう。」

「いや、わざわざくだらないことで呼び出してすまなかった。
あ…体調はどうなんだ?」

「う…うん。まぁまぁ…かな。」

「そうか……」

お互いが無理して平静を装って…だけど、気まずい雰囲気はどうしても拭いきれない。
いつもなら、途切れることのない会話が、今日はなかなか出て来ない。
早く料理が運ばれて来ないかと、俺はそればかり考えていた。



ようやく出て来た食事をつつきながら、遠慮しがちにぽつりぽつりと交わされる会話は、やはりいつもみたいに弾まない。



「……じゃあ、そろそろ行こうか。」

食後のコーヒーを飲み干してしまったら、俺にはそう言うしかなかった。
千絵は、それに対してもただ小さく頷くだけだった。







「じゃあ…気をつけ…」
「やっぱり、話してくれないんだ……」


駅について、千絵を見送ろうとした時、千絵がそう言って俺に背を向けた。



「話してくれないって…」

何のことかと俺が戸惑っていると、千絵は目に涙をいっぱいためて振り向いた。



「千絵…どうしたんだよ。」

「直…私、知ってるんだから…!」

「知ってるって、何を…?」

「まだとぼける気!?」

千絵の感情的な大きな声に、俺は思わず手を引いて、駅の近くのベンチに腰掛けた。



「私…知ってるんだから…」

ベンチに座るなり、千絵はそう言って泣き出した。



「だから、何を知ってるんだよ!」

「どうして?どうして、あんた、そこまでとぼけるの!?」

「とぼけるも何も、俺は本当にわからないからそう言ってるんだ!」

俺もだんだん腹が立って来て、思わず大きな声を上げていた。



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