「どうして…どうして話してくれなかったの…
海外赴任のこと……」

「えっ!?」

千絵は真っ赤な目をして俺をみつめる。



「知ってたのか…」

「ひどいよ、どうしてそんな大切なこと、話してくれなかったのよ!」

「話そうと思ったさ!
だから、あのレストランを予約して…」

「えっ…?」

俺は、鞄の中から指輪を取り出した。



「あの日、あのレストランのテラスでパレードを見て…
そこでこれを渡そうと思ってた。
俺について来てほしいって言うつもりだった…
だけど、おまえは行かないって言うから、俺は仕方なくおふくろとパレードを見た…」

千絵は口を開けたまま、ぽかんとしていた。
そのうちに、また火がついたみたいに泣き出して……



結局、千絵は先月から俺の海外赴任のことを知っていたらしく、俺がそのことをなかなか話さないものだから不安や苛立ちで情緒不安定になっていたということだった。
俺は俺で、出来るだけロマンチックなムードでプロポーズをしようと思ってたから、それまでは当然話すつもりもなかったし、まさか千絵がすでに知ってるなんて思ってなかった。



「あんたが柄にもないこと考えるから、こんなことになるんだからね。」

「な、なんだよ、柄にもないとは!
俺は俺なりに頑張ったんだぜ!」

「ばか…!
あそんなこと考えずに、もっと素直に話しててくれたら、私、こんなに悩まずに済んだのに…!」

「おまえがそんなに悩むなんて、そっちの方が柄に合わないじゃないか。」

「失礼ね!」



思い違いはあったものの、その誤解はいとも簡単に解けた。



千絵は、指輪を受け取ってくれたし、海外にもついて来てくれることになった。



「じゃ…帰るか…」

「何言ってんのよ、こんなにお天気が良いんだもん。
どっか遊びに行こうよ!」

さっきまで泣いてたくせに、千絵はそんなことを言う。
すっかりいつものあいつに戻った千絵に、俺は思わず苦笑した。



「あ〜あ…ロマンチックなプロポーズにしたかったなぁ…」

「私達にはこういうプロポーズの方が合ってるの!」

確かにそうかもしれない。



(ま、いっか…)



どこまでも青い空は、そんな風に思わせてくれた。


〜fin.

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