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「ゆ、夕子、どうした!?」
「うん…いろいろあってね。」
家に帰ると、父さんが信じられないものを見るような顔で驚いていた。
きっと、それほど私はよれよれのぼろぼろになってたんだと思う。
「待ってろ、すぐ食べるもん作るから!」
父さんはそう言ってかいがいしく動き回り、温かい鍋料理を作ってくれた。
それは、おばあちゃんが作ってくれた味とそっくり同じで、懐かしさにまた涙が込み上げた。
父さんはそんな私をじっと見てる。
「何があったか訊いてくれないの?」
「……なにがあった?」
私は何もかもすべて父さんにぶちまけた。
「そっか…そりゃあ大変だったな。」
「うん、本当に私って馬鹿だよね。」
「馬鹿は、相手の男だ。」
「……うん。」
何を言われても、何を話しても涙がこぼれる。
「父さん…私…今日、丘で風子に会ったんだ。」
私はそんな馬鹿なことまで話していた。
「そっか、そりゃあ良かった。」
「……信じてないくせに。」
「信じてるさ。
俺も、何度もあそこで風子に会ってる。」
「う、嘘!」
「嘘じゃない。
気持ちが沈んでる時、あそこに行くとな…風子が風と共に来てくれるんだ。
けらけら笑いながらやって来てな。
父さんの心の中の邪魔なもの、私が吹き飛ばしてあげるって言ってきつい風吹かせてな…」
父さんの話に、私は身体が震えるのを感じた。
同じだ…私の時と全く同じだ。
「あいつは春一番に連れて行かれたからか、出て来るのはいつも今頃だけなんだ。
だけど、いつも父さんの傍にいるって…そう言ってくれるんだ。
あいつのおかげで、俺もどれだけ支えられたかしれない。ちっちゃいくせにたいした奴だな、あいつは…」
「風子……」
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