誰もいない丘に座り込み、膝を抱えた。
目を閉じると、葉擦れの音が心地良く響いた。



『風子は風の神様に気に入られて、春一番に乗せて連れて行かれたんだよ。』



まだ幼い頃、妹がいなくなった。
そのことを問いただすと、おばあちゃんはいつも私にそう言った。



『風子は風になって、いつもおまえの傍にいるんだ。
だから、寂しく思うことなんてないんだよ。』



大きくなった私はそれが嘘だということを知った。
風子は風邪をこじらせて肺炎で死んだんだ。
だけど、そのことでおばあちゃんを責めたことはなかった。
その嘘は小さかった私を悲しませないように吐かれた優しい嘘だとわかってたから。



夕焼けの綺麗な時に生まれたから夕子。
風のきつい日に生まれたから風子。
こんな安直な名前を付けたのは、父親だということだった。
私達がまだ幼い頃に母は病気でなくなり、それを追うかのように、その数年後、風子が死んだ。
私は、父親とおばあちゃんによって育てられた。
つまり、おばあちゃんは私にとって母親のような存在だったから、おばあちゃんがいる時はここにも毎年帰って来てたのだけど、私が成人式を迎えた次の年、そのおばあちゃんが亡くなった。
それからここは、ただただ寂しい気持ちになるだけの場所に変わってた。


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