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「着いたぞ。」
「え…?」
ハンナが目を開けると、一瞬の間にあたりの景色はすっかり変わっていた。
風もなく、さっきよりずっと温かくなってることを感じた。
「ここは?」
男はそれには答えず、ハンナに手招きをし、すぐ近くの家に向かった。
ハンナは素直について行く。
「のぞいてみなさい。
大丈夫だ…おまえの姿は今は誰にも見えない。」
「は、はい。」
ハンナは言われるままに、家の中を覗き込んだ。
(あ……!)
温かな赤い火が燃える暖炉の前に、クリフはいた。
あの時と少しも変わらない笑顔を浮かべて……
だが、そこにいたのはクリフだけではなかった。
見知らぬ女性と、そして二人がみつめる先には、おぼつかない様子で這い回る小さな赤ん坊の姿があった。
「……そ、そんな……」
「あの二人は、数年前に木枯らしの森にやって来た。
女の方がほんの少し先だった。
森の手前で何時間も躊躇っていた時に、クリフが来た。
二人は、そのままその場所で二日ほど話し合っていた。
それから、二人は森には入らず立ち去った…」
「……そんな……」
「これからどうする?
もしも、これを見て、まだあの森へ行きたいというのなら、一緒に連れて行ってやるが……」
「そ、そんなこと、急に決められるわけないでしょう!?」
ハンナは感情的な声をあげた。
「ならば、好きなだけ考えれば良い。
私は戻らねばならん。
あ…お前の姿も元にもどす。」
「え…?」
ハンナは慌てて、窓枠の下に身を潜めた。
(あ……)
すでに男の姿はそこにはなかった。
ハンナは、茫然と男のいた場所をみつめながら、あふれ出る涙に肩を震わせた。
クリフの無事を知った安堵感と、失恋した悲しみに、ハンナの涙はなかなか止めることは出来なかったが、それでも、ハンナは立ち上がり歩き始めた。
ハンナの脳裏に、先程の木枯らしの森の光景が思い出された。
暗く寒く冷たい森の枯れ果てた木々…
身を寄せることも出来ず、木々はただひたすらに冷たい風に耐え続け……
(クリフ…お幸せにね……)
小さくなった家を一度だけ振り返り、ハンナは心の中で呟いた。
〜fin.
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