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「うん、やっぱりこっちの方が良い!」
愛香は、早速、買ったばかりの服に着替えた。
今日のライブにはそれを着ていくらしい。
なんとなく私のワンピースに似ている気がするのがちょっといやなんだけど…
結局、架月へのプレゼントは決まらないまま、ライブハウスへ行く時間になってしまった。
ライブハウスの前にはもう長い列が出来ていた。
いつも通り、お客の大半は若い女の子達だ。
あわてて自分の整理番号のあたりに潜りこむ。
それからすぐに開場になった。
愛香は猛ダッシュで最前列に滑りこむ。
私はいつものように少し後ろのあたりに陣取った。
そこでも、私は周りの女の子達の視線に気が付いた。
「雪美ちゃん、今日は気合い入ってるね!
その髪型、大人っぽくて良いよ!」
「あ、真菜ちゃん。
真菜ちゃんこそ、今日もすごく可愛いよ〜」
考えてみれば、見た目の誉めあいなんて今までしたことがなかった。
そんな会話に入れるようなタイプではなかったから。
(すごいもんだ…
見た目がちょっと変わると、いろんなことが変わるもんなんだな…)
やがて、場内の明かりが消え、いつものSEが流れ出す。
それと同時に場内からは女性達の歓声が上がった。
期待と興奮に満ちた熱い歓声だ。
数分後、SEの終了と共に幕が上がりると大きな音がスピーカーから溢れだす。
ステージには真っ白なスモークがまるで天空の雲のように広がり、太陽よりも明るライトが当たり、そこに5人の姿が照らし出された。
「また会えて嬉しいよ…」
わざと潜めた架月の言葉が響き、一斉に発せられた場内からの黄色い歓声が消えないうちに、一曲めがスタートする。
テンポの速いノリの良いナンバーだ。
皆、リズムにあわせ、思い思いに身体を揺り動かす。
私の身体も自然に動き出す。
最前列は、すし詰め状態でヘドバンをしているせいで、まだ始まったばかりだというのに熱気に包まれている。
サビの部分では観客が声を出してステージと掛け合うようになっており、客席に向かってまばゆいライトがあたる。
その時はみんな手を振って「私を見て!」と言わんばかりにアピールをするのだけど、いつものように私が手を振ると、今日は架月がそれに気付いて微笑み、手をふってくれたような仕草が見えた。
(えっっ?!もしかして、今、架月が私に向かって手をふってくれた!?
ま、まさかね…私だってわかるはずがないよね。)
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