17
「きゃああああ〜〜〜っ!!架月〜〜〜っっ!架月〜〜〜っっ!!」
私の隣にいた子が絶叫にも似た声をあげ、飛び跳ねちぎれるほど手を振って、その隣にいた子と肩を抱き合って涙を流している。
(……やっぱりね。
皆、自分に向かって手をふってくれた…とか、目があった…とか思うのよね。
別に特定の誰かを見てるわけじゃないのに…)
それはそれでちょっと寂しいけど、でも、やっぱりライブは楽しい!
大音響の海の中でまるで王子様みたいにカッコいいメンバーを見てるだけで、日常を忘れられる。
こんな人が職場にいたら、毎日がどんなに楽しいことだろう…
こんな人が彼氏だったら、毎日がどれほど輝いて見えるだろう…
みんながそんな妄想を胸に抱ける夢の空間…
いやなことも悲しいこともみんな忘れられる至福の時…
だけど、そんな夢のような楽しい時間はふだんよりもずっと駆け足で過ぎていく。
やがて、切なげなバラードのイントロが流れ始める。
これは、いつもラストの曲…
とても素敵な曲なのだけど、この曲が始まったということはライブがおしまいということなのだ。
それを知っているファンの間には、え〜〜っ…という落胆の声が漏れ聞こえた。
「聴いて下さい。Dreamer…」
架月の甘い声が、沙騎の繊細なアコギの音色に乗って流れ出す。
途中から、そこにベースとドラムのリズムと、キーボードの音が厚みを加えていく。
「夢のシャボン玉、すぐに壊れると諦めないで
君の想いが続く限り、空高く飛ばせるさ
たとえ、どんなに小さな光だとしても、それは必ず君を導いてくれる
何も見えない暗闇の中も、歩き続ければ…光が待ってると信じ続けていれば
必ず、君は光をみつける
風をみつける
さぁ、夢のシャボン玉
広く青い空に放とう
優しい風に乗って、暖かな陽射しを浴びて虹色に揺らめくシャボン玉は
やがて太陽に変わるから…」
(架月……)
私は、自分でも気付かないうちに涙を流していた。
今まではただすんなりと耳を通り抜けていた言葉が、初めて私の心に意味を持って流れ込んできた。
(架月…ありがとう!
架月は今までずっといろんな想いを私達に伝えてくれてたんだね。
なのに、気付けなかった…
わからなかった…
でも、私…今日、やっとわかったよ!!)
その夜は、私にとって最高のライブとなった。
- 35 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
トップ 章トップ