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「とにかく、だ……」

ひとしきり笑って…兄さんが話を切り出した。



「今はそうしよう。
最初から全部を考える必要はないんだ。
今は、とにかくシュウと美幸が一緒にいられることを再優先にしよう。
最低限の荷物だけ持っていつでも出られるように準備しとけよ。
考えてみれば、急に住む所を探すっていうのも無理なことかもしれないし、まずはどこかのホテルに泊まってそこを拠点にして探すことにしよう。
だけど、どのあたりに住みたいかおおまかなことはとにかくおまえ達が決めろよ。
……そうだな。
あと二、三日中には出発しよう。
父さんの仕事があるから来るのは連休だと思うけど……」

その時、不意に兄さんの携帯が鳴った。
携帯の画面を見た途端、兄さんの表情が急変した。



「家からだ。」

そう言うと、兄さんは電話に出た。
俄かに、緊張した空気が流れる。



私とシュウは黙って会話の様子に耳を傾けた。
兄さんの携帯から漏れ聞こえて来るのは、明らかに怒ってる口調の父さんの声。
どうやら、母さんが今回のことを父さんに話したようだ。
それも当然のことだし、予想はされていたことだけど、あの穏やかな父さんが、しかも兄さんを相手にこんなに激しく怒るとは思ってなかった。
兄さんは、興奮した父さんに対してとても冷静に答えてる。



「美幸ももう子供じゃないんです。
数日、ゆっくり考えて、自分なりの答えを出すと思いますよ。」

兄さんのその言葉に、父さんはまたも大きな声で反論してた。
そんな興奮状態の父さんと話しても仕方がないと思ったのか、兄さんはしばらく話した後、冷たく話を打ちきった。



「兄さん……父さん、かなり怒ってるみたいだね…」

「そうだな。
おまえがついていてなんてことだって、かなり叱られたよ。
……父さんにこんなに本気で叱られたのは、もしかしたら初めてかもしれないな。
やっぱり、父さんはおまえのことが可愛くてたまらないんだ。」



その言葉に、私の胸は痛んだ。
父親は娘が可愛いってよく言うけど、父さんは割りと結婚するのが遅かったから、当然、私が産まれたのもそう若い頃ではなくて……
遅くになって出来た子はさらに可愛いとか言うけど、実際、私はけっこう甘やかされて育ったと思う。
そんな父さんを私は裏切ろうとしてるんだから……
私がいなくなったら、父さんがどれだけ心配するかは考えなくてもわかるから……



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