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「美幸…そんな顔しなくても大丈夫だ。
俺がちゃんと話す。
おまえ達のことを認めてもらえるように、俺が必ず説得するし、手紙も俺が渡せるようにするよ。
直接は絶対に出すなよ。
住所がバレたら大変だからな。
……それにしても、あの様子じゃ父さんはすぐにでも会社休んでやって来そうだな。
万一ってこともある……
よし、明日、出掛けることにしよう…
慌しいけど、とにかく数日分の着替えだけ用意して行き先だけ決めてくれ。」

そう言って兄さんが立ちあがろうとした時、シュウが声を上げた。



「和彦さん!」

「なんだ?」

「……本当にそれで良いんでしょうか?
俺のせいで、ひかりやご両親を苦しめることになって…それで本当に良いんでしょうか?」

「良いんだ。
……それに、なにもおまえのせいじゃない。
美幸がそうしたいって思ったんだし、それがおまえや美幸の幸せに繋がるなら……」

兄さんはそんな風に即答した。
迷う様子を微塵も感じさせずに……



「幸せになれると思いますか?
俺と一緒にいて、ひかりが幸せになれるって、和彦さんは本当にそう思ってるんですか!?」

シュウの声はとても緊張したもので…そして、苦しげなものだった。



「俺は、一生、ひかりや和彦さんのお荷物になって暮らさなきゃならない……
一緒には暮らしてもひかりと俺は戸籍上の夫婦にはなれない。
だから、子供が生まれてもその子に戸籍上の父親はいない……
そんなことで良いんでしょうか?
それに……それに、俺はずっと年を取らないはずだ。
ひかりが30や40になっても俺は27歳のままで、もしかしたらそのうち子供よりも若い父親になるかもしれない……
子供は、そんな父親を気持ち悪いと思わないでしょうか?
産まれてきたことを悔やまないでしょうか?」

シュウの話を聞いているうちに、私の心にもシュウと同じように不安が広がっていた。
そうだ…さっきはあんなに笑ってたけど…
実際に子供が出来たとしたらそういうことだって考えなきゃならないんだ。
そうなったら…一体、私はどうすれば……



「……シュウ…
さっきも言っただろ?
いっぺんに先のことを考えたって仕方ないんだ。
まだどうなるかもわからない先のことを考えるから不安になるし、迷うんだ。
今は一つずつ手近な問題をこなしていって、問題が起きたらその都度対処すれば良いんだよ。
子供だって必ず出来るわけじゃない。
仲が良くても子供がいない夫婦は、世の中にはけっこういるんだからな。
おまえが年を取らないかどうかもまだはっきりとわかってるわけじゃない。
すべては推測なんだ。
そんな推測に振りまわされるな。
落ちついて、とにかく今すべきことだけ考えるんだ。」

兄さんの言葉は私の胸にも響いた。
そうだ、今は明日のことだけ考えよう…
兄さんのお陰で私の気持ちも落ち着いた。

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