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「ひどいよ…ボクはこんなに苦しんでるのに、そんな言い方するなんて……
君になんて…君になんて、ボクの苦しみがわかるはずないっ!」
エリオットの感情を高ぶらせた声があたりに響いた。
「あぁ、わからないね。
でも、あんたにだって私の苦しみはわからないだろう!?
獣人との間に生まれ、男達に犯された私の苦しみなんて…!」
「……ジャネット……」
エリオットは、急に我に返ったような顔で、ジャネットをみつめた。
「ご、ごめん……ボ、ボク……」
「あんたが謝ることなんて何もない。
誰だって、他人の本当の苦しみなんてわかるもんか。
だから…自分の苦しみは自分で乗り越えるしかないんだ。」
「ジャネット……」
「……私だって、まだ完全に乗り越えたわけじゃない。
獣人に会うことさえ出来ないんだ。
だけど……少しずつ変わって来られたとは思うんだ。
それは、もちろん、皆のお陰だ。
皆に会えなかったら……私はまだ男の格好をして、世の中を恨んで……今みたいに幸せな日々が過ごせてなかったのは間違いない。
あの時……あんたが魔法を使わなかったら、ダルシャやあんたは殺されて、そうなったら、旅も続いてたかどうかわからないし、私も皆と一緒にいたかどうかはわからない。
いや、きっと、一緒になんていなかっただろうな。」
ジャネットの言葉に、エリオットは瞳を大きく見開いた。
(もしも、ボクが死んでいたら、フレイザーはどうしただろう?
この世界に来たいと願ったのはボクだから、願いを解除することも出来ない。
だから元の世界に帰れないんだ。
第一、ダルシャがいなくなったらお金もないし、ジャネットの言う通り、旅を続けることもきっと難しかっただろうな…)
「……その通りだね。」
「あんたは魔法を悪いことに使ったと思ってるかもしれないが、その魔法によって救われたのはダルシャだけじゃないんだ。
セリナやラスターやフレイザーや、もちろん私もだし、そいつらは生きてたらその後も巫女やその他の人達を殺したかもしれないんだから、あんたの使った魔法は正しい魔法だ。
……少なくとも私にとってはな。」
「ありがとう、ジャネット……
この問題は、もう心の整理がついたと思ってたのに、まだ全然だめだった。
頭ではわかってるのに、いざってなるとこんなにも違うもんなんだね。」
ジャネットは、エリオットに近付き片手を差し出す。
「どういうこと?」
「うだうだ考えてる時間はない。
さぁ、立って。」
差し出された片手にエリオットは自分の手を重ねた。
「それじゃあ……」
ジャネットは、小枝を拾い、その先に落ちていた木の実を刺した。
「良いか、エリオット。
この木の実を狙うんだ!」
そう言いながら、ジャネットは、小枝を自在に動かした。
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