「良かったね。
今日は誰にも声かけられなくて。」

「そうだな。
このあたりまで来たら、もう大丈夫だろう。」

ダルシャは満足そうに微笑んだ。



獣人の住む森への旅は順調に進んだが、唯一煩わしかったのが、行く先々でダルシャに声をかける者がいることだった。
家族にも旅の理由を話さずに家を出ている手前、本人としてはなるべく動向を知られたくないと思っていたからだ。
いくつかの町を過ぎ去っていくうちに、ようやく彼を知る者とは出会わなくなり、ダルシャはほっと胸を撫で下ろした。



「森へもあと少しだな。」

「あぁ、あと数日で着くだろう。
それで……考えたのだが……セリナ…悪いんだが君もジャネット達と町で待っていてくれないか?」

「えっ!?」

「やはり、危険だ。
獣人は人間を酷く憎んでいるという。
そんな所に君を連れていって、君になにかあったら、取り返しがつかない。
もちろん、獣人と話し合えたら、すぐに迎えに行くから。」

「……わかったわ。」

セリナは意外な程、素直に頷いた。







(大丈夫だ…力の加減はシャルロッテさんに教えてもらったし。
うん、きっとうまくやれる。)



エリオットは、散歩をすると行って、一人で近くの山の中に向かった。
周りに誰もいないことを確認すると、エリオットは精神を集中し、呪文を唱える。
しかし、いざ、魔法を発動させようとすると、黒焦げになった悪党達の姿が頭を過り、呪文は虚しく打ち消されてしまう。



(あの時は仕方がなかったんだ。
ボクがああしないと、ボクもダルシャも殺されてたし、願い石も奪われてた…さぁ、もう一度!)



自分に言い聞かせるように心の中でそう考え、エリオットは再び精神を集中させた。
そして、先程と同じ呪文を唱える。



「……やっぱりだめだ……」



エリオットは、がっくりとその場に膝を着いた。



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