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「なんだって!?」
「以前にも似たようなことを相談されたことはあったが、君とはすでに両想いだと言うのに、仲良くなりたいのにその方法がわからないなんて言うのでな。
しかも、私がジャックとは身体の関係はあるのかと訊ねたら真っ赤になって、滝のような汗を流し、しどろもどろになって……」
ダルシャは思い出し笑いに、肩を揺らした。
「ダルシャ、笑うなよ。
フレイザーは記憶を失ってるから、そういうこともよくわからなくなってるんだ。」
「すまんすまん。
あまりにも初心でおかしくてな……
だが……」
ダルシャは、ジャックの顔をじっとみつめる。
「何なんだよ!」
「……フレイザーが君のことを大切に想っている気持ちだけは疑いようがない。
彼は、その……君の過去のことを考え、それもあって、そう簡単に手は出せないとも言っていた。」
「フレイザーがそんなことを……」
「……それだけでもないとは思うがな。
君は相変わらずその格好だし……」
ダルシャの苦笑いに、ジャックは眉をひそめた。
「……わかってるよ、そんなこと。」
「なら、良かった。
恋愛にはからっきしだが、フレイザーは良い男だ。
仲良くやってくれよ。
では、また後でな。」
ダルシャはジャックの肩を優しく叩き、そのまま部屋を後にした。
「……エリオット……やっぱり、この格好じゃまずいかな?」
「え…?
う…うん……まぁ、ちょっと、まずいかな?
まずいっていうか…ほら、もう男の格好する必要はないわけだし……
あ、あのね…もちろん、急には無理だと思うんだ。
だから、少しずつ……たとえば、そのまま髪を伸ばすとか……ローブを着るにしてももう少し明るい色のものにするとか……
フードももう必要ないんじゃない?
ジャックはどこもおかしな所なんてないんだし……ちょっとずつ頑張れば良いじゃない。」
「……笑わないか?」
俯いたままのジャックが低い声で問いかけた。
「え…?」
「……俺が女の格好なんてしたら、皆は……エリオットは笑わないか?」
「誰も笑ったりなんかしないよ!
……そういえば、ジャック……昔はどんな格好してたの?」
「小さい頃はとにかく貧乏だったから、綺麗な服なんて着たことなかった。
炭焼き小屋を出て来た時は、母さんのワンピースを着て出たんだ。
俺が今までで一番綺麗な格好をしてたのは、店で働いてた時だ。
あの頃の俺は、髪も長くて原色の派手なドレスを着てたんだ。
だから……女らしいドレスとか着るの…ちょっといやなんだ。
あの当時のことを思い出すから……」
そう呟いたジャックの横顔に、エリオットはいまだ癒えないジャックの傷のようなものを感じた。
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