「あそこに座ろう。」

ラスターは、木陰の一角を指差した。



「……話ってなんだよ。」

木の根元に座るなり、ジャックはラスターに声をかける。



「……あんなこと、気にすんな。」

「……えっ!?」

「だから、さっきの話……」

「……あぁ……」

思い掛けないことをラスターに話され、ジャックは戸惑う。



「誰の子供に生まれるかなんて、おまえに決められることじゃない。
おまえのせいじゃないんだ。
……もう忘れちまえよ。
そして、他の者にはもう話すな。
世間にはくだらないことを面白がる奴がいるんだ。
……俺もそのことで今までずいぶんと鬱陶しい想いをした。」

「なんでだ?」

「知らないのか?
俺は、ヨギラの傍のスラム街で生まれ育った。
スラムの者だってわかった途端、掌を返すように皆の態度は変わった。
俺がどんなに一生懸命頑張ったって認めてもらえることなんてなかったんだ。
……でも、俺だってそんな所に生まれたくはなかった。
食べるものさえなくて、ボロボロの家に住んで、飲んだくれの父親に毎日殴られたり蹴られたりして育ちたくはなかった……!」

「ラスター……」

話すうちにだんだん感情的になるラスターに、ジャックは落ち着かなくなる気持ちを無理に抑えこんだ。



「……ジャック、自分を責めるな。
おまえは何も悪くないんだからな。
それと……仲間を信じろ。
皆……ちょっと変わってるけど信じられる奴ばかりだ。
……俺な……ものすごい貧乏だったから、子供の頃から金持ちや貴族が大っ嫌いだった。
ずっと憎んでた。
いや、今でももちろん嫌いだ。
なんで、あいつらばっかり良い想いをずるんだって、腹が立って仕方がなかった。
当然、ダルシャのことも嫌いだ!
……だけど……最近になって、気付いたことがあったんだ。
あいつ……俺がスラムの出身だって知っても、少しも態度を変えなかった。
最初からずっとあんな風で……少しも変わらなかったんだ。」

ラスターはさっきとはうって変わり、とても静かな声で呟いた。



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