「……皆、どうかしたの?」

セリナは黙りこくる五人に、不思議そうな顔を向ける。



「あぁ……えっと、ジャック……
イリヤの住む村までは遠いのか?」

「えっ!?あ、あぁ、確かずいぶん遠かった。
な?フレイザー?」

「う、うん、そうだな。
フォスターの反対側にあたるから遠そうだな。
でも、この先の町から馬車に乗れば日数はそうはかからないんじゃないか?」

「そうか、それは良かった。
と、とにかくだな、今日は久し振りに皆が揃ったわけだし、ぱーっといこうじゃないか。
エリオット、ちゃんと食べてるか?
他に何か食べたいものがあったら注文したら良い。」

「う、うん、ありがとう。」

その場の気まずい雰囲気をなんとなく誤魔化して、皆は食事を口に運び始める。
心の中では、皆、セリナに何と言えば良いのかを考えていたが、その答えを思いつく者はいなかった。







「ジャック……起きてるか?」

「……起きてるよ。」



暗い部屋の中に、ジャックとフレイザーの声が響いた。



「……セリナのこと、おまえ、知ってたのか?」

「……まぁな。」

「そうか〜……
なんだか…ショックな話だったな。」

「……俺……」

ジャックは、そのまま口篭もり黙りこんだ。



「どうかしたのか?」

「……いや、なんでもない。」

フレイザーと結婚して自分の分まで幸せになってほしいとセリナに言われたことを、ジャックは言いかけたものの、直前になって言葉を濁した。



(フレイザーはあれから何も言わないけど……
俺のこと、どう思ってるんだろう?
本当に、あのことはなんとも思ってないんだろうか?)



「石の巫女って大変だよな。
そんな力を持って生まれたばっかりに……」

「セリナは言ってたよ。
父親がどんな人かわからなくても、お母さんが自分を愛してくれたのは事実だからそれだけで良いんだって。
でも…俺はそんな風には思えない。
きっと、俺の母さんは……俺を愛してなんかいなかったと思うんだ。
ただ、可哀相だから育てただけだって思ってる。」

「……俺はそうは思わない。」

「だけど、母さんは無理やり獣人に襲われたんだぞ!
あんたにそんな怖さや惨めさがわかるのか!
そんなことで出来た子供を可愛いなんて思える筈ないだろ!」

「……ジャック……」



なんともいえない気まずい雰囲気に包まれ、そのまま朝まで二人が言葉を交わす事はなかった。


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