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「願い事?
カインがこの石に願いをかけたのか?」

カインは黙って頷いた。



「ねぇねぇ、カインは何を願ったの?」

「そ、それはだな…」

「わかったぞ!
素敵な奥さんがほしいとか…じゃないか?」

「な、な、な、なんでわかった!」

カインの驚きようは尋常なものではなかった。



「本当にそうなのか?」

冗談のつもりで言ったことが当ってしまったと知り、当のダルシャは目を丸くする。



「そいつは良いな。
カインもお年頃なんだ…」

脇腹を肘で小突くフレイザーに、カインは仏頂面をして背を向けた。



「そう言えば、カイン。
君のご家族はいないのか?」

「あぁ…おふくろも昨年亡くなっちまったからな。
元々ここには僅かの獣人達しかいなかったんだ。
しかも、子供が出来たのはうちの両親の間だけ。
年月と共に、皆、死に絶え、今ここに残ってるのは俺だけだ。」

そう呟くカインの横顔は、とても寂しいものだった。



「そうだったのか、だから、あんたは嫁さんを…
茶化してすまなかったな…」

「……良いんだ。
親父は亡くなる時に、おふくろと願い石を守っていくように俺に遺言した。
だけど、おふくろが亡くなった後、どうにも悲しくて石に願いをかけちまったんだ。
この願い石はとても大切なもの…仲間になにかあった時に使わなきゃなんねぇものなのに…」

「馬鹿だなぁ…
嫁さんをもらおうとしたのはあんたらの村のためになることじゃないか。
このまま、あんたがここに一人でいたんじゃ、この村は滅んじまうんだから。
あんたの願い事は何も間違っちゃいなかったんだ。」

「フレイザーの言う通りよ!」

皆、口々にカインに向かい励ましの言葉を投げかける。



「カインさん、すまんかったのう…
わしの先祖がつまらんもんを渡してしもうて…」

「そんなことないさ。
俺達はずっとあんたの先祖への感謝を忘れなかった。
あんたの先祖がこうして匿ってくれなかったら、俺だってこうして生きちゃなかったかもしれないんだからな。
ありがとうよ!」

カインとダグラスは、再び熱い握手を交わした。


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