「ばっきゃろー!
死ぬつもりか!」

ナイフを手に二人の元に駆け寄ったラスターを、ダルシャの長い足が蹴りつける。
そのせいで態勢が崩れ、獣人の牙はダルシャの首筋に急接近した。
今にも牙が深く突き立てられそうなその状況に、セリナは両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。



「なぜ、剣を抜かない?
俺に噛み殺されるのが怖くないのか?」

獣人の声がダルシャの耳元に響く。



「怖いさ…それに、私はまだ死にたくはない…」

「ならば、なぜ!」

獣人は興奮したような口調でそういうと、ダルシャの胸倉をつかんで引き上げた。



「それは、君が武器を持っていないからだ。」

獣人はその言葉に失笑する。



「俺のこの爪や牙がなによりの武器だ。
……さぁ、剣を抜け!
抵抗しない奴を殺すのは、私も後味が悪い。」

獣人はそう言い放つと、ダルシャから乱暴に手を離した。
ダルシャは、身体に着いた土埃を払いながらゆっくりと立ちあがる。



「さぁ、早くしろ!」

「……いやだ。」

「何だと?この期におよんで剣を抜きたくないというのか?」

「そうだ。」

「なぜだ?
おまえは剣士ではないのか?
なぜ、剣を抜かない?」

「私は、君と戦いに来たのではないからだ。」

獣人とダルシャの視線がぶつかる。
お互いは無言のまま、相手の瞳を食い入るようにみつめていた。



「……おかしな奴だ…」

獣人の視線が緩み、その顔には小さな笑みが浮かんだ。



「どういうわけでここへ来たのか、話を聞かせてもらおうか。」

獣人は、親指を立て小屋を指し示す。



「ありがとう。
私は…」

ダルシャは片手を差し出した。



「名前ならさっき聞いた。
ダルシャだろう?
俺は、カイン。」

カインは、差し出されたダルシャの片手をしっかりと握り締め、二人はにっこりと微笑みあった。



「さ、あんたらも入ってくれ。」

突然かけられた声に一瞬驚きながら、五人は促されるまま小屋の中に足を踏み入れた。


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