足音を立てないように気を付けながら、一行は移動を開始した。
小屋の前に着いたダルシャは、木々の後ろに身を潜める仲間の方を振り返り、今から突入するという想いを伝えるように、一度だけ深く頷いた。
そんなダルシャに、五人は各々頷き返す。

扉の方に向き直ったダルシャは、息を整え、その扉を力強く叩いた。
すぐにでも戦闘に入れるように、右手は柄の傍に置いて。
ダルシャの緊張が五人にも伝わった。



「……誰だ?」

束の間の静寂の後、扉の向こう側から聞こえてきたのは、低い男の声だった。
中にいるのが人間だとわかったことで、ダルシャの緊張は一気に緩んだ。



「申し訳ありません。
私はダルシャという旅の者です。」

中からの返事はなかった。
しばらくしてダルシャがもう一度ノックをしようとした時、ゆっくりとノブが回り、少しずつ扉が開かれる…



「あ…!」

扉が開かれ、中の人物をダルシャが見たであろう瞬間に、それは唐突に起こった。
中の人物が、ダルシャに飛び掛ったのだ。
相手は長身のダルシャよりもさらに背が高く、しかも、身体つきもずいぶんとたくましい。
ダルシャは一撃でその場に押し倒され、相手はダルシャの上に馬乗りになっている。



「あ!!」

「大変だ!!」

その様子を見た五人も隠れ場所から飛び出し、小屋の傍へ走った。



「わぁ!」

ダルシャの首から肩にかけて、服と肉が切り裂かれ、赤い血の筋が描かれているのをエリオットは見た。



「じゅ…獣人じゃ…!」

ダグラスは放心したように、その男をみつめていた。
小屋から飛び出して来たのは、アルディと同じ狼族の獣人だったのだ。



「やめてーーー!」

セリナはもつれあう二人に向かって泣き叫ぶ。



「ダルシャ、今、助けるぞ!」

剣を引き抜いたフレイザーと、ナイフを手にしたラスターに、ダルシャの苦しげな声が飛んだ。

「だ、誰も手を出すな!」

明らかに劣勢のダルシャは、迫り来る獣人の顔を近付けないように、渾身の力を込めて獣人の肩を押し戻しながら搾り出すような声でそう言った。



「手を出すなって…そんな…」

獣人の狙いは明らかだ。
その鋭い牙で、ダルシャの首筋に噛みつけば、ダルシャは簡単に絶命してしまう。
ダルシャにもそんなことがわからないはずはない。


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