「魔物の森……
そこでは魔法は使えるの?」

「さぁ…詳しいことはわからない。
とにかく、そこには怖ろしい魔物がいて、その森に足を踏み入れた者は誰一人として戻って来た者はいないって聞いた。
だから、私はその森には一切近付く事はなかったんだ。
遠くから眺めることさえ怖かった。」

ダルシャのその表情と口ぶりから、魔物の森が彼の脳裏にどれほど怖ろしいものとして記憶されているかがよくわかった。



「だけど、ダルシャ。
僕達は今までにも危険とされる所に行っては来たけど、なんとかやりすごせたじゃない。
エルフや獣人達も優しかったし…」

「エリオット、今までがそうだからといって、今度もそうだとは限らないんだぞ。」

「そりゃあそうだけど…
でも、今度はフレイザーも少しは戦えるようになってるんだし、ラスターを呼びに行けば良いじゃない。」

「……とにかく、明日、リュシー叔母様に魔物の森のことを詳しく聞いてみよう。
話はそれからだ。」

ダルシャが今すぐに結論を出さない事は、二人にもわかった。



「じゃあ、明日、ゆっくり相談しよう。
明日ならフレイザーも起きてくれるだろうからね。」

そう言って、二人は部屋を後にした。







「いててて…」

フレイザーは出された朝食には手も出さず、頭を押さえこみながら苦しげにうめく。



「フレイザー、大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ。
頭が痛くて割れそうだ。
しかも、気分も悪い…」

「フレイザーさん、痛み止めのお薬を飲まれるとよろしいですよ。」


リュシーは、メイドに声をかけた。
しばらくすると、メイドは食堂に戻り、なにやら小さな黒い粒をフレイザーに手渡した。



「ちょっと苦いけど、よく効くんですよ。」

フレイザーは差し出された薬を口の中に放りこむ。
それと同時に、彼の眉間には深い皺が刻まれ、口角がいびつに下がり、フレイザーは慌てて水を飲み干した。



「に…苦い…!!」

いまだ消えることのない苦さを消すためか、フレイザーは目の前にあったパンを口の中に押しこんだ。


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