157、いつか、海賊の高みで。


「今朝はこれだけかァ!?」
「おかわりぃぃいッ!!」

喫食開始から3分。
賑やかな声が、まだ朝の静けさの孕む一帯に響く。空になった食器をスプーンでカンカン鳴らし、おかわりを要求するウソップとルフィにイラッときたサンジは紫煙を吐きながらふたりの顔に蹴りを入れて黙らせた。

「贅沢言うんじゃねェ! カロリーは十分だ!」

顔全体に広がっていく痛みを緩和させるようにさすりながら、ルフィとウソップはむくりと体を起こす。隣を見ればあぐらをかいたゾロがもくもくと食べ進めていた。脚の上のお皿にはまだ半分以上骨つき肉も炒飯も残っていて、ルフィはきらりと目を輝かせる。
気付かれないようにそっと手を伸ばし、肉の骨を掴んだ瞬間「ルフィてめェ!」とゾロの怒号が響き渡る。それでもルフィは知らんぷりして、口にお肉を隠すからゾロの怒りはまたたちまちと募っていく。

その間、ウソップもサンジに反撃をしていて、ポケットに手を突っ込んで立っている彼の長い脚に蹴りを入れていたのだが、「てめェもうねェって言ってんだろうが!」とまた強く蹴り飛ばされてウソップはばたりと伸びてしまった。
隣ではゾロとルフィが掴み合いの喧嘩をはじめて、食事中だというのに砂埃が巻き上がる。

彼らから離れた高い岩の上に腰を下ろして食事を摂っている女の子たちは、早朝からの食べ物争いに眉を寄せてみつめている。けれど、ナミはすぐにすっと大きな瞳を伏せて口にお肉を運んだ。

「飽きないわねえ、ルフィくんたち」
「どうして毎食毎食こうなるの…?」
「目を合わせちゃダメよ」

はあ、とため息をこぼしたアリエラの隣でビビは食べる手を止めて彼らを俯瞰していると、お肉を飲み込んだナミがそっと警告してくれた。まるで動物だわ、とビビは思う。目があったらご飯を奪われちゃうなんて。

砂漠ではカロリーも滋味のあるご飯も何より大事なエネルギー源。これを奪われては比較的穏やかである午前の旅にも支障が出てしまうから、ビビはナミの警告通りにふいっと目をそらして、自分たちが座ってる岩よりも上段岩に腰を下ろしているエースを見上げる。
彼もちょうど今完食したようで、リュックの中から白ナプキンを取り出してお皿を綺麗に拭きはじめた。

「見て、エースさん。食べ終わったフォークとお皿を拭いてるわ」
「わあ、すごい。しっかりしているのね」
「ほんと。違うわよね…出来の悪い弟とは」

ビビとアリエラに、ナミも咀嚼を続けながら大きく頷いた。兄の礼儀のある動作に反して弟は今もゾロと喧嘩を続けている。
もう同じ船に乗ってから月日も経つことだし慣れてはいるが、でも気がかりなのは気がかりだ。食事くらいゆっくり楽しみたいと思っているが、この願いはこの船にいる限り届かないだろう。

完食し、サンジが入れてくれたモーニングティーを飲みながらナミはもう一度エースを見上げる。相変わらず丁寧に食器を拭いている様子には感心するが、後ろにチグハグな面を感じてこくりと紅茶を喉に通した。

「あの礼儀正しい性格からじゃ信じられないわよね…。エースの首に桁外れの懸賞金が懸けられているなんて」
「エースさん賞金首なの?」
「そっかあ。エースさん、あの白ひげ海賊団にいるんだものね」
「ええ。確か、世界中の海賊狩りがよだれを垂らすくらいの金額が懸けられてるって噂よ」

あの情勢には疎いゾロが覚えているくらいだ。我らが船長ルフィの賞金額にも驚愕したのに、きっとそれを遥かに凌駕する金額が彼には懸けられているのだろう。
アリエラも紅茶を啜りつつ、エースを見上げてみる。同じように食後の紅茶を飲みながら穏やかな表情を浮かべている彼からはとても想像つかないけれど、先日見た強さはやはり東の海では拝めないほどの脅威だった。

「白ひげ海賊団 火拳のエース。その名を聞けば海賊たちが恐怖して逃げ出すとも聞いたわ」
「へえ、すごい…」
「じゃあ、そのエースさんが追っている黒ひげも相当上手な海賊なんでしょうね」
「黒ひげ、仲間殺しの裏切り者…。どこまでも探し見つけ出すつもりね」

海賊にとって最もタブーである行為を黒ひげは犯してしまった。王女であるビビは海賊の掟というものをほとんど知らないけれど、それでも耳に挟んだことはあるほどに仲間殺しは由々しい事件なのだ。麦わらの一味はいい意味で海賊みを感じないから、同じ“海賊”なのにエースはどこかずっと遠い場所にいるような錯覚を覚えてしまう。
あの穏やかな表情の裏にはきっと大きな怨恨を抱いているのだろう。その大きさは計り知れず、三人とも彼からそっと瞳を逸らした。

女性陣が食事を終わらせた頃には遅れて食事を摂っていたサンジも食べ終わっていて、乾いた調理器具などをリュックに丁寧に入れていっている。アリエラが焚き火に砂をかけて火を消し、ウソップたちがテントを片付けている頃になっても、ルフィとゾロの喧嘩は続いていて、「いい加減にしろッ!」とナミが強くゲンコツをお見舞いし、ゾロが朝食の残りをかき込むと一味はようやく砂漠の旅をスタートした。

朝を過ぎるとどんどんじんわりとした暑さが肌に絡み付いてくる。
もう四日目の旅になるが、未だ砂漠気候には慣れず、連日の横断に異常な体力を持つゾロもサンジも額にじっとりとした汗を浮かべ、眉間に皺を寄せつつ歩き進めている。


「あああぢィ、」
「…またはじまった」

毎度おなじみになってきたルフィのどろけた声に、マツゲの上でナミはへにょりと眉を垂らす。ルフィのこの声を聞いているだけで毛穴の奥から汗が噴き出るようだ。
後ろのビビはさすが砂漠の国出身。堪えている様子はなく、ルフィのだらけた姿に笑みさえ浮かべている。

「もーだめだ、飲む!」

ふん、と立ち止まったルフィは下げていた水筒のキャップを開けて勢いよく傾けた。こぽこぽ音を立ててルフィの口の中に流れていく水は涼しげで、ゴクリと飲み込むと幾分か表情を楽にさせた。

それから10分後。またぐっと立ち止まり、水をごきゅごきゅ飲むルフィにウソップが何か言いたげな目を向けている。船長の虚ろな瞳は徐々に光を宿していくが、ぷはっと口を外した瞬間、傾けていた水筒から水が少しこぼれてしまってウソップの怒りに火がついた。

「あああーーッ! オイ、やめろ!」
「ん?」

彼の手からばっと水筒を奪うと、その衝撃でまたちゃぽんと水が揺れて砂の上にこぼれる。この焼けつくように熱い砂の上に垂れた水は湯気を立て、瞬時に乾いて消えていく。

「ったくこんなにこぼして贅沢な!」
「いいじゃねェか。エースがいっぱい持ってきてくれたんだしよ」
「見てりゃあお前な、さっきからグビグビと。いくら水があるっつったって、この先どうなるかわからねェんだぞ?」

水筒の中を覗き、小言をこぼすウソップにルフィはむっすりと腰に手を当てて聞いていたが、隣で立ち止まっていたサンジの手元を見て、その目をすうっと細めた。

「コイツも飲もうとしてるぜ」
「ん? あ、サンジ!」
「違ェよ。これはな、レディー達に『喉が乾いたわん』と言われた時のために持っていくためのお水だよお

手に持っていた布製の水筒に頬擦りをしながら、サンジは前を行くマツゲの尻尾を追いかけていく。

「ナミすわぁんっ、ビビちゅわあんっ! お水はいかが?」
「今はいいわ」
「私も」

ハイテンションなサンジとは正反対に、暑さにぐったりしながらナミとビビは首を振る。こう暑いと水を飲む気にもならない。拒否をするとサンジは押し付けることなく、「また欲しいとき言ってね」と愛とともにめろっと言葉を投げた。

そして、次にひとりでちょこちょこ歩いているアリエラの元へと駆けていく。こんなにも暑いのによくもそんな軽やかに動けるわ。なんて、ナミはサンジに呆れつつも、そろそろアリエラと交代しようかしら。と思案を浮かべた。

「アリエラちゃん」
「…あ、サンジくん」
「ごめん、何か考え事してた?」
「ううん…うん」

眉を下げて訊ねるサンジにアリエラは首を振りかけたが、迷ったのちに首肯する。
それにサンジは今朝のことを思い出したのか神妙な顔つきになったが「違うの」とアリエラがすぐに見せた笑顔に、そのかわいい眉は緊迫を解いた。

「砂漠を全身で感じ取っていたの。この国を救ったあと、この素敵な砂漠を描いてみたいなあって」
「そっか。アリエラちゃん、全身を使って絵を描くもんな。きみの絵を見ているとその時の心情や感情、匂いに風の吹き方までリアルに想起させられて…。芸術を言葉で表すのは難しいけどさ、ただただおれの心が揺さぶられるんだ」
「わあ……嬉しい」

前にゾロからもそんな言葉をもらったことを思い出して、アリエラはふっと心がまあるくなるのを感じた。サンジくんもわたしの絵をみてゾロと同じ印象を抱いてくれているんだ…。
双方から伝わってくるのはお世辞でもなく、作った話でもない。本当の本心で、それはアリエラが作品に宿し、最も感じ取ってもらいたいもののひとつだった。
どうしたら作品に命を吹き込めるだろう。そう悩み始めて模索している最中だったから、すこし光が見えた気がして、アリエラの表情は華やいだ。
サンジもにっこり優しい笑みを浮かべて、彼女に水を手渡す。考え事をしていたから喉が渇いていたのだろう。お礼とともに受け取ると、アリエラはそれをこくこく喉に通していく。

「そんな絵を生むアリエラちゃんの手を先日神の手っておれァ言ったが、手だけじゃねェよな。その全身を隈なく使って描いているんだから、アリエラちゃん自身が神なんだ。そうだ。こんな美しいレディが女神じゃねェはずがねェ!!」
「うふふ。サンジくんって急にお話が飛躍するから面白いわ」
「あ…ああ……このクソ暑い中、それを厭わずまるで春の陽光のような女神の微笑みを浮かべているアリエラちゃん…なんて、なんて美しいんだ……。汗だくのおれの心も綺麗さっぱり洗われるようだ、」

くすくす笑い声を立てるアリエラにサンジはぽっとしている。半分ほど飲み干すとキャップを閉めて彼の手のなかに戻すと、しっかり受け取りはしたがまだぽんやりした心地からは帰ってこない。
「サンジくん?」と彼の目の前で手を振るが、「ほっとけ」とゾロにボソっと言われたためアリエラが進みはじめると目の前の春が消えてサンジはようやくこちらの世界に戻ってきた。
そこでみんなも進み始めたことに気がつき、サンジも遅れを取らぬよう足を動かしはじめた、その時。背後に嫌な気配を感じて反射的に手にしていた水筒を見えない位置に持ってくるが、もう遅かった。

「おれにも飲ませろ!!」
「うわッ、寄せバカ!」
「ルフィ! こぼれるっつってんだろ!!」

気配に気づいた瞬間回り込まれていて、がしっと力強く水筒を取られてしまった。咄嗟にルフィに怒りを向けるが、彼は躍起になっているみたいで手を離してくれない。後ろから怒りを荒げながらウソップも駆けつけてくる。
やいやい喧嘩をはじめる三人をじっと見つめ、ゾロは後ろで横たわっているチョッパーに水筒を揺らしてみせた。

「お前も飲むか?」
「ありがとう…。今は大丈夫さ」

目を垂らして気だるそうに答えたチョッパーにゾロもふっと笑い、一口だけ口に含んでリュックにしまう。

「ルフィ、おいコラッ! レディの水がこぼれるだろうが!!」
「おれにもよこせ!」
「待て待てこぼれちまうってお前ら!」

喧嘩はヒートアップし、三人丸まってぽかぽか殴り合い蹴りあっている。この地獄の釜のような暑さのなか、よくそんなにも無駄に動けるものだ。彼らの底知れぬ体力に女性陣はゲンナリして、見ているだけでじっとり汗ばむから待つことをやめて前へと進んでいく。


それから数時間後。岩場で昼食を済ませたクルーは、一時間休憩してからまた灼熱の大地を歩き進んでいた。ナミとビビも今はマツゲから降りて、アリエラと並び歩いている。
ぽつぽつ話をしながら砂を踏みしめていた彼女たちは、けれど後ろに気配を感じなくなってはっと足を止めた。まさか、逸れてしまったんじゃ…。ビビがそんな不安を胸に抱いたとき。

「レディーたちぃぃ

後ろからサンジの甘ったるい声が響いてくるりと目を向けると、手に持っている巨大な甲羅にナミたちは目を点にして数歩後ずさる。
もしかしなくても、あれは──。

「今仕留めたばかり! 新鮮で美味しいよ
「うえぇぇぇえ!!??」
「毒は抜いたからご安心を

メロリンとハートを飛ばすサンジに対して、三人はドン引きの声を砂漠いっぱいに響かせた。ソプラノを重ねた三人にサンジはこんがり焼けた甲羅を抱きしめたまま、あは?とキョトンとしている。

「この砂漠のエビ、うめェんだ! おまえらも食えよ! アリエラ、おまえの好きなエビだぞ、エビ!」
「エビじゃねェ、サソリだろ!」
「あのお嬢はこんなもの食わねェよ」

見てみれば、ナミ達の立っている場所から数メートル離れたところで急遽宴が繰り広げられていた。どっかり腰を下ろした彼らの周りにはエビならぬ巨大サソリの殻が散乱していて、男性陣はみんな頬をぱんぱんにして咀嚼している。
呼ばれたアリエラは蒼い顔してぶるぶるからだを震わせているから、ゾロはほらな。と笑った。

「ぶはァーッ! もー食えねェっ」
「じゃあおれもらっていいか?」
「こっちにもあるぜ、チョッパー」

殻の上にどっぷりと膨らんだお腹を預けて項垂れるルフィの隣で、チョッパーは目を輝かせてウソップからおかわりの殻を受け取った。メラメラの実で瞬時に焼き調理したエースが柔らかな笑みを浮かべて見つめている。

そんな彼らの様子にナミの怒りはぐんぐん募っていって、蒼白から朱に染め切ると、

「あんた達いい加減にしなさいよッ! 行くわよ、アリエラ、ビビ!」
「し、信じられない…」
「……ああ、う、」

真っ青なまま瞠目しているアリエラと猛毒の恐怖にあわあわ震えているビビに声をかけて、ナミは怒った足取りで前へと進んでいく。
「怒ってるナミさんかんわいいなあっ」とメロメロしてるサンジは相変わらずだけれど、女性陣の怒りを全く理解できない他のメンバーは不思議そうに後ろ姿を見つめて。

「なぁに怒ってんだ?」
「さぁなァ

ルフィののほほんとしたたずねにウソップ達は咀嚼しながら声を重ねた。



男性陣はサソリを完食するとすぐさまナミ達の後を追っていく。
走り続けるとすぐに追いつけて、ホッと安堵した。その頃にはナミの怒りもアリエラの戸惑いもビビの慄きも浄化していて、さっきまで燦々と輝いていた太陽も今は温度を失いつつ、でもオレンジ色のぬくもりをたっぷりと纏い、砂色をきらりと茜色に染め上げている。
夕暮れの砂漠は夕暮れの海原とよく似ている。暖かな光に反射してキラキラ輝くそれらは、自分たちの帰る道のような気がするのだ。

夜の拠点となる岩場に着いた時。エースがルフィたちに声を投げた。それには別れの色が込められていて、誰もが言葉なく彼が告げようとしたことを瞬時に理解する。
リュックを背負い、テンガロンハットを被り直す。その姿をじっと見つめ、ルフィは瞬きを数度強く繰り返した。

「…本当に行っちまうのか? エース」
「あァ」

幼い故に素直にことばをこぼせるチョッパーが瞳を震わせながら訊ねると、エースは口角を持ち上げて頷いた。まっすぐ伸びた先にある町は、この大岩場を拠点にして東西に分かれている。ルフィたちの向かうユバの町は反乱軍の拠点となっていて黒ひげの目撃情報を聞くにはむずかしく、エースはユバとは逆方向の町へと赴くことに決めたのだった。
そちらは海にも面しているため、ビビ曰く多くの情報を聞けるという。

横並びになった一味は船長の兄の姿をじっと見つめていた。
背中には大きな夕陽を背負っていて、全身がオレンジ色に包まれている。
クルーの真ん中に立っているルフィを見つめ、笑みを浮かべるとエースはポケットから一枚小さな紙切れを取り出して、弟にひょいと投げ渡した。

「ん?」
「ルフィ、そいつを持ってろ。ずっとだ」
「なんだ? ただの紙切れじゃねェか」

ルフィの指が摘んでいる紙をクルーが囲ってじいっと見つめる。ノートの端っこを切り取ったようなそれは特段意味があるようには見えないけれど…。

「その紙切れがルフィとおれをまた引き寄せるんだ」
「へえ…」
「いらねェか?」
「いや、いる」

大まかな説明だけにこれが何を意味するのかさっぱりだが、広い海の中、兄との繋がりがこの紙切れ一枚に込められているのだと思うとそれを捨てるという選択を選ぶ理由はない。じいっと見つめて、ルフィはそれをポケットにしまうとエースは満足げに微笑んだ。

「出来の悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ。お前らもこいつには手焼くだろうが、よろしく頼むよ」

出会った時のようにもう一度深々と頭を下げるエースに、ルフィ以外の一同もつられて頭を下げる。頭を持ち上げるのと同時に、エースはルフィの黒い虹彩を見据えてそっと眉を寄せた。

「ルフィ。次会う時は海賊の高みだ」
「…おうっ!」
「来いよ、高みへ」

交わるは、兄弟同士の新たな約束。背中を追いかける弟の姿を愛しむような眼差しをルフィに向けていたエースは、ふいっと視線を高い場所に移した。
逆光に目を細めながらもクルー達もつられて後ろを振り返る。砂漠のずっと向こう側には蜃気楼が生まれていた。景色がゆらゆらとおぼろげに揺れているのが目にうつる。
ぼやける視界はまるで陽炎みたいだ。

「あっ、」
「あれ、エースは?」

ルフィとウソップが最初に目を逸らし、エースに視線を向けたがつい先ほどまで目の前にいた兄の姿はもうどこにもなかった。二人の声に反応し、ナミ達もくるりと体を戻す。
まるで蜃気楼に包まれたかのように姿を消し、高みへと行ってしまったエースの残像をまぶたの裏で確かめながら、「火拳のエースか…」とサンジが低くこぼす。

「…行っちまったな」
「さようならできなかったわね、ルフィくん」
「ああ。でもまたすぐに会えるさ」
「そうね。きっと…」

ゾロとアリエラのことばににかっと笑みを浮かべながらルフィは大きく頷き、頭の後ろで腕を組む。ナミも首肯しながらまるで彼のような暖かさを持つ斜陽を眺める。
男の別れに涙の一つもあってはならない。弟たちから姿を消したエースは岩陰で彼らの様子を確かめ、そっと目的の町へと歩き始めた。
そんな彼らの姿を、地平線に沈む夕陽だけが静かに見守っていた──。


TO BE CONTINUED 101話



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