156、薔薇の約束


後ろの方にうっすらと見えていたイドの村が完全に砂けむりに隠れたところまで進み、ようやくルフィたちはあげていたペースを落とした。
誰もがへろりと舌をだし、荒い息をこぼしている。大きく息を吸い込むと、喉から肺にむっとした空気がまとわりついてルフィは咳き込んだ。

「アリエラさん。変わるわ」
「はあ…、はあ、ありがとう…ビビちゃん」

長距離を走り続けて流石に疲れたアリエラはしゃがみ込んで呼吸を整えている。それを見たビビはマツゲから降りたって、アリエラと交代した。マツゲはアリエラを見てメロリンと目をハートに変え、嬉々として尻尾をふり迎えている。
ナミの手を借りながら乗り上がると、ほっと一息つけてその身体をぐったりともたれに預けた。

「ね、気持ちいでしょ? アリエラ」
「ええ、とおっても。すごいわ。こんなにも視界高かったのね」

振り返り笑みを浮かべたナミにアリエラも頷いて景色を見回した。
さっきまで自分よりもずっと高い位置にあったゾロやサンジの顔も視線を下げなくてはならないほど、マツゲの背中は高くて心地がいい。心なしか、風もわずかに涼しく感じる。
ふう、と胸元をつまんでぱたぱたと動かし肌に風を送るとすこし汗の引いていくようだ。

「なあアリエラ。風出してくれよ、風」
「そうだ、アリエラ! おれたちを仰いでくれ

その姿を見てそういえば、とアリエラの能力を思い出したみたいでルフィとウソップが懇願するが本人は困ったように眉を下げて首を振った。

「いやよ。体力消耗しちゃうもん」
「なんだよケチーー!!」
「てめェらコラァッ!! アリエラ様に対してなんだその言い草は! 歩いてりゃ汗も引く! 我慢しやがれ!」

声を揃えて唇を尖らせたルフィとウソップの脳天にサンジの強烈な踵落としが入った。
ぐわんぐわんと倒れ込む二人を叱責する彼を横目で見つつ、エースは帽子を手で抑えつつアリエラを見上げる。

「能力者なのか? アリエラ」
「ええ、一応。“ロゼロゼの実”っていうのを食べたの。光の衝撃波と風を生む能力みたいなんだけど…わたしにも詳しくは分からなくって」
「…へえ、ロゼロゼの実。…なあ、アリエラ。その実どこで食ったんだ?」
「わたしが通っていた女学院で。半年前にお師匠様…えっと、わたしの先生が食べるようにって下さったの」

それはオレンジの町に飛ばされる二週間ほど前、まだエトワールとして毎日忙しく活動していた頃のこと。

『ここまで本当に…よく頑張りましたね』

人気のない部屋に呼び出され、先生であり育ての母でもあるディオーネに薔薇の実の形をした果実を渡されたアリエラは、ご褒美だと受け取り、彼女の従うままにそれを口にした。けれど、口内いっぱいに広がるドブのような味はとても褒美ものではなく、そのまま吐き出してしまいたくなったが、涙を流しながら必死に飲み込んだのを今でも覚えている。
穏やかで温もりのある笑みと祝福の言葉と共に手渡されたものとは思えないほどにまずくて、それからは力を失ったみたいにアリエラは5日間ほど寝込んだそうだ。

その寝込んでいた間の記憶は当然ないけれど、悪魔の実の味は今でも強く印象に残っている。口内に蘇る味に吐き気を感じて口を押さえるとサンジが心配そうにお水を差し出してくれたが、首を振って断った。

「悪魔の実って死ぬほどまずいの。もうあんなひどい味他にないってくらいに。ねえ?」
「あー! すっっっっげェまずかった!」
「おれも…、うう、もう二度と口にしたくねェ味だ、」
「おれもなんでも食うタチだが、あれだけはもう勘弁だな」

アリエラの尋ねに、能力者であるルフィとチョッパーとエースは血相を変えて頷いた。なんでも美味しく食べるルフィでさえ、思い出しただけでブルリと震え上がったから相当まずいのだろう。

「どんな味がするんだ? ルフィがいうってことはよっぽどだろ…? ああ、おれァ絶対口にしたくねェ
「なに、そんなにもまずいの? 悪魔の実って」
「へェ。良薬口に苦しってやつか? おれちょっと味わってみてェな」
「やめておいた方がいいわ、サンジくん。あなたの大切な味蕾が狂っちゃう!」
「えええっ、アリエラ様が、お、おれの舌の心配をしてくれてる…ッ、」
「もうとっくに狂ってんだろ。ヤニ中だしよ」
「あァ!? アル中剣士に言われたかねェよ!」

またぎゃいぎゃいしっぽを立てるゾロとサンジにナミは呆れてため息だけをこぼした。この暑い中、よくそんな引っ付いて顔近づけて歩けるわね。と逆に感心すらしてしまう。その後ろでアリエラは楽しそうにふたりを見て笑っている。

じいっとアリエラを見つめているエースに喧嘩中の二人は気がついて、ぴたりと言い合いをやめてそちらに目を向けた。

「おいおい、お兄さん。まさかあんたもアリエラちゃんに…、」
「…あんた“も”?」
「あっ、いや…、その…」
「ったくなに照れてんだ、てめェは。そんなんだからアリエラに振り向いてもらえねェんだよ」
「う、うっせェ!! つーかよ、おめェそんなでけェ声で言うんじゃねェよ! 聞こえちまうだろうが!」

ニヤリと口角を持ち上げて意味深に尋ねるエースにサンジはぽっと頬を赤くしてわたわたするから、ゾロが辟易するとより赤みを増した顔で批判を入れた。その姿がゾロの瞳には不快に映る。なァにがラブコックだ。と鼻で笑いたくなる。
本命相手だと可哀想なくらいに赤くなって、もじもじしてしまっている。先日に出会ったばかりのエースにも見抜かれているというのに、彼の口からまだしっかり「アリエラちゃんのことが好き」と聞いていない。それに対してもまたゾロの胸をむっすりとさせる。
けれど、同時に安堵する部分もあった。こんなウブな彼だからアリエラはサンジの気持ちに何一つ気づいていない。おそらくすこし特別みを出しても、「女好きのサンジなら誰にでもそう甘い言葉を吐くだろう」とそう受け取り、そこに恋を感じないだろう。
だから優位に立てるし、アリエラを振り向かせるのもサンジに比べたら希望を持てると、ゾロは思ってしまう。

男二人の恋模様をエースはちょっと興味深げに見つめて、目尻を下げた。
白ひげ海賊団は女性禁制となっている。だから同じクルー同士が恋のライバルになることが珍しいもので感心すらしてしまう。
海賊船に恋人や夫婦を乗せたらその船は海に嫌われ呪われる。と聞くが、耳に挟んだ話だとあの海賊王の船にはかつて夫婦が乗っていたことがあったらしい。それでも海の王になれたのだ。果たして、その結果から生まれたものものがよかったものか。と聞かれたらどうだろう。
ふっと苦笑をして、ふたりがお熱な少女にもう一度視線を向けた。

「アリエラ。その実の名をあまり人に言わねェ方がいいぜ」
「え、ロゼロゼの実?」
「あァ。おれも詳しく知ってるわけじゃねェんだが、オヤジ…白ひげ曰くそいつは“ワケアリ”の実のひとつらしい。政府側の人間には言わねェ方が利口だな」
「そういえば…レディにもそんな注意を受けたような…。悪魔の実のことを喋る機会なんてないからすっかり忘れちゃってたけど」
「おいおいアリエラ。お前の先生が釘を刺したってことはなんかあるってことだろ? 忘れんなよな」
「えへ、
「ああっ、クッソかわい……ッ、

ウソップの咎めに、アリエラはにこりと笑みを描いて舌を出した。その姿にサンジは悶えるような反応を見せ、ぎゅうううっとこぶしを作っている。

「でも、ありがとうエースさん。これからはしっかり気に留めておくわ」
「ああ、それがいい」

ぺこりと頭を下げるアリエラにエースは笑って頷いた。
「ロゼロゼの実。聞いたことないけど」と不思議そうにナミは首をかしげるが、あの白ひげが云うならそうなのだろう。「気をつけなさいよ、あんた」とすこし抜けてるアリエラに念を押すと彼女は笑顔で首肯した。


それから砂漠をある程度渡り、大きな岩場の塊を見つけるときりよく日が暮れてきたため、今日の砂漠の旅にビビが碇を下ろした。
昨日は船で眠ったから砂漠にテントを組むのがどこか懐かしく感じる。焚き火を囲い、夕食を終えると、まだ9時にもならないが体力を備えるため早めの就寝を取ることにした。男女別れてそれぞれテントで一夜を過ごすと、今朝もまた美しい朝日が砂の大地をたっぷりと照らしていく。

薔薇色の陽光がキャラメル色を明るくしていく光景は三日目でも新鮮にサンジの瞳に写り、凍える寒さに身を震わせつつも、いい気持ちで朝食の準備に取り掛かる。
まるでアリエラちゃんのような光だな。夜明けの光にそんなことを思い、ふっと口角を緩めるとテントの開く音が聞こえた。視線を動かしてみると、アリエラがテントをくぐり抜けサンダルを引っ掛けている姿が飛び込んで、サンジの胸をどきっと高鳴らせる。

「アリエラちゃん。早いね、おはよう」
「ふわあ、おはよサンジくん」
「あはは、あくびしてる姿もまた可愛いなあ。おねむなのかな? いやそりゃそうだよな。まだ5時過ぎたばかりだぜ、アリエラちゃん」

焚き火の前にそっと腰を下ろしたアリエラに、サンジは毛布をかけてあげながらうっとりとこぼす。まるで夢を見ているみてェだ。そう思った。
幻想のような薄光りは、女神の羽織るシルクのようにアリエラの肌を撫でている。そのおかげで霞んで見えて、彼女が幻に見えた。朝の静けさのなか、たったの二人っきりという好機を無駄にしたくなくって、消えてしまわないようにアリエラの腕をやさしく掴むと彼女は驚いたように青い目をサンジに向けた。
はっとして、その細腕を離す。

「ふふ、どうしたの? サンジくん」
「ご、ごめん。急に触ったりして」
「全然いいけど、なにかあった?」
「いや…。この淡い光に包まれてるアリエラちゃんがあまりにも美しくて…消えてしまいそうだったからつい、」

触れた彼女の体温が手のひらでじんわりと満ちていく。逃さないように、指で閉じ込めると目の前のアリエラが光を離し、くっきりとそこに座っていてホッと胸を撫で下ろす。
時々、彼女には不思議な力がある。とサンジは思っていた。それは言葉にはできないオーラみたいなもので、彼女は内側の光を持っているからそれに照らされてそう見えるのかと思っていたが、昨日エースの言っていた話を聞くと彼女がおさめている悪魔の実にそう感じさせる力があるのではないか。と窺ってみる。けれど、オーラは目に見えるものではないし、見えたとしてもその答えを持ち合わせていないサンジには掬えないことだ。

透視じみた視線を逸らし、アリエラのマグカップに熱々のジンジャーティーを注ぐ。
砂漠の朝は凍てつく寒さを孕んでいる。白い息を吐いているアリエラにそれを手渡すと、彼女はぱちりと思考を弾けさせて笑顔を取り繕い、受け取った。
その表情に、サンジはああ。と心のなかで愛憐に似た感情を転がした。ついさっきまで考えていたことをアリエラも頭の中で思考を回していたのだ。きっとだから深く眠れずにこんな早起きをしてしまったのだろう。

チキンを煮込んでいる火に薪を投げて、より炎をあげるとサンジは自分のマグカップを手に取ってアリエラの横に腰を下ろした。

「隣、いいかな?」
「うん。いいにおいがするね」
「今朝のメインは骨つきチキン煮込みだよ。腕によりをかけたから楽しみにしててくれ」
「えへ、楽しみ。サンジくんのごはんを食べるとね、幸せな気持ちになるの。何があってもサンジくんのごはんを食べるとニコニコでいられるわ」
「そりゃあ光栄なお言葉だよ。おれのメシを食って、幸せになってくれてるなんて。料理してよかったなァってつくづく思うな。特に、アリエラちゃんはすっげェ美味そうに食べてくれるからおれもそれだけでニコニコでいられるよ」
「ほんと? わたしもサンジくんの力になれてるのね。ふふ、よかった」

こっくり紅茶を飲み込むアリエラに目尻を細めて、サンジは両手でマグカップを包み込む。

「おれだけじゃねェさ、アリエラちゃんはみんなの光だよ。アリエラちゃんはさ、一切嫌な言葉を吐かねェだろ? おれ、そこもすげェなあって思ってるんだ。無垢で純粋で綺麗な心を持ってて。きみはまるで女神の、天使の生まれ変わりなんじゃねェかなっておれ本気で思ってるんだぜ」
「あはは、そんないいものじゃないわ。わたし」
「それは主観的に自分を見ているからだろうね。おれ達からすれば、きみは癒しの存在なんだよ。その場にいてくれるだけで心が安らぐんだ」
「んそうかなあ。でも、サンジくんにそう言ってもらえるのは嬉しいわ」

照れ臭さを弄ばせるように、アリエラはサンダルのつま先で砂を掘ったり突いたりしている。その様子が可愛くてもっと距離を縮めると、アリエラはピクリと体を動かした。
見上げると優しい空の色をしたサンジの瞳とばちっとぶつかって、胸がどきんと高鳴る。その瞳の奥に宿るものは強く燃えていて、見破られてたんだ。と肩の力をそっと抜いた。

「…サンジくんって、人の感情を汲み取るのが上手いわね」
「レディーの心情の移ろいには敏い自信はあるけど、アリエラちゃんはちょっと顔に出やすいところがあるからなあ」
「えっ、うそ?」
「はは、ほんと。そんなところもクソ可愛いよ」
「ええ…自分では隠してたつもりなんだけど、」

霧の雫という自然の幻想に包まれているからだからだろうか。それとも、愛おしい女の子の心がぺこんと垂れているからだろうか。普段は意識してしまい照れて口にするようになったことばも今ならぽんと彼女に贈れる。
けれど、アリエラもこれはいつものサンジの調子だと、照れた様子を見せないから、彼の胸はなんだか複雑に色塗られて、困ったような笑を浮かべてしまった。

「…あの“白ひげ”がそう云うってことは、それなりに何か理由があるんだろうな。それもお兄さん曰く政府ときた」
「…うん。わたし、そんな実を食べていたなんて知らなくて」

湯気の立つマグカップを包み込んでいる手は、自分のものよりも随分と小さくて頼りなかった。
彼女がどういった経緯、事情でどう口にしたのかを詳しくは知らないから勝手なことは言えないが、彼女の保護者である人物が食べさせたというのだから、そこに対して不信を抱かなくてはならないことはないだろう。

「わたし、この先もしかしたらみんなに迷惑を…」
「だァいじょうぶさ、アリエラちゃん」

しゅんと顔を下げたアリエラの頭をやさしく撫でてみる。こうして彼女に触れるのはとても久しぶりで、手のひらから一気に血液が流れていくのが全身に伝わっていく。
ちいせェ頭だ…。その先に伸びる首も、ぎゅっと握りしめている拳も、砂にちょこんと並べている足も。全て自分のものとは比べ物にならないほどに小さく細くって、彼女のか弱さを改めて思い知った。
それと同時に庇護欲もサンジの胸のうちでぐんぐん膨らんでいく。

「でも、」
「この先例え何かあっても、アリエラちゃんのことはおれが守るよ」

数度撫でていた頭から手を離し、そのまま少し下げて彼女の小さな肩をそっと抱いた。
ぴくりとからだを揺らしたが、拒絶を見せず、それどころか安心した表情を浮かべたからサンジの緊迫もほぐれていく。
すこしでも彼女の心を安堵できたなら。人の温もりは不安に打ち勝つ効果があると聞くから、サンジはそのまま彼女の肩をやわらかく抱きながら目尻を細めた。

「サンジくん…、あったかいね。たばこの匂いも安心するわ。お師匠さまも吸ってたから」
「ほんと?うれしいなあ。たばこはさ、苦手なレディーもいるだろ? だからちょっとばかし気掛かりだったんだが…そう言ってくれてよかった」

やさしく瞳を細めるアリエラを盗みみると、先ほどよりもずいぶんと安堵した表情を浮かべていた。もぞりと動いたアリエラの大きな目とばっちりぶつかってサンジはドキっと胸を鳴らす。
顔を硬らせてしまったのだろうか。アリエラはふっと笑みを描いて、かすかに首を傾けた。

「…サンジくん。本当にわたしのこと守ってくれるの?」
「ああ、もちろん。アリエラちゃんは大切な大切なレディだからおれは…全力でお守りいたしますよ」

“命に変えても”。そう言おうとしたが、彼女が嫌いそうなセリフだったためぐっと飲み込み、瞬時に言葉を選んだが、その違和感はどうやら彼女には伝わっていないようでほっとする。
けれど、本当に誰よりも大切なレディだから、命に変えても彼女を守る覚悟はできているのだ。結果、彼女を悲しませることには変わりないのだけれど。

「…政府に狙われても?」
「あ、アリエラちゃんさては忘れてるな? おれ達は海賊だぜ? それもうちの船長は初頭の手配で異例の破格を叩き出されたんだ。この先の航海、政府も黙っちゃいねェだろうし、おれ達はいよいよ立派なお尋ね者だ。海軍や政府に狙われるってことは海賊にとっちゃァ当たり前のことだろ? アリエラちゃんのその件関係なしに日常的になっていくものだよ」
「あ、そういえばそうかも…」
「だろ? この先航海を重ねていくうちに追われることに慣れていくさ。誰もきみのことを煩わしく思ったり、責めたりなんてしねェよ。だからそんなにも気にしなくて大丈夫」
「…えへへ、そっか。そうよね。うん、わたし狭いところしか見えてなかったわ」
「一度悩んじまったら思考の視野は狭まるものさ」
「サンジくんは本当に優しくて頼りになるわ。お話聞いてくれてありがとう。ずいぶん楽になった」
「そっか、よかった。…うん、アリエラちゃんはどんな顔してても可愛いけど、笑顔が似合うな」
「えへ」

彼がまとっている温かな空気は、胸の奥で立ち込めているものを自然に吐かせてくれる。やさしい笑みや声にことばに包まれてすうっと心が一気に軽くなっていく。どんな小さなことでもまっすぐ受け止めてくれて、柔らかくアドバイスをしてくれるサンジの人の良さに胸にぽっとひだまりが灯る。
こんなにも素敵な人が同じ船に乗っている仲間だなんて。頭を撫でてくれていた手は大きくてあたたかくて、お兄ちゃんができたみたいで頬が緩む。

「お。いい表情するなァ、アリエラちゃん」
「サンジくんのおかげ。わたし今幸せだわ」
「…おれも。アリエラちゃんとこうして朝からお話できて幸せだよ」
「もしもサンジくんに何かあった時は、じゃあわたしが守るね」
「あはは、うん。ありがとう」

ふっと綻ばせたアリエラの顔にはさっきまで広がっていた靄が綺麗に霧散していて、サンジの心も穏やかになっていく。その頃には、朝日がほとんど顔を見せていて砂漠に再び命が宿っていくようだ。朝を連れてくると同時に幻想はうっすら消えかかっていく。サンジのドキドキを隠していた霧も鮮明に晴れていき、もう一度彼女の頭を撫でることはできなかった。

「わたし、顔を洗ってくる」
「あ、じゃあタオルをどうぞ。お姫様」
「わあ、ありがとう。王子様
「おっ、おっ、王子様……ッ!!」

くすりといたずらにこぼしたアリエラに、サンジははあっと舞い上がって頬をピンクに染めていく。
「アリエラちゃんに王子様って呼ばれちまったぜ
サンジの恋の叫びは岩場一帯に響き渡り、テントの中で騒音の不満をこぼす声達が聞こえてきた。



TO BE CONTINUED




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