ハンジが雷槍の直撃を受け瀕死の重傷となったリヴァイを救出し、どうにかイェーガー派の折ってから逃れようと窮地を脱する中でとうとうマーレ軍が全ての軍を結集してとうとう島に上陸した。
今度はもう「超大型巨人」が初めて壁を打ち破った時の比ではない、完全にシガンシナ区は戦場となりマーレの誇る知性巨人を率いてレベリオでの雪辱をはらすべくやって来たのだ。
マーレの飛行船から大量の兵士達がパラシュートを広げて降下する中ライナーも降りてくる。そして、ある一つの大きな何かを包んだ巨大なものが降りてくるのを見届けピークは仲間であるポルコを呼んだ。
「ポルコ!!」
屋上を突き破って姿を見せた仲間へ、ピークは自分も巨人化すべき時が来たと、ガビと繋がれていた方の右腕を上げ、鎖を鳴らしてこの腕を切れとポルコへ示すと、「顎の巨人」であるポルコの硬質化した鋭利な爪でピークの右手首にほんの少し傷をつけるだけでよかったのだが、そのまま彼女の手首から先を切断した。
目の前で切り離された手。鎖で繋がった状態でガビの目の前で血を吹き出しながらぶら下がる光景と、いきなり腕を切断された痛みは巨人化能力者でも残るのかピークとガビはそれぞれ悲鳴を上げていた。
「キャアアアアアアア!!!」
「ギャアアアアアアアア痛ったああああ」
と叫びながらもピークはそのまま支部の屋上から落ちていくと、光に包まれ「車力の巨人」へと姿を変えた。
見た目の雰囲気からは似ても似つかない風貌の四足歩行の顔の長い男性のような見た目とは全く違う巨人体へ。だがマーレには欠かせない機転の利く耐久性はなくとも何度も変身が可能で持続力を誇る優秀な巨人へと、そしてガビを守るべく彼女を咥内へ招き入れ、再びその場から離れた。
エレンが「顎の巨人」「車力の巨人」へ追い込まれて両足を喰われ、絶体絶命の中、エレンは巨人化し、それと共にライナーも手をナイフで傷つけた状態からパラシュートで落下し、その肉体を「鎧の巨人」へと姿を変えた。レベリオで決着がつかなかった二人の対決が繰り広げられるその音は、シガンシナ区兵団支部の地下に閉じ込められていたアルミン達にも届くのだった。
「何だ!? この音は!!」
「……始まったんだ。巨人達が……動き出した」
アルミンの声に誰もが上空を見上げる、軋む音と共にこのままここに居ては何もわからないままだと耳を澄ましていると、鍵の束を手にした自分達を閉じ込めたイェーガー派についていたオニャンコポンがマーレの軍勢がレベリオで皆殺しにした筈が膨大な数の軍事力を用いて報復でパラディ島へ攻めて来たのだと、エレンの危機に慌てて閉じ込められていたアルミン達へエレンの援助を求めに、牢の錠を解除にかかる。
今度は自分達に一緒に戦ってほしいと、イェレナはエレンが特別な人間だと信じていた。だからこそエレンと、そしてジーク、そしてその2人の人柱となるべくウミ;。その選ばれし者達がこの場所に集えばすぐにマーレ兵など敵ではなくなると、そう信じて屋上から動かないまま見守っていた。
「オニャンコポン!? 外はどうなってる!?」
「マーレ軍が飛行船で空から攻めて来た! 約500の兵に鎧・顎・車力が同時に! それをエレン一人で相手にしている!」
「……な!?」
「必死に足掻いているが……いずれやられる!!「始祖」がこのままだとマーレに奪われる!! 手を貸してくれ!! みんなでエレンを援護するんだ!!」
始祖がマーレに奪われる前に手を貸してほしいと伝えるオニャンコポンに対し、一同はさっきまでのやり取りを思い返し青ざめる。そして都合よく今度は助けてくれと自分達にも留めるオニャンコポンに完全に怒りのスイッチが入ったのはこれまで幾度となく裏切られてきた怒りと、サシャをそれで失った怒りに震えるあの頃からすっかり成長したコニーだった。
牢から出て来るなり今度は助けてくれと、都合よく自分達を利用するオニャンコポンへコニーが怒りのままに勢いよく掴みかかる。
「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇ何が「みんな」だ!!「てめぇら」の戦いだろうが!! 俺達が従うと思ったのか? このっ、裏切り者のくせに!!」
「す……すまない。だがイェレナに逆らえば頭を吹っ飛ばされるだけで……」
「はぁ!? お前は俺達に優しくしといて……裏じゃワインでパラディ島を乗っ取る計画だったんだろうが!! もう……! 裏切られるのは飽きてんだぜ俺は!! ライナーに……ベルトルト、アニ!! エレン!! ウミさえもな!! もう飽きたんだよクソが!! 何で!? 俺達がエレンに加勢して……!! 子供を作れねぇ体にならなきゃならねぇんだよ!? オイ!?」
コニーは酷く猛ぶっている状態でオニャンコポンの話に聞く耳すら持てずにオニャンコポンのシャツの襟を両腕で持ち上げありったけの怒りをぶつけている。これではオニャンコポンも何も弁明できない。シャツの襟を持ち上げられたことでじわじわと首を締め付けられて苦しそうなオニャンコポン。
「……待っ」
「話を聞こうよ。コニー」
そんな二人の間へ割って入って来たのは先ほどエレンにこてんぱんにぶちのめされた傷も癒えたアルミンだった。普段の彼のように冷静にその場を収めようとしている。
オニャンコポンは咳き込みながらも必死にイェレナに逆らえば殺されたと、それにワインの事もイェレナの話していた「安楽死計画」のことも、エレン達との密会も何にも自分は知らなかったと弁明した。まだ言い訳をするのかと詰め寄るコニーに対しニコロが今度はフォローを入れる。
「本当だと思うぞ。俺達はイェレナから口止めされていた。義勇兵にワインのことは言うなと……」
「何より! エルディア人の「安楽死計画」になんて協力したくない!! 俺達はパラディ島を発展させて一緒にマーレを倒してほしかった! そのためにすべてを捨てて島に来た。この島のみんなのために尽くしてきた。それは……この島に未来があると信じていたからやれたんだ…!! 子供は未来だ!! リヴァイ兵長の奥さん、ウミだって、兵長との子供を産んだんだろう? イェレナの提示する「安楽死計画」が実現してしまったら!! 俺達がやって来たことは何になるんだ!?」
オニャンコポンの必死の訴えに黙り込むコニーたちへ、どうか自分を今一度信じてほしいと必死に伝えるオニャンコポンに対し、アルミンがそっと優しく笑みを浮かべ力強い瞳で頷いた。
「信じるよ。以前、君はこう言った。ユミルの民を含め人々は皆求められたから存在する。色んな奴がいた方が面白いからだってね。君という人は、まるでジークの思想に反した姿勢を見せてきた。君はずっとそういう奴だよ。さぁ、立ってオニャンコポン」
「……アルミン」
アルミンはオニャンコポンにそっと優しく手を差し出したその姿に、オニャンコポンは感動していた。
現状を見て正しく判断できるジャンもオニャンコポンを信じる。きっとここにマルコが居れば、彼もそうしたであろうから。
「俺もお前を信じる……が、どうする? エレンとジークに手を貸せば、安楽死計画を実現させることなる、」
「いいや……そんな計画は阻止するんだ……!! しかし二人を失ったら、この島を世界の軍から守ることはできない」
「じゃあ!! どうしろって言うんだよ!?」
「少なくとも一度は「地鳴らし」の威力を全世界に見せつけてやらないと……」
感情を露わにするコニーを宥めながら、いつまでもここに居てもエレンが危険なだけだ。その言葉はすなわちエレンとジークの力によって地鳴らしを行使することに意味がある。だが、さっきから不安な表情を浮かべたまま黙り込むミカサの方へと振り向いて尋ねる。だが、そのミカサの表情は決して明るいものではない。
重たい沈黙が流れてミカサは先ほどのエレンの言葉に傷ついたまま浮かない表情だ。
「ミカサは……どうしたい? エレンを助けたいの?」
「……助けたい。でも、それはきっと……エレンが言ったように……私が……アッカーマンだから。エレンを助けたいと思うこの気持ちは私の、自分の意志じゃない」
「……はぁ?」
「それは……僕が思うに、エレンの考えた嘘だと思う」
「私が時々頭痛を起こすことは……本当……何で嘘だと思うの?」
「……何で……って……え……? エルディア人が子供を一切作れなくなることをエレンが望んでいるって……みんな本気でそう思ったの?」
「……確かに奴らしくはないとは思ったが……ありえないことだとまでは…」
「ありえないだろ!? あのエレンだよ!?」
「じゃあ何で!? エレンはジークやイェレナに逆らわないんだよ!?」
アルミンの先ほどの涙。それは、本心から流れたものであった、エレンが自分達を本心から裏切っているわけじゃないことが分かったことによる安堵の涙であった。
「そんなの、わかるだろ!? 逆らわなくていいからだよ!! 最終的に始祖の力をどう使うかはエレン次第だ!! それをわかっているからウミもエレンに協力しているんだよ!! エレンはイェレナに話を持ち掛けられた時からそうするしか無かった! 断ればイェレナはどんな手段を使ったか、わからない……だが承諾したと見せて自分は味方だと思い込ませることができたなら……!「地鳴らし」でこの島を守ることができる! そして……その「地鳴らしを」発動させる時は世界主要各国の主力軍がマーレに一堂に会する今だ。予定通りシガンシナ区の壁数百体の巨人を呼び起こすだけでいい、世界最強の軍事力を壊滅させればパラディ島は今後50年は誰にも手出しされない」
エレンは敢えて地鳴らしを起こすべくジークとイェレナに協力し、そしてその地鳴らしに欠かせないと言われている存在であるウミを頼ったのだと、幼馴染で隣近所である自分達は同じ存在だが、だが、その血の中にはマーレ人として、そして彼女の家系が代々受け継いできた血が関係している。
そうでなければウミも自分達がいつか衰退していくための安楽死計画に賛同するはずがない。だって彼女は、それならなぜこの島に子供をもうけたのかという疑問に行きつくだろう。
愛する人との尊い子供の存在を。そんな子供を産み慈しむような目をしているウミが子供の出来なくなる恐ろしい計画を完全に受け入れる筈が無い。
しかし、ジャンは重苦しい表情で皆に語り掛けるアルミンに対して静かに告げる。アルミンもその表情からジャンが何をエレンに対して思っているか、理解出来た。
「俺は訓練兵の時から奴は危険だと言ってきた……エレンは皆を地獄に導くクソ野郎だ。そんなクソ野郎を……俺は……妬んだ。かっこよかったから……死ぬほどムカつくことだが、俺は、まだ奴に死んでほしくねぇ」
「まぁ……このまま死なれたら……アイツをぶん殴れねぇしな」
「……行こう、捕えられている兵士を全員解放するんだ!」
「ニコロ! ブラウス家はお前に任せたぞ!」
「もちろんだ!!」
自分達と別で巻き込まれる形でこの牢屋に監禁されたブラウス家とそしてリヴァイとウミの大切な命でもありこの島の希望でもあるエヴァを守りどうにかこの地区から連れ出してくれと託し、自分達はエレン達の救援へ向かう。
マーレの軍勢を退きすべてが終わったら、エレンに確かめればいいとアルミンはエレンは今も自分達をあの夕日の時に誤魔化して大事だと、そう告げた言葉を思い返していた。
地下牢から抜け出し、ジャンたちも移動を開始した。その階段を登り地上へ向かう中、今も浮かない憔悴しきった表情のミカサがアルミンへ問いかける。
「エレンが……真意を隠しているとして、私達を突き放すのはどうしてなの? 私のことが嫌いって……ウミと何度も寝たと、何でそんなことエレンは言うの?」
「それは……いや、まさか」
「え?」
「少なくとも……ミカサがよく頭を痛そうにしてたことなんて、エレンも僕もウミも――。昔から知ってた。嘘を尤もっともらしくするために利用した、無理矢理ついた嘘だからね。だって、あんなにリヴァイ兵長しか見ていないウミがどんな理由があるかは知らないけど、エレンと本当に寝る子だと思う? そもそも、ウミはミカサとエレンの仲を誰よりも応援してくれていたじゃないか!! そんな子じゃないでしょ。あんなに盲目的に、分かりやすい位、リヴァイ兵長にのめり込んで結婚しても変わらずリヴァイ兵長が好きなウミが……おそらくはあの人が何かをする時はリヴァイ兵長のためにだって。きっと、この島を救うため、「地鳴らし」を起こせばこの島を守ること、リヴァイ兵長が最前線に出ることは無くなる。だから、自ら巨人になる事を受け入れたくらいだよ!! だから、エレンの嘘に決まってる。エレンにすべてが終わった後で聞いてみたらいい。大丈夫、エレンは必ず帰ってくるよ、まだ間に合う、必ず分かり合えるはずだ」
「アルミン……うん」
エレン、そしてウミとまた会えるために、自分達を遠ざけてまで成し遂げたい思いの為に突き進む彼らを本当の意味で取り戻すには、まず窮地に陥っている肝心の彼を助けなければならない。
幾らエレンが九つの内の三つも知性巨人を取り込んだ巨人とはいえ、多勢に無勢では、窮地に陥りどうにもならない。
それでもイェレナはまるでエレンがこの状況をひっくり返すと信じているのか、屋上から動かずにその戦闘をただのんびりくつろいでそこらへんの男性よりも長い脚は胡坐をかきながら見守っている。
アルミンの言葉に安心したミカサがほんの少しだけ元気を取り戻し足取りが軽くなる中、そっとそれでも今も手放さないあの日自分を見つけてくれたエレンとの絆の証でもあるマフラーを取り出した。
上空での巨人同士の壮絶な戦いの中で自分達もこの島を守るべく地鳴らしの鍵であるエレンを守るべく助太刀しようと、階段を勢い良く駆けあがるジャン達を待っていたのは猶予がありながらも結局何も行動に移さないままの兵団に見切りをつけ、それどころかこの島の救世主であるエレンを中心とした新しい兵団組織への改革を決め、訓練兵団の過程に居る身でありながらキース・シャーディス共感を粛正し、イェーガー派へ寝返った若き訓練兵団たちだった。その中には先ほどのスルマ達も居て、ジャン達へ猟銃を向けている。
「オイ止まれ!! ここは我々イェーガー派の支配下にある!! 勝手な真似は――「じゃあ聞くが訓練兵、俺達がイェーガー様を助けに行くのを命懸けで阻止するつもりか?」
「いえ、」
「じゃあ全力でマーレと戦う事も阻止するな」
「全員、全ての牢を解除しろ!!」
訓練兵などこれまでどれだけの地獄を潜り抜け生き延びてきたジャンたちからすれば赤子同然だ。
目の前を立ち塞がる訓練兵へ詰め寄るジャンとコニーの気迫に押しのけられると、二人の声で閉じ込められていた兵士たちも、ジークの脊髄液入りのワインを飲んだナイルたちを始めとする兵団幹部も、ニコロにワインの瓶で殴られそのまま口の中に混入したワインを飲んでしまい同じように区切られてしまったファルコも。全員がようやく解放されるのだった。
牢の中には全身ボロボロになった自分達の教官でもあるキース・シャーディスの巨体が横たわっている。
「シャーディス教官!? その怪我は……」
「……熊の相手をした。私のことはいい……行け」
と、彼は訓練兵団達が自分を粛正という名の暴行を与えた事を他の兵士やアルミン達にさえも知られないようにそれでも訓練兵のまだ若き未来ある者達へ配慮していた。この支部内に熊など居る筈が無いのに。ただそう答え、それでも教え子を守る姿勢を見せるのだった。
「ピクシス司令!」
「ご無事で!?」
「まだボケてはおらんぞ。ただ……飲みすぎてしもうての……」
牢から出て来たピクシス司令と再会するが、時すでに遅し、ピクシスは自分の腕に巻かれた黒い布を二人へ見せつつ、アルミン達はピクシスのその言葉に絶望するのだった。
だが、最後まで戦う姿勢を見せ、決してこの場を離れようとはしなかった。残された兵士たちに向かって最後まで幹部として司令としての役割を全うするために命令を下していく。
それはあの時のトロスト区がライナー達の手により巨人たちの支配に落ちエレンの持つ巨人の力でトロスト区を取り戻した際に一斉に演説で全員をひとつにした今も変わらず自分達と共に戦い続けてきた司令との最後の演説であった。
「よく聞け皆の者!! ここにある立体機動装置には、数に限りがある!! 黒い腕章を着けてない者が優先して装備せよ!! まんまと敵の策にかかった飲み助共はワシに続け!! 前線で侵略者を迎え撃つ!!」
「「了解!!」」
自分達はきっとこの場にジークが向かっているのであればそれまでの命だと理解しての行動だった。恐らくジークは叫ぶだろう、その時が自分達の最後の幕引きでもある。ユミルの民である自分達はこの島から逃れない限り、ジークの脊髄液の支配から解放されるその術は、もう無いのだ。
移動し、立体機動装置を探すミカサに近づくのは旧式の立体機動装置をミカサに渡す為にやってきた、イェーガー派として敵対していたが、今は志ひとつにマーレ軍の率いる巨人の軍勢と戦っているエレンを救うべく、共同戦線を張る事になったルイーゼだった。
ルイーゼは酷く心酔している尊敬する兵士でもあるミカサと共に肩を並べられることが嬉しく、彼女の強さに心酔している彼女はその事実に感激しているようだった。ルイーゼから装備を受け取り、ミカサはそれでも彼女に冷淡なほど冷たい。何も言わず淡々と装備を整える。
「嬉しいです。また同じ志を持ってあなたと一緒に戦えるなんて……」
「そう、」
サシャの優しさに憧れたカヤとは対照的な、相変わらずそっけない態度のミカサはその心酔しているルイーゼの姿が自分がエレンに対して接しているのと同じだと気付かぬまま、エレンのあの言葉に縛り付けられ傷つけられて、今も巻けずに居るマフラーを持って行く事も出来ず、自分のエレンと守りたいと純粋な思いは全てアッカーマンの習性から来るものだったのだと言う事実をこの感情が紛い物だった事に今も傷ついており、今見ても苦しむのか、そっと棚の上に畳んでしまった。
「そのマフラー、置いていくんですか?」
「置いて行く」
エレンからもらったその大事なマフラーを置いて行くのかと問うルイーゼに対してミカサは静かにそう答えると、そのままミカサはマフラーに振り返ることなくその場から去って行く。
ポツンと取り残されたマフラーを見つめるのはルイーゼ。ミカサが去り、一人きりの部屋で何を思ったのかルイーゼは何とそのマフラーを手にし、自分の手に持ってその場を後にしたのだ。
ルイーゼはエレンと対面で話していたのだ。ミカサのマフラーは捨ててくれて構わないと、まるで本当に自分達を遠ざけるようなエレンの言葉、ミカサは知らないが、ルイーゼはそのマフラーがどれだけミカサにとって大切な物か、手に取るようにわかる。連れて行かないのなら、かつてミカサの持つその強さに妄信的に憧れを持つルイーゼはそのマフラーを撒けば少しでも憧れの存在になれるのではないかと信じ、そのマフラーを巻けないミカサの代わりに自分の首へ巻きつけるのだった。
▼
「……まさか、マーレが捨て身の奇襲をかけてくるとは……奴らの持つ情報だけじゃこんな危険を冒す判断はできないはず……」
戦い始めたライナーとエレンの因縁の対決にエレンによって故郷を滅茶苦茶にされただけでなく酷い屈辱を受け、自分の顎を使って「戦槌の巨人」を捕食させた怒りに震え、加勢するポルコ。
街を巻き込んだ激闘の中を掻い潜るように「車力の巨人」となったピークの口の中に入り危機を脱したガビは口の中から突然吐き出され、その場によたよたとした足取りで這いつくばった瞬間。突然、視界が変わり、誰かに首根っこを持ち上げられそのまま頭から引き寄せられるように抱き締められていた。
「ガビ!!」
「マガト隊長?」
「ブラウン貴様!! 誰が敵地に乗り込めと命じた!!」
「も……申し訳ありません……命令もなく勝手なマネを……」
待っていたのは彼女とファルコが単身でパラディ島の勢力の飛行船へ乗った事で行方不明になっていた大事な自分の教え子でもある戦士候補生の大事なガビを救出に来たかつての体調であり今はこのマーレを率いる元帥に大出世したテオ・マガトであった。
勿論ライナー達だけではなくファルコの兄のコルトも一緒だ。
「ガビ!!」
「コルト……」
「無事か、ファルコは!? どこに……!?」
「まだ……あの建物の中に。ジークの脊髄液を口にしてしまい、閉じ込められています」
「何だと…?」
『ファルコは脊髄液を飲んだ敵兵約300と共に収容されています。それ以外の敵兵は今ここに500ほど。ジークはここには不在のようです』
空から落下傘に括り付けられて降って来た巨大な布に包まれている何かが入った布を口で壊しながら、巨人の身体でありながらも器用に指先で取り出した巨大な彼女が背負う対巨人砲と、ジークの「獣の巨人」のように会話が可能なピークがこの島に来たばかりで状況が理解できずに居るファルコの兄であるコルトとマガトに流暢な低い巨人体の際の声で状況を説明する。
「ライナーの危惧に従いここまで来たが、「始祖の力」を敵が行使する可能性は?」
『わかりません。しかし、「始祖の力」が彼らの切り札であることは間違いありません』
「車力の巨人」体のピークはそのままその初罪から取り外した何かを背中に載せようしているようだった。自分がこれまで共に戦い抜いてきたパンツァー隊壊滅によりピークには新しい対巨人兵器が搭載されることになっている。
「未だその切り札を切らないのであれば、エレンはまだ、「始祖の力」を発動できる状態にないのだと思われます」
「何か……発動条件があるのか?」
それを聞いたガビが、飛行船でエレンとジークが話していたあることを思い出した。
「「こうして始祖と王家の血を引く巨人が揃った」マーレから撤退する飛行船の中で、ジークがそう話しているのを聞きました」
「どういうことだ? ジークが……王家の血を引く巨人……ということか?」
「……復権派の指導者が両親ならあるいは……」
『彼の特別な力に根拠があるとすれば……それが事実なのではないでしょうか「始祖の力」が使えない理由がジークの不在と関係があるなら……エレンとジークを接触させてはなりません」
その時、自分達の背後で大きな物音が聞こえ、それはエレンとライナーが戦っている音だった。本当に自分達を助けに駆け付けてくれたライナーが危ないとガビがマガトへ訴えると、マガトはピークの巨人体にずっしりと伸しかかり装備された何かにぶら下げた梯子へ足を掛けて登り終えると対巨人戦に開発した新しい巨人砲へ乗り込むとこの島に来た自分達の目的を改めて口にするのだった。
「今我々の肩には世界の命運が懸かっている」
「マガト元帥?」
「我々は決して始祖を殺し問題を先送りにはしない。今ここで始祖を食らい、100年の遺恨に終止符を打つ。エレン・イェーガーに力を使わせてやれ、「戦槌の巨人」の能力は強力だがすぐに力を使い果たす。忘れるな、この奇襲作戦はヴィリー・タイバーの犠牲の上にある。彼が命を賭して伝えたように、我々には真の英雄へ―ロスが必要なのだ。世界を救う英雄がな……」
▼
対峙し、激しく硬質化した腕とその巨体でかつてこの街で繰り広げた死闘を再現する様に街中を巻き込んだ激しい殴り合いを繰り返すエレンと「鎧の巨人」であるライナー。
すると、突然その背後から飛びかかって来たのは「顎の巨人」その本体であるポルコは怒りに燃えていた。
レベリオで受けた屈辱を今も忘れられない、人間の身でありながらこの完全な巨人の肉体でありながら蹂躙されただけでなく、生まれ故郷を滅茶苦茶にされたのだ。
「(償わせてやる。俺の街を蹂躙したこと。俺を、くるみ割り人形にして「戦槌」を喰うためのおもちゃにしたことを……!!)」
エレンは二体の巨人に囲まれると、自分が脱獄した時のように、まだ不慣れな力である「戦槌」の能力を解放し一気に二人を地面から突き出した何本もの硬質化の槍で一斉に貫き、二人はくし刺しにされて動けなくなる。形勢逆転したかに見えたが、その瞬間を狙ったかのように、「車力の巨人」に搭載済みの砲台からマガトが放った一瞬の弾丸がエレン巨人の脳幹を狙い撃つと、エレンはついに動けなくなり、その隙を見て「鎧の巨人」と「顎の巨人」が突き刺さって磔にされた槍の拘束から抜け出したのだった。
硬質化の槍を自ら用いてライナーは銃弾で撃ち抜かれて呆然とするエレンへ突きさしていく。
「(エレン……お前は一人じゃ脅威にならない。もう観念しろ、お前は。ここまでだ。エレン……もういい……お前の負けだ。これ以上誰も苦しめなくていい。これ以上苦しまなくていい)」
しかし、エレンはまるで諦めるそぶりを見せずに戦う姿勢を崩さず最後まで抗おうとする。その背後から顎が飛んで来るがエレンはそれさえも撥ね退けまるで自分はここだと主張するかのように叫び、巨人の力を使い果たしたとしても「戦槌の巨人」で硬質化の槍を出現させそれがライナーを再び貫く。
「アアアアアアアアアア」
何のために、それでもエレンは抗うというのか、「鎧の巨人」と戦いを止めないエレンの背後から軽やかな身のこなしで翻るように奇襲をかけてきた「顎の巨人」の頭を叩きつけるエレン。飛んできたところを勢いよく殴られたそのけた外れの威力で顎はそのまま遠くへ吹き飛ばされた。しかし、今度は「鎧の巨人」がエレンの頭を地面に押さえつけた。
「(エレン、俺はもう、終わりにしたい……俺とお前のどこが同じなんだ? もう……いいだろ。もう……眠れ……俺が終わらせてやる)」
エレンを押さえつけ、作戦通りにエレンをこのまま自分が捕食すればすべては終わる。自分が「始祖」を引き継げばすべては終わると、ライナーは諦めて受け入れろとエレンに迫る中、突然、
――「アアアアアアアアアアアア!!!!」
エレンは巨人体の中でおとなしく自分の死を待つ人間ではない、こんなところで終われない終わってたまるかと足掻き続ける。
盛大に見上げるようにライナーを睨みつけるエレンの目は何も変わっていない。エレンは尚も足掻く。この先に見える未来を手にする為、あの景色を得るべく駆け出す。その姿勢を見せたまま、エレンは自分のうなじを喰おうとしていた「鎧の巨人」の口に手を入れ、そのまま勢いよく持ち上げるように引き裂きとうとうライナーの上顎から上の部分を思いきり引き剥がしそのまま顔の形を変形させたのだ!!
「アアアアアアアアアア」
ブチッと嫌な音を立てて「鎧の巨人」の顎が外れ、ライナーの顔の上半身はめくれ上がり、これでは幾ら巨人体と言え回復に時間がかかる重傷を負わされ、ポルコもエレンに側頭部を勢いよくぶん殴られて脳震盪を起こしている。
エレンを助けようと周囲を飛び回る立体起動部隊は上空の飛行船や隠れていたマーレ軍に次々と雷槍の出番もなく撃たれ撃墜していく。
悪夢の続きのような、同じ人間同士がかつての惨劇の街で繰り広げる戦闘の中、一瞬の光が全てを貫くと、エレンではない別の何かによって「鎧の巨人」が「何か」別の衝撃により一気に建物へ吹き飛ばされたのだ!!
その時一瞬。戦火の雨が止み、誰もがその飛んできたいくつもの放物線を見て見覚えを感じた。そこで目にしたのは……。
「あぁ……来てくれだのですね、待っていました」
彼女が信じて待ちわびていたのは自分が心酔するたった一人の存在。選ばれし者達。彼の到着をイェレナはずうっと待っていたのだ。そして思わずその通りに本人が登場する成りイェレナは感嘆ともとれるため息を漏らしていた。
「遅くなったけど、間に合ったみたいだよ」
「そう、よかった……」
「本当に、君が来てくれて心強いよ、ウミちゃん、よろしく頼むよ」
「……うん、わかってる」
そしてマガトもかつて自分が育て上げた戦士候補生から今では戦士長、しかしもうそれは過去の話、自分達を裏切りレベリオを血に染め上げた。
「……来たか。驚異の子・ジオラルド家の、ご令嬢……いや、あれが初めて人類が見たとされる巨人「原始の巨人」」
一斉に、その場にいた者達が顔を上げ、そして、飛んできた物体の進行方向の先へと目線を向ける。
敵である彼の存在がどれだけこの地で決戦を繰り広げてきた自分達を壊滅まで追い込み、そして苦しめ絶望をもたらしただろうか。
注がれる視線の先、壁上に居たのは「獣の巨人」そして、彼の方に乗った新しい兵団服に全身を包み、雷槍と立体機動装置もフル装備した、雷槍の爆発の巻き添えを喰らって死亡したはずの、ウミの姿が。
新型の立体機動装置に髪の毛が巻き込まれないようにとかつてヒストリアに施してあげたようにシニヨンにし彼女はかつて分隊長として調査兵団の幹部として名を馳せていたように、この地に絶対の死をもたらす為に再び蘇ったのか。それとも、その彼女も始祖ユミル・フリッツに意識を明け渡し操られるだけの死体に過ぎないのだろうか、戦闘態勢に入っている。
かつて敵対したジークと今は共同戦線を張るウミの姿に兵団の兵士達は一体誰だと、何のために彼と手を組んだのかと騒ぎ出す。
リヴァイとも因縁浅からぬ関係であるジークの巨人体である肩の上にその姿を捉えることが出来る。
『何とか約束の場所に間に合ったが……ちょっと遅れたかな……。よく一人で耐えたな……エレン。後はお兄ちゃんと、ウミちゃんに。任せろ、』
2021.10.24
2022.01.30加筆修正
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