THE LAST BALLAD | ナノ
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#137 荘厳ナル破壊ノ槌音

 エレンの危機に間に合い、リヴァイを退けどうにか辿り着くことが出来たジーク。彼の傍らには、ウミが居た。
 二人の参戦により戦闘は再開し、再びシガンシナ区は激戦に揺れる。そして、彼の脊髄液を呑んだ兵士達は皆、自分の最後を悟るのだった。「獣の巨人」が壁上に現れた事で……。「獣の巨人」は壁上の部分を削り取ると、それを粉々にして石つぶてに変えると一気に上空に浮かんでいたマーレからやって来た飛行船を一気に投石攻撃で破壊し、撃墜させたのだ。次々と沈んでいく飛行船をジークの投石に沈められる光景をまるで待ち焦がれていたかのように屋上というよく見える環境で、バッと、大きく両手を広げて迎え入れるように眺めているイェレナが感嘆ともとれる吐息を漏らして感激していた。

「あぁ……ジーク……」
「クソッ!! ジーク!! 裏切り者め、奴をうなじごと射抜く! ついでにもうあのジオラルド家の末裔の女にも用は無い、始祖ユミル・フリッツに取りつかれた亡霊が……ピーク、照準を合わせろ!!」
「了解!!」

 今となってはマーレで一番の狙撃手となったテオ・マガト元帥と最高幹部に名を馳せる男が「車力の巨人」が背負った砲台に乗り込み狙いを定めるげく壁上を走りジークへ接近を開始する。

「ジークさん!!「車力が来ます」」
『ウミちゃん、踏ん張れるかい!? 俺の中に隠れてて』

 ジークを拘束していた雷槍の爆撃を受け今ではもう二度と戦線に戻れない身体になったリヴァイではなく、ジークを選んだ自分に帰る場所など無い、そしてふと見れば自分が建て直した店と居住区を構えていたこの場所を眺めながらウミはもう二度と戻れないこの場所に最後帰ってきて終わりを迎えるのだと感じながら、ジークを守るべく再びその背に翼を纏うのだ。

「いいえ、私も、最後まで戦います……このまま隠れて黙っていろだなんて出来ません、手助けは無用、です!」
『ええっ、ちょっと!!』

 ジークに自分の身体を覆う体毛の中に身を潜めて「来たるその瞬間」まで死なずに待っていて欲しい、それが彼の要望との事だが、それを突っぱねてウミはジークからつかず離れずの距離でこっちに接近し、背に抱えた砲台から狙い撃とうとしているマガトを睨みつけ、ジークが投石攻撃を「車力の巨人」に向かって繰り出そうとしているその隙間を掻い潜って先に飛ぶ。
 しかし、旧式での立体機動歯科訓練した経験のないウミにとって急激に最新の立体機動の動きと仕組みにまだ身体が追い付かない。
 近くまで来たマガトたちの攻撃よりも先に「獣の巨人」が「車力の巨人」へ向かって強烈な石つぶてを食らわせるが、それに気づいた「車力の巨人」が外壁に向かって飛び、なんとか交わします。

『くッ!! 元帥、獣との撃ち合いは賢明とは言えません』
「車力だ!! ウミと二手に分かれろ!! 挟み撃ちだ!!」
「リ、リヴァイ兵長の奥様とですか?」
「そうだ、だが、引退したとはいえ元分隊長として名を馳せてきた精鋭だ、味方であれば何よりも心強い物はない、安心して背中を追っていい、彼女も俺達イェーガー派の仲間だ」

 ジークたちを引き連れて共にシガンシナ区へ戻ってきたフロックたちが「獣の巨人」を味方につけ、「車力の巨人」へと接近していく。イェーガー派の進撃を影ながら援護するウミ。
 回転しながら銃を四方八方から撃ちまくる敵国マーレの兵士達の懐に飛び込み次々と切り伏せていく。
 本当に彼女は元兵団の人間なのか?その見た目からはにわかに信じがたいと眉を寄せていたイェーガー派の新兵達だったが、彼女の実力を見た事が無いからこそ言える言葉であり、今もウミは現役と変わらずに冷静な判断力を用いて行動していた。
 リヴァイさえも彼女は切り捨て、この場に参戦することをジークと共についていくことを自らの意思で選んだのだ。尚更立ち止まるわけにはいかないと唇をキリリと引き結んで、悲痛な思いを隠して。

「獣の巨人」の登場にエレンがこの時を待っていたと上あごから引き剥がされたまま横たわり動けない「鎧の巨人」とエレンに頭をぶん殴られて痺れて動けない「顎の巨人」と共に地面に横たわったまま起き上がることが出来ない。
 そんな二体を横目に半分欠損した顔から血を垂れ流しながらも自身で発動させた「戦槌の巨人」の硬質化の槍を支えにエレンが動き出す。

「始祖が……!! 獣の方に!! やはり二体の接触が目的なのか!?」

 このままでは飛行船での会話の通りにエレンとジークが接触することで「地鳴らし」が発動してしまう、そうなれば自分達の故郷であるマーレが……。ガビがコルトにどうにかしなければと叫ぶが、コルトは冷静だ。生身の自分達があの熾烈を極めるこの巨人対巨人同士の戦いに参戦しても返り討ちにどころか死ぬだけだ。

「止めないと!!」
「……生身の俺達がどうやって? 隊長たちを信じて巨人は巨人の力に任せるしかない、俺達には俺たちの戦いがある……! 俺は敵陣からファルコを救出する! お前は南にある撤退時の飛行船まで行くんだ!」
「いいや、私も助けに行く」
「ガビ!! いい加減にしろ!!」
「私はファルコをここまで巻き込んだ挙句」

 ガビはこの戦いに関係ない。将来のマーレを背負う戦士候補生の中でも唯一の存在で在り、逸材だ。
 未来の種を潰すわけにはいかない、コルトはガビに無傷で国に帰還させることを目的として行動しており、あの騒動で亡くなった戦士候補生のゾフィアとウド、そしてこの島の出身であり、忍び込んでいたアヴェリアも居なくなり候補生の2人をこの島でこのまま死なせるわけにはいかないのだ。
 だが、ガビはこのまま自分だけが家族の待つマーレに帰るわけにはいかないと、ファルコをコルトと一緒に助けに行くと譲らない。そこにはガビなりのファルコへの気遣いがあった。

「私はファルコをここまで巻き込んだあげく何度も助けられた……成績トップの私があいつに助けられてばかりで……! 迷惑をかけたまま我先に逃げるなんてあってはならないの!!!」

 ガビの真剣な眼差しにコルトはこのまま彼女が一度決めたことを曲げる筈が無いと思っているからこそ、ガビが自分の弟を心配し、助けに行きたいと、自分ならその拘束場所を知って道案内が出来ると、その申し出を受け入れ、二人でファルコが拘束されている兵団支部を目指す事にした。

 その一方で、ジャンとコニーの呼びかけにより解放された黒い布を巻きつけられた「ジークの脊髄液」入りのワインを飲み、ジークの叫びにより巨人化して無垢の巨人隣人を喰うだけの理性を亡くした存在へとなる結末となった者達も立体機動装置ではなく最後の最後まで戦うと、銃を手に戦いへ向かう。その中、ファルコと共に行動していたのは、自分も脊髄液入りワインを経口摂取したナイルだった。
 そしてこのタイミングで同じ地域にジークが居る。彼が叫ぶ効果の範囲内に居る自分、いつ巨人になるかわからない状況で内地に残してきた娘にも、かつてのエルヴィンの手助けで実った愛の末に結婚した最愛の妻にも会えずにこの場で醜い巨人となるのだろう。その末路を覚悟しているからこそ、尚更もう二度と家族には会えない。

「君の帰りを待つ家族はマーレにいるんだろ? この機を逃したら一生帰れないぞ。俺はもう……妻や娘たちには会えないだろう……ジークが一声叫ぶだけで……化け物になる。娘たちには伝えたいことがまだまだあったのにな……俺はもう死んだも同然だ、だが、こんな醜い化け物になる姿を家族に見せることなく俺はもうじき死ぬ。理性の無い人を喰らう化け物になり果てて」

 ジークの投石攻撃を受け、次々墜落していく自分達の国に変える手段でもある飛行船たち。燃える街の中を進む中、ガビはコルトが持っている対巨人ライフルという新しい兵器と出会いを果たしいた。そのライフルが後に自分やこれから待ち受ける戦いで大いに役に立つことになろうとは。
 ガビの案内で兵団支部の近くまで戦の炎を潜り抜け辿り着いた支部から一斉に釈放された兵士たちが猟銃を手に出て来たところを、偶然コルトは弟で在り唯一の兄妹でもあり何に変えても守りたい、戦争に巻き込みたくなかったのに巻き込まれてしまったファルコを見つけ、再会を果たすのだった。
 例え、彼の腕にもその黒い布が巻かれていても。

「あ!」
「あ!」

 建物の影から覗いていたコルトと視線が確実にぶつかり、助けに来てくれた兄に気が付いたファルコ、ナイルもその様子に気が付いた。

「どうした、」
「兄……です」
「……そうか」

 敵に気付かれてしまった以上あの男を。対巨人ライフルに装填し構えるコルトに対し、突然ナイルがこれから自分達はどうすればいいのかと戸惑う仲間達に大声でファルコを連れ隠れているガビとコルトの元へとファルコを連れて行く。

「……悪魔め!!」
「コルト……待って!」
「ここは、子供が来る場所じゃない。家に帰るんだ」
「ナイルさん……ありがとう」

 自分にはもう家族と会える機会はない、そんなナイルだったが、ファルコだけは家族の元に帰そうとしてくれたのだ。彼はこの島の人間ではない、せめて自分は娘たちや妻といられないが、彼はファルコの実兄が目の前にいるのなら、最後かもしれない時を過ごして欲しいと、ナイルなりの優しさ、幼いファルコまで戦争に巻き込まれる時代に逆らうかのように、ファルコがナイルへそっと手を振ると、ナイルはファルコへ別れの手を振り背中を向けるのだった。

 これまでのガビならば、ナイルがここに来た時点でもしかしたらこれまでのように忌み嫌う島の悪魔だと蔑み迷わず殺していたかもしれない。サシャを撃ち殺したように、だが、この島に来たガビはその価値観を根底から変えられていた。

 抱き合うファルコとコルト、唯一の兄弟で在り、家族なのだ。
 自分達の親族からかつてエルディア復権派の一味として楽園送りにされた経緯から自分達も楽園送りにされる危機の中で自分達が戦士候補生として戦う事で救われた命があって、だからこそ、その絆は尚更強いものとして結ばれている。

「ガビ……どうして敵を信じた? 相手はこの島に住む悪魔だぞ?」
「いや……この島に住んでいるのは……「こっちです!!」
「マズイ、隠れろ!!」

 その時、建物の影からまた別の誰かの声が聞こえた。
 慌てて人払いは住んだ無人の民家に逃げ込み身をひそめる三人の耳に届いたのは先ほどともに釈放され、帰路に向かう何の関係も無いのにこの争いに巻き込まれたブラウス家とその警護を任されたニコロだった。勿論その輪の中にはガビが大事な尊敬するサシャを殺した張本人だと知る成り襲い掛かろうとしたカヤも居る。

「こっちなら火は回ってきません」
「そうやけど出口は炎で塞がれてしまっちょる」
「……戦闘が終わるまでこの辺りに隠れるしかありませんね……」

 二人は正体を隠して島に潜入し、そして大事な娘を殺した人間でもあるのに、サシャの母親はそれでもガビをファルコの身を案じている。本当に、何処までも子供たちが戦争に巻き込まれている事実に胸を痛め、娘を殺されたやり場のない怒りが恐らくはある筈なのにそれでも気遣うそぶりを見せる。
 その姿勢が、純粋で島には悪魔が暮らしているから皆滅んでしまえばいいと植え付けられていたガビの根底からの価値観を覆したのだ。たった一つのシンプルな答え、この島もマーレも関係ない、皆同じ、ユミルの民だという事。

「ミアとベンも逃げ出せたんかねぇ…」
「あん二人なら大丈夫やろ。逞しいなき」
「どうしてお姉ちゃんを殺した奴の事なんか心配するの? 私は許せない、殺してやりたい」

 ガビたちが潜んでいることも知らないカヤ。そう、まっすぐに子供でありながら明らかな殺意を憎しみを露わにし、どうしても許せないと。口にする。そんなカヤの言葉にガビの目には自然と涙が浮かんでいた。
 ただ自分はやられた報復にやり返した、それだけの事だった。立った一発はなったその弾丸がこんなにも自分が犯した取り返しのつかない罪として、ガビの行いを責め立てる、自分が何気なく行った行為を、許せないと自分の行いを責め立てる人間を自分が殺した相手の親族や大切におもう人たちを前にガビは痛感し。そして気付いた。

「もう行ったみたいだ、俺達も行くぞ」
「ガビ?」
「悪魔なんていなかった……この島には……人がいるだけ。やっと……ライナーの気持ちが分かった……私たちは見たわけでもない人たちを全員悪魔だと決めつけて、飛行船に乗り込んで……ずっと同じことを……ずっと同じことを繰り返している。ごめんね、ファルコ……あんたはわかっていたのに……巻き込んで……」
「…オレは……レベリオ区の襲撃に加担している……病院の傷痍軍人がエレン・イェーガーだと知らずに……あの、笑顔の優しい女の人が、この島の脅威であるアッカーマン家お人間だと、知らなくて彼の手紙を区外のポストから彼の仲間に送り続けて……レベリオ区で大勢殺された。だから……ウドもゾフィアもオレのせいで死んだ……」
「…そう」
「あと、お前が好きだ。オレは、お前に「鎧の巨人」を継承してほしくないから戦士候補生になった。オレと結婚してずっと幸せでいるためにお前に長生きしてほしかった」

 突然のファルコの告白からの自分へ告げられたファルコの思い。先程まで自分の行いを悔やみ、よく知りもせずこの島の人間を悪魔呼ばわりしていた自分を恥じたガビの顔が一瞬何を言われたか理解できずにコルトを見るも、彼の兄であるからファルコと重なり、そして知った言葉にじわじわと頬が赤くなり、どんどん夕焼け空でもないのに赤く染まっていく……。
 エレン達とは違いこれでは夕日のせいだと、誤魔化しようがない。だが、ファルコは言葉を止めるつもりも、無かったことにもしないつもりだ。

「何、言ってんの?」
「オレはジークさんが叫んだら巨人になっちまうかもしれねぇから……もう……これで言い残すことはねぇ……」

 自分がもう、先が長くないのを分かっているから、ジークの叫びの効果範囲内に自分が居るからもうのがれる事は出来ないと諦めているからこその思い悩んだ末の最後の命懸けの告白だと、ファルコは俯いていた。その言葉を否定するかのようにガビが立ち上がると、突然ファルコの左腕に巻いてあった、ワインを飲んだ印の黒い布を思いきり引きちぎると、ガビは早く何とかしに行こう、ジークが叫ばないようにそれをお願いしに行こうと、ファルコが巨人にならないようにと行動を開始した。

「行こう!」
「お前が脊髄液を飲んだことをジークさんが知れば、叫びを阻止できるかもしれない」
「うん…」

 巨人になって死にたい人間など誰も居ない、本心はいつ自分が醜い巨人になるか怖くてたまらないファルコは二人の言葉に涙ぐみながら、再び巨人と巨人人間が混線する地へ向かうのだった。どうか、ジークが叫ばずとも済むように。ただ、それだけを。

 ▼

 再び戦場へ舞台は移り変わり、屋上でそのジークがマーレの飛行船を投石攻撃で破壊する様を見せつけられ、自分達の上空を飛行船が炎上し撃墜されていく。それによりシガンシナ区の門の前に墜落し黒煙を上げた事で出口が完全にふさがれてしまった。

「ジークが船を堕としました。歴史が変わる瞬間は、間もなくです」
「奴らに……俺達の助け、必要あるか?」
「何で……ジークと、ウミがここに……!? ジークを監視してたのはリヴァイ兵長だ、奴に自由を与える筈がねぇ、オイ……兵長とハンジさんはどうなった?」
「見てみなさい、ジークに敗れたと見るのが妥当でしょう。彼はエレンとの約束通りのこの時間にウミを伴って約束の場所に現れました」

 見てわかる通りだと、リヴァイがジークに敗れたのだと告げるイェレナに、化け物以上の強さを誇るあのリヴァイが敗北して取り逃がしたという衝撃の展開に誰もが言葉を無くしている。

「……そんな馬鹿な……じゃあ、何でウミはリヴァイ兵長じゃなくジークを選んだって事なのかよ!!」
「まさか、ウミが……違う、ジークに操られているだけ、ウミはリヴァイ兵長を見捨てたりなんかしない、」
「そうだ。でも、残念だけどウミがジークと行動を共にしているのが紛れも無い事実なら仕方が無い!! ジークとエレンが世界を救うためだ!! 僕達もイェーガー派に加わり、二人の接触に支援しよう!!」

 患部の生き残りでもあり自分達を導いてくれた二人の犠牲をアルミンが悲しんでいる暇は無いと、エレン達が接触すること、すなわち「地鳴らし」を起こすのを残された自分達で早く手伝おうと呼びかける。
 そんなアルミンに対し、コニー、ジャンが突然驚いたような顔をし、ミカサはそのアッカーマンの本能に宿る危機能力で今にも切りつけようとせんばかりに身構えている。

「え?」

 一体三人ともどうしたのだと、首を傾げるアルミンが後ろを振り返れば、自分の頭一個分の背丈のイェレナがアルミンを何とも恐ろしい目つきで、その特徴的である黒目がちの目でアルミンを真下から睨みつけていたのだ!
 自分が先ほど流した涙が、嘘だと思ったイェレナはアルミンが自分に嘘をついていることを見抜いたのだろうか。
 その何とも言えない威圧感に圧倒されるアルミン。すると、イェレナは今度はその表情から一転して涙を浮かべながら、先ほどの涙が演技ではないのだと、証明してくれと圧を掛けるように、微笑むのだった。

「エレンとジークを助けてください。信じてますよ、アルミン」

 彼女の告げた信じるという言葉の重さに誰もが黙り込んだ。ジークの為なら何でもやりかねない目の前のイェレナが話した「安楽死計画」それに感銘を受けて涙したはずのアルミン達が、本心では「安楽死計画」を反対しているのではないかと、イェレナは自分をアルミン達が裏切るのでは、と疑いをかけての先ほど一瞬見せた恐ろしい顔つきだった。
 イェレナの「裏切ったらどうなるか覚えていろ」と言わんばかりの表情の恐ろしさに誰もが凍り付く中で立体機動装置を使い、アルミンたちもエレンが対峙する巨人たちからエレンとジークを守り、その方へと向かう為に立体機動で屋上から飛び立っていくのだった。

「(エレン、無理しないで、あなたまで死んでしまったら……嫌だ、そんなの、考えたくない!! 何のためにここまで辿り着いたの……自分を犠牲にしてもいい、何が何でも守らなきゃ……!)」

 エレンは「鎧の巨人」と「顎の巨人」を退けながら獣のいるこちらへと向かって歩いていく。ジークも投石攻撃を続けながら、飛び交う銃弾に逃げ惑っていたウミを回収した。さすがのウミも飛びかう銃弾を避け続ける事は無理だ。
 対巨人戦なら歴戦の亡者に匹敵する強さを持つウミでも、今人間とこうして戦う事になりその状況下でリヴァイとも刃を向け合い、そして辿り着いた運命、その宿命を嘆きながらもジークに守られる自分が真底嫌になる。だがそれでもリヴァイさえ、ハンジさえもを見捨ててまでも自分は選んだのだ。この選択を自分が悔いることは無いだろう、リヴァイを失う未来よりも、自分がエレンに食われて死ぬ未来を選んだのだ。

「すみません、」
『本当に、無茶しないでくれよ。君は「始祖の力」を持ったエレンに食われなきゃいけないし、負傷して巨人化してもいいけど、また見境なく暴れ回られたら俺でも止められないよ』
「でも、私だってそろそろコントロール位は……」
『駄目だね、確実に暴れないって約束できないのに君を巨人にしてこの街を破壊させるわけにはいかない。エレンと俺まで巻き込まれるし、それにここは君の育った街なんでしょ
 ?』
「そう、だよ。私の思い出が詰まった大切な街、だけど、もう私はこの街には、居られない。この街が惨劇に変わる位なら、私の身体を捧げてこの街を蹂躙しに来たあいつらを根こそぎ黙らせる」
『まぁ、その心配なら。いらないよ(エレン……もうすぐだ。あと……もう少しで、俺達の夢が叶う。もう少しで……)ん!? あれは!?(車力の巨人……そうか、そんなところでやられたのか……ピークちゃん……)』

 これまで二度巨人化したが、どちらも自分の力が尽きるまで暴れ破壊の限りを繰り返すだけでうまくコントロールできなかった。自分が巨人化して2人の窮地を救うと豪語するウミを跳ねのけるジーク。

 その時、歓声が沸き上がりその声の導く方へ目線を向けるウミと「獣の巨人」の本体に居るジーク。
 話し込んでいる間に向こう側の壁上から蒸気が立ち上っていることに気が付いたウミがジークを呼んだ。
 かつて敵対していた筈の2人が今は共同戦線を張るなど一体どういうつもりなのか、彼女がリヴァイを愛していたことを誰よりも知る者達は皆理解できないとますます彼女に向けられる非難の目。だが、それでも自分は果たすと決めたのだ。
 目を向ければ自分達とイェーガー派の兵士達を相手取り戦っていた「車力の巨人」が何といつの間にか身体が蒸発して骨だけの状態になって突っ伏すように倒れていることに気が付いた。
 イェーガー派に囲まれて彼女の巨人は本当に今度こそやられたのだろうか?

「やったぞ! 車力を仕留めた!!」
「……ようやく追いついたと思ったんだが……誰が仕留めた?」

 車力を倒して喜んでいるイェーガー派の自分の部下たちに対し、フロックが冷静に喜びもせずにその状況を見渡している。

「は? フロック、お前らが殺ったんだろ?」

 その瞬間、背後から突然ライフルがイェーガー派の一人の頭を貫通し、その命を奪ったのだ。

「ッ!?」
「追っ払え!!!」

 何と、蒸気の裂け目から姿を見せたのは、「車力の巨人」骨の下に隠れてライフルを構えていたマーレ兵士達だったのだ。やられたと見せかけ一瞬の隙を突いて変身を解いた本体であるピークの「車力の巨人」の特技である持続力を利用した攻撃であった。骨の下から出て来マーレ兵達が並んで一世に発砲する!

『ん?』
「この音は……!」

 その時、キリキリキリ……という何かを引き絞る様な音が「獣の巨人」とその手の上に立っていたウミの耳にも届く。

「何だろう、この音は……」

 この嫌な音は一体なんだと互いに目を見合わせる。それは、車力の背中に乗っていた対巨人砲の射角が自分達のいる方へと向けられる音だった。

「一発限りの騙し討ちですよ。マガト元帥、」

 風が吹き、蒸気が去ったその瞬間。隠れていたピークが射角を向けていたマガトへ今がチャンスだと冷静に合図を送れば、マガトの対巨人砲から放たれた弾丸が「獣の巨人」のうなじ辺りを撃ち抜いたのだ。

「ジークさん!!! そんな!! まさか、やられたフリを!?」

 その一撃はうなじに命中はしなかったが、彼の背中の部分をごっそり削り取り、巨人体のダメージが対巨人砲なだけあり貫通力が優れているのか大きな肉体越しに本体にも大きなダメージが与えられる。

「ジークさん!!!」

 ふらり、かつて自分達が敗走したこの街で、血を流した「獣の巨人」がウミを巻き込みながら壁の上からまっさかさまに地面へと墜落していく――。
 まさか本体がやられてしまったのだろうか、マーレの最新兵器の前に巨人も太刀打ちできない時代の到来を感じ、もう巨人に蹂躙される時代の終焉が身に沁みる。
 ジークが、撃たれたのだ。エレンとの戦いで未だに受けたダメージから動けないでいる「鎧の巨人」と「顎の巨人」がその様子を遠くから見つめており、対巨人砲が放たれる寸前、その強烈な弾丸が放たれる音に耳を塞いでいたピークがその手ごたえをマガトに尋ねる。
 機転を利かせた彼女は自らその変身を解き、そして再び人間の姿で自分が脱ぎ捨てた巨人体に全員を隠し見事にだまし討ちに成功したのだ。

「殺しましたか?」
「ッ……射角が取れない!! 移動だ!!急げ!! 奴に少しでも命があるなら、叫ぶはずだ」

 その言葉を聞き、ピークが再び「車力の巨人」へ変身する。ジークが落とされ絶体絶命の危機が訪れる、だが、ジークにあの切り札を叫ばせてはいけない、ウミはジークと共に地面に叩きつけられる寸前とっさに立体機動装置のアンカーを壁に打ち込んで何とかぶら下がって地面との激突を避けるも、ジークは呼び掛けても応えない。

「ジークさん!!! 駄目よ!!! まだ……っ、あなたは、っ、死ぬ時じゃない、死なれたら困る!!!」

 慌てて確認に向かうウミを遮る銃弾、狙い撃ちにされ、ウミも絶体絶命の状況だ。これでは壁下に落下したジークが生きてるかどうかの確認ができない、それだけは駄目だというのに、ジークが死んでしまったら、エレンと自分が決めた誓いが!!

「ブラウン!! ガリア―ド!! いつまで寝ている!!「獣の巨人」と「始祖」を接触させるな!! 二人が接触して「始祖の力」を使われたら終わりだ!! そうなる前に始祖を食え!!」

 マガトの言葉を受け、顎の傷を回復させた「鎧の巨人」であるライナーが足を引きずりながらなんとか立ち上がろうとするも膝を引きずりエレンの元へ向かう。それは、かつて夕日が沈むあの平原での戦い。追い詰められたエレンが発動した座標に追い込まれた時と同じ状況に陥れば自分達の命はないという事だ。

「(やはりか……エレン……もう、止まってくれ……この世で一番それを持っちゃいけねぇのは……エレン……お前だ)」

 壁上からはるか下へ叩きつけられたジーク。もしかしたら死んでしまったのだろうか、嫌な予感に駆られてたまらず駆け寄ろうとするウミをマーレの兵士達の弾丸の雨が襲いこれでは接近が出来ない。

「邪魔よ、どいて!! ジークの所に行かせて!!」

 ジャキンッと、神速とも取れる速さで引き抜かれた刃を振りかざし、ジークに止めを刺そうと銃を向けるマーレ兵達に向かって立体機動装置を駆使して駆け出すウミとマーレ兵達の激闘が繰り広げられる。

「ぐあっ、」
「うあぁあっ」

 飛び込み上空からウミの怒りに燃えた顔が襲い掛かる。その迫力と怒気迫る表情、ジークが死ねば「獣の巨人」は別の誰かに引き継がれる、そうすればヒストリアが強制的に引き継がねばならなくなってしまう。
 それだけは何としても阻止しなければ――。
 叫び声をあげ、散り散りに逃げて行くマーレ兵、突然姿を見せたのがマーレでも位の高いジオラルド家の令嬢とあり、撃ってもいいか。その一瞬のためらいがウミを戦闘へ駆り立てていく。

2021.10.25
2022.01.30加筆修正
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