THE LAST BALLAD | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

#121 原始の巨人

 リヴァイ率いる調査兵団VS獣の巨人へ姿を変えたジーク率いる二つの国の戦力は、四年の歳月を経てこの地レベリオで激突した。過酷を増していく戦いの中でエレンと「戦槌の巨人」の交戦も続いていた。
 その光景を横目に、舞台の崩落に巻き込まれて今にも息絶えそうなウミの姿がそこに横たわっていることをリヴァイは知らずに激戦へ挑む。
 調査兵団達が夜闇を飛び交い、雷槍が次々撃ち込まれ、巨人たちが迎え撃つ中より激しさを増す戦い。

「戦槌の巨人」に拘束されたエレンを助けようとミカサが雷槍を水晶体の中で瞬きひとつせずにいる本体へ放つが、アニの時と同じようにその結晶体はどんな力を持ってしても傷ひとつさえ入らない。

 その時同じくして、ステージの残骸の片隅、埋もれていた瓦礫の中から突然、巨大な両手が何かを守るかのように包み込む形で地上へと飛び出してきたのだ。その手の中で守られていたもの、無傷の状態のファルコがマーレとパラディ島勢力の激化する戦闘の渦中の中心から姿を現したのだった。
 戦闘は激しさを増すばかりで、雨のように銃弾が飛び交う轟音は止まない。エレンが巨人化した際、ライナーがとっさに巨人化したことでファルコを崩落する瓦礫の衝撃から身を挺して不完全な「鎧の巨人」の状態で守ってくれたのだ。自分がもぐっている間に地上では何が起きているのだと、目の前で広がる飛び交う黒装束の集団と自分達が後に継承する巨人たちとの激しい戦いの渦中の中心で目覚めたファルコ。
 その光景にファルコは今一体何が起きているのか状況が把握しきれずに戸惑っているようだった。
 長髪の髪を垂らした凶悪な顔つきをした巨人の姿にファルコはあれが今までやり取りをしていたクルーガーの本来の姿なのだと悟り、そしてこれまでの彼とのやり取りも何もかもが嘘だったと、そして自分達の故郷を破壊したのだとその怒りを募らせる。

「あれがまさか!? クルーガーさん!? いや、エレン・イェーガー……よくも騙した!!」

 周辺の建物で生き埋めにされ息絶えた何の罪もない住民の遺体を見てファルコは自分も崩落に巻き込まれたことを思い出す。記憶が途絶える前に最後に見たのは自分へ手を伸ばし大柄な体躯で覆いかぶさって自らの手を噛みちぎり巨人化したライナーの存在だった。

「ブラウン副長!! あのとき身を挺して俺を……! 副長!!」

 気付き、ファルコが急いで自分を守ってくれた「鎧の巨人」指の隙間から這い戻ると、そこの手のひらの中心では胸元まで「鎧の巨人」の筋組織に身を埋め、自分を守ろうとしたライナーが変わり果てた姿でかろうじてその肉体を保ちながらも意識を失い眠っていたのだった。

「生きてる……。副長……ごめんなさい、オレのせいで!!(でも……意識がない。巨人の力なら損傷した体は勝手に修復されるはず。生きる強い意思さえあればだけど……これはまさか……)」
 ――「もう、嫌なんだ、自分が……俺を殺してくれ……エレン。もう、消えたい……この世から……」
 先程の光景がファルコの脳裏に浮かび上がる。涙を浮かべたライナーが、一度自ら命を絶とうとしたこと、出来なかった事、まるで自分の犯した罪に苦しむように。
 懇願し、クルーガーに土下座する彼はまるで子供のように自分を殺してくれと許しを請う姿を。
 彼の大きな体に背負い込んだ幾多もの罪、後悔、今も彼はその螺旋の中に囚われているライナーの心臓に触れ、そっと呼びかけた。

「……副長、助けを呼んできます。外にいるのは敵ばかりじゃありません。俺もガビもみんなあなたの味方ですから……副長」

 ファルコの優しい声がライナーへ届くかはわからない、だが、このままにはしておけない。ファルコはそっと周囲で激化する戦闘に巻き込まれないようにとゆっくりとその場を離れるのだった。



「投石来るぞ!! 避けろ!!」

 一方、巨人とパラディ勢力の戦闘は今も激化の一途を辿っていた。懐中時計を手に時間を気にするリヴァイ。獣との再戦に丈ぶる心を必死に強靭な理性で押し込んでいるのだ。

「あの野郎!! 俺が仕留めてやる!!」
「待て!!」

 飛んで来る「獣の巨人」の投石攻撃をかろうじて避けるジャン。
 しかし、避けた先で他の兵士達が「獣の巨人」に向かって雷槍を繰り出す中、獣の巨人の隙を背後からまるで連携を組んでいるかのように、息の合うファインプレーでピーク扮する「車力の巨人」そして彼女と運命を共にするパンツァー隊から放たれた散弾によりまたその命が散っていく。

 四足歩行の身体で自由自在に動き回る「車力の巨人」の兵装の中でカバーし、うかつに近づく事さえ許さない。

『戦士長の背後は私たちが守るよ!!』
「「はい!!」」
『くれぐれも残弾に注意して。パンツァー隊。敵を殲滅するよ』
「「了解!!」」

 その隙を狙って死角のあるピークを狙う調査兵団の一人が新・立体機動装置のガスの威力を利用して大きく飛び掛かり真上から真下に向かってピークに雷槍を突き立てようとしたのだ。

「直上!!」

 すぐに気付き、ピークが巨人体の中から叫ぶ。

「くっ射角が!!」

 しかし、固定砲で真上へ傾けるも真上からの攻撃に対して子の傾斜角度では届かない。このままでは――。
 その時、真上からピークを狙っていた兵士を「顎の巨人」がそれ以上に跳躍して間一髪のところで兵士をその硬質化をものともしない鋭い爪で勢いよく地面へ叩き潰して攻撃を阻止することに成功した。

「ガリアード!! 助かったぜ……」
「危なかった……」
「ありがとよポッコ!!」
『助かったよ……』
「気をつけろ!! 追ってたアッカーマンを見失った!! 奴がどこかに潜んでいるぞ!!」
『なんだって……』

 ポルコがうなじからその本体を露出させてピークとパンツァー隊へ危険を呼びかける。ただの兵士達なら自分達の脅威ではない。しかし、それが「アッカーマン」の血を引くたった二人だけの種族であれば、危険度は段違いに跳ねあがる。
 かつて四年前のシガンシナ区決戦でライナーとジークが対峙し実際に危うく殺されかけた脅威の人間の姿でありながら巨人化に匹敵する未知なる能力を引き出せる「アッカーマン」の血を引く二つの存在。
 それを見失ってしまったのだ。一瞬にして自分の持ち味である「顎の巨人」の武器である顎の筋肉を切断されたリヴァイの鋭い目つきに射られた恐怖がまだ残る中ポルコを恐怖心を煽る。
 ピークも冷静に周囲を見渡すが、アッカーマンの姿は見つからない。
 ふと、二体の巨人が屋根の上からエレンのほうを見ると、エレンは硬質化で出来た大木に貫かれながらも無理やり結晶化した「戦槌の巨人」の本体である彼女を結晶体事捕食しようと大口を開けて今にも飲み込もうとしているではないか。

『ポルコ!! 戦槌が……!!』

 エレンが「戦槌の巨人」を結晶ごとその鋭い歯で噛みしたその瞬間、エレンの口からおびただしい量の赤い血が噴き出す。しかし、それは「戦槌の巨人」が食われた事で流れた血ではなかった。エレンが捕食しようとしたその結晶体は岩よりも固く、捕食しようとしたエレンだったが、逆に歯や顎が粉々に粉砕して血だらけになってしまったのだ。
 まさに歯が立たないと言う状況だ。結晶体の中でラーラ・タイバーは顔色一つ変えずエレンを挑発するかのように睨みつけていた。
「捕食するならしてみろと、」とでも言わんばかりに。

「(アニと同じ水晶体……やはりこいつには歯が立たねぇか……。でもお前は力を使い果たしている。少しでも余力があるなら、このまま俺ごとうなじを貫いてるはずだ……。もうお前の手札は残っていない)」

 口から出血しながらもエレンはダメージを受けた巨体を捨て、再びそのうなじから飛び出し冷静に呟いた。

「俺はまだだけどな――」

 己の手をかみちぎり、エレンは再び巨人へと変身を遂げるとともに「戦槌の巨人」の拘束されていた巨人体から脱出したのだった。
 その様子を見ていたポルコだったが底知れぬエレンの力にまで巨人能力者となってから日も浅い自分ではどうすればいいのかと、焦燥感を募らせていた。

「くそ……あの野郎まだ……力を残していやがったか。奴さえ仕留めれば、始祖さえ……」
『何をびびってんのポッコ?』
「あ!?」
『私たちが焦る必要はないよ。今この戦場を支配しているのは私たち。はなから敵は追い詰められてる。敵は立体機動で乗り込んできたわけだから武器も燃料も大した物量じゃない。つまり補給線のない敵地のど真ん中で袋のねずみなわけ。今頃マーレ軍がこの収容区を包囲してる頃だから敵に退路はない。そもそもパラディ勢力自体、マーレ相手にまともに戦争できる体力はないんだよ』
「だから「始祖の巨人」さえ押さえちまえば、奴らは「地鳴らし」の切り札を失うって話だろ!? 今その切り札が目の前にあるんだぞ!? 焦らずにいられるかよ!?」
『だから慎重に駒を進めようって話なの!! とにかく、私たちはアッカーマンから戦士長を守ればいいの!!』
『さすがピークちゃん。そのとおりだよ』

 巨人体でありながら会話が可能なピークの「車力の巨人」に変身した際の低い声が周囲に響く中で、その意見に同意するかのように「獣の巨人」は粉々に粉砕した瓦礫を両手に持ち、そのまま両手を広げるようにはなったのだ。
 砂煙で目くらましをするかのように、放物線を描いて周囲にまき散らすように四方八方に投げ、それはまるで威力の高い散弾だ。建物に隠れていた調査兵団達はその砂煙と轟音に視界を奪われ陣形が崩れる。
 投石攻撃でエレンと自分との間にある隔たりを無くして言い切った。

『エレン・イェーガーは……俺の敵じゃない。まずはお前からだ。出てこいよリヴァイ。時間がないんだろ?』

 飛散した投石攻撃の雨が止んだ建物内で、ブレードを逆手に持ち懐中時計を手にしたリヴァイがジークからの呼びかけに応じるかのように流し目でその声の方角へ目線を投げた。



「すげぇ……ジーク戦士長。やっぱり圧倒的だ」

 戦場を潜り抜け、息を切らし砂ぼこりまみれだが無傷のファルコが投石攻撃で周囲の建物や障害物を破壊する「獣の巨人」の圧倒的な力を前に自分の兄が後に継承する巨人の凄まじさをひしひしと感じていた。
 背後の建物を駆け抜けながら圧倒的なその戦力の前に恐れおののきそして味方でよかったと知るファルコ。
 ライナーを救出すべく仲間を探していると向こう側から聞き慣れた隊長の声がした。

「グライス!?」
「っ!? マガト隊長!? 広場の奥に……「何をしてる!? 大丈夫なのか、怪我は!?」

 額からを血を流したマガトが今まで姿が無かったファルコの無事な姿を見て安心したのもあるが、普段吉備良しい彼が純粋に自分を心配していたのが肩を掴む手の力から感じ取れた。彼は自分を責めることは無く、怒っているのではなく、心配していることが伝わったのだった。

「あ、ありません!!」
「ならば急いでここから離れろ」
「あの!! ブラウン副長が広場の奥に!! 動けない状態で地中にいます!!」

「なんだと!?」
「俺のせいで……俺をかばって!!」
「誰にやられた!?」
「エレン……イェーガーに……」

 マガトとファルコが話しているところへ、エレン・イェーガーへの憎しみを込め、小柄な体に似合わぬライフルを手に戦う覚悟と「島の悪魔」への復讐を決め息を切らして駆け付けたガビが、そして、母から頼まれた大事な宝物を抱きかかえ戦地に戻って来たアヴェリアも再び悲劇の舞台へ集合したのだった。

「アヴェリア……何だその子供たちは?」
「マガト隊長……」

 さらなる悲劇が、そこで待ち構えていることも知らずに。



 激化するレベリオでの死闘。その一方でマーレの港付近では現在最高司令官であるマガトの指示によりマーレ海軍の軍艦が続々と港へ向けて進軍を開始していた。
 海からも見える程レベリオの地がどれだけ悲惨な状況下かがよく分かるからこそ誰もが焦燥感に緊迫した面持ちで準備を進めている。

「着港急げ!! 大至急レベリオ区へ兵を送れ!! 現場は壊滅的被害を受けている!!」

 その時、一人のマーレ海軍の水平が横に小さな漁船と深い緑色のマントで全身を覆い隠した人影を見かけてこれから戦場となるこの場で無関係の漁船へ避難を呼びかけた。

「ん!? おい!! そこの漁船、危ないぞ!! この艦隊が見えないのか!? おい……!?」

 漁船の上にいたのは。彼がその緑のマントそっとを脱ぐと、どこか悲しげな表情を浮かべた優しい風貌の金髪の青年が全身を黒尽くめの服装に包み、その姿を露わにした。
 彼がその艦隊へ目を向けたその瞬間、彼の全身を鮮烈な電流が走ったと同時に彼を中心に何百度もある熱風がさく裂し、艦隊諸共周囲の建物すべて何もかもを爆撃が吹き飛ばしたのだ。
 夜だと言うのにまるで夕方のような明るさの中で。
 爆発の衝撃で立ち上るきのこ雲、それはまるで――。その痛烈な光はエレン達と巨人たちの死闘が続くレベリオの広場からもよく見え、派手に吹き飛ばされたマーレの誇る巨大軍艦が燃え尽くされ爆風で宙に舞う姿までもが視界に飛び込み、その光景を幾度も見てきたマーレが誇る戦士隊たちは全てを悟り、そして絶句した。

「アヴェリア……? 子供なんて抱いて、どうしたの……」
「それよりもぼさっとするな!! お前たちは危険だから今すぐここから逃げろ!!」
「マガト隊長……あれは……」
「ぐん、かん……!?」
「軍港がやられた!! あんなことができるのは――」

 マガトもその光で全てを悟り、だからこそ、まだ若い未来ある戦士候補生たちを荷が襲うと突き飛ばす勢いでその場から遠ざけようとした。その時、まばゆい光の後に遅れて吹き荒れる強烈な風圧が無防備なレベリオの地まで吹き荒れ、アヴェリア達はその爆風に耐えきれず一斉に吹っ飛ばされてしまったのだ。

「ッ!!」
「うわああああ!!」

 その光景を目の当たりにした巨人化能力者である戦士たちも吹き荒れる風圧に晒されながらその爆発の意味を知るのだった。

『――超大型巨人だけ!! ベルトルトは命と巨人を奴らに……奪われていた!!』
「くっそがぁあああ!! やはり連中が無策でここまで攻め込んできたわけがねぇ!!」
『ポルコ!?』
「やってみろよ悪魔共!! 始祖を失えばすべてご破算だろうが!!」

 ベルトルトが死に、巨人の力さえ奪われていた事実を知ったポルコは激しい怒りに叫んだ。ピークの制止も聞かず、再びその本体を「顎の巨人」へ沈めると、今度はエレンを仕留めるべく素早い身のこなしでエレン巨人に向かって突っ走っていく。
 そのエレンの傍にいたミカサも応戦すべく雷槍から対巨人用のブレードを引き抜き、改良されてますます俊敏な動きが可能になった新・立体機動装置で宙を舞う様に「顎の巨人」との戦闘を開始した。
 リヴァイがさっきから懐中時計と睨めっこする理由も、調査兵団達が時間を気にする理由も全てに最初からこの地に着くまで意味があった。

「もう一人のアッカーマン!! 邪魔だぁあああ!!」
「――もう時間が迫ってる!! それまでは何としてでも車力の機関銃を無力化するんだ!!」
「了解!!」
『戦士長!!! 敵の総攻撃が来ます!』

 ワイヤーを手繰り寄せこちらに接近してくる兵力。ピークはジャンたちの攻撃に注意を促したその瞬間。

 ――それは一瞬の出来事だった。あまりにも早すぎて、ピークが気付いたとほぼ同時に「獣の巨人」がうなじから大量の血を吹き出しそのまま地面へ真正面からぶっ倒れたのだ。
 飛び散る「獣の巨人」の血の海の中でピークが見たのは、目をぎらつかせて三白眼をひん剥いた恐ろしい形相のリヴァイの獣のような目だった。
 これが、四年前ジークを追い詰めたアッカーマンの本能だというのか。目にも止まらぬ俊足で飛びかかり一瞬にして四年前の因縁の相手である「獣の巨人」のうなじに向かって奇襲をかけ、そのまま切り裂いた小柄な男の姿にピークは戦慄した。

 ジークの巨体は一瞬にしてこの目の前の男によって前のめりに地面へ倒れ、動かなくなる。
 その場にいたマガト、ガビ、ファルコ、そしてアヴェリアも。戦士長と慕われ驚異の子と恐れられていた最強の力を持つ「獣の巨人」が倒れた姿に絶句していた。
 追い打ちをかけるように、緑のマントを靡かせリヴァイが倒れ込んだ「獣の巨人」の元に着地する。さっき「獣の巨人」を仕留めたブレードを「獣の巨人」の肉体に突き立てると、懐から取り出した爆弾を持ちこちらを呆然と見上げる自分の息子の存在と、そして彼が大事に抱えている二人の男女幼い子供に目を見開いた。

「(親父……!!)」
「ジークさぁああん!!!!」
「下がれ、ガビ!!!」

 倒れ込み動かないジークに向かって駆け寄ろうとしたガビを守るようにマガトが覆いかぶさるタイミングと同時にリヴァイは最後のトドメだと切り裂いたうなじの中に手にした大きな爆薬を投げ入れ、その場から飛び立つとガビが駆け寄る間もなく轟音を立てて大きな爆風と共に爆発したのだ。

「っ――!!」

 強烈な爆風の中で立っていられないと足をふらつかせ、それでも必死に母の大切な子供を守ろうと這いつくばって身を低くするアヴェリアを突如強い力がさらった。
 自分が抱きかかえられていたことに気付き、その方向に目をやれば、そこに居たのは先ほどの戦闘でまるで動物のように本能を剥き出しにした実父の今もぎらついた目が。
 その目が自分を睨みつけていて、その小柄な見かけよりも鍛えた太い腕がしっかり腹か腕を通して荷物のように小脇に自分と子供たちを抱き抱えていた。
 そして、別の兵士の腕には四肢の無いリヴァイに仕留められたはずのジークが、何と生きていたのだ。

「親父……俺は、そうだ」
「アヴェリア……まさか、お前までマーレ軍に居るとは……」
「俺は……」
「今は、喋るんじゃねぇ、説教はそれからだ」
「俺は、俺のやり方で強くなるために自分で島を出たんだよ……殴りたきゃあ殴ればいいよ。謝らないからな……それよりも、母さんが」
「ウミが……何だ」
「早く、そんなに時計握り締めてちらちらちらちら。時間がないなら助けてくれよ……でも、もう手遅れかもしれない、エレンが巨人化した時、舞台の袖に居て崩落に巻き込まれて支柱に……下半身を貫かれて磔になって動けない」
「……チッ」

 あんなにも殺したい人間を殺さずに生かして連れて帰らねばならない。自らの手で殺したい相手を殺せないその彼の憤りは計り知れないだろう。
 そして、この状況下で家出していた息子が一番危ない場所で子供を抱いて必死に守ろうとしていたのだ。

「そのガキ共は何だ、親が死んで生き残ったから勝手に連れて来たのか……?」
「違う……」
「じゃあ、何だ」
「……母さんの産んだ子供だよ」
「……あ? どういうことだ」
「知らねぇよ……親父の子だろ」

 そうであるに違いない、だって、そうだ。2人の間から生まれた少年は父親にそう告げるが、父親は何も答えない。ただ、重い沈黙の中でジークだけが静かにそのリヴァイの横顔を見つめているのだった。

「オイ……何で、何も言わねぇんだよ……わけわかんねぇよ、何で母さんは島を捨てた? 俺達を捨てたんだよ!! そもそも、あんたが母さんを裏切るからだろ!? 何か言えよ、なぁ、親父!!」

 出なければ、彼女は一体誰の子供を、宿し、そして産んだと言うのだ。育てるには過酷でしかない双子の姉弟など。
 何も答えないリヴァイ。ただ気難しそうな顔をして黙り込んだまま。父親のまさかの反応にアヴェリアの顔も次第に曇っていく。
 容姿は明らかに父親である彼の面影なのに。
 軍港でアルミンが「超大型巨人」へ変身した時の爆風や、先ほどの父親の爆発の衝撃を喰らい受けても起きない子供たちはよっぽどその腕が寝心地がいいのかすやすやと眠っており、同じ体格のあの島からこんなにも遠くの地で強さを求め孤独に戦っていた実の家出息子をようやく見付け出し有無を言わさずアヴェリアは、別れの言葉さえも許されないままにマーレの地を離れ故郷へ引き戻される。因縁の相手でもあるジークを殺すことは許されず、捕まえなければならない宿命を背負ったリヴァイの声は普段よりも低くまして勝手に家出をして行方不明だった自分との再会もあり並々ならぬ怒りに、満ちていたのだった。



 遠くから聞こえたリヴァイの投げた爆弾がジークを弾き飛ばした轟音にミカサへ襲い掛かろうとしていた「顎の巨人」も思わず振り返る。
 ピークもやられたジークの身を案じ彼の名を素で彼の名を呟いていた。

「……ジーク?」
「ピークさん!! 敵が来ます!!」
「くっ!!」

 シークがやられた事により残された巨人たちは自分達だけ。
 これまでどんな戦地でも「獣の巨人」による投石攻撃。そして自分達「車力の巨人」の兵装に乗ったパンツァー隊とで死角のない攻撃を繰り出しては向かい来る調査兵団達を蹴散らしていたが、そのジークがやられた事によりピークとパンツァー隊たちへ狙いが定められた。
 残された自分達を葬るべく調査兵団達の一斉攻撃が始まった。
 周囲を取り囲むように飛び交う黒い集団は夜闇に紛れてなかなか弾が当たらない。ピークも負けじと応戦し、兵装で武装してはいるが、自分の巨人の肉体は持久力に特化しているが、他の巨人達よりその身体は打たれ弱いのだ。
 パンツァー隊の力を借りて打たれ弱い自分の弱い身体を守ろうとする。
 手のひらで飛んできた雷槍を振り払い、必死に抵抗を繰り広げるが八のように飛び回る調査兵団に翻弄され、弾丸が当たらない。これでは防戦一方。

 その激闘の様子を物陰から観察する一人の姿があった。
 サシャだ。背も伸び四年前と髪形の分け目を変え、活発だった印象の少女はすっかり大人の女性へと姿を変えた。彼女は冷静にパンツァー隊との連携で隙の無い「車力の巨人」の隙を見逃さないようにライフルを手に身構えていた。


「ふーっ……」

 サシャが物陰から姿を見せ、弾丸を弾き飛ばすぶ厚い兵装で守られたパンツァー隊の一人にめがけてその兵装の隙間目掛けて銃弾を放ったすぐ後、乱射していたマシンガンの音が突如として止まった。

「は……」
「な……!?」
「おい!? カルロ!?」
「返事しろ、オイ!!」
「カルロぉぉぉっ――!!」

 隙間を狙った夜目も利き、弓の名手だったサシャの射撃の性能は格段に向上している。見事にその銃弾はパンツァー隊の一人であるカルロの眉間を貫いて一瞬でその命を奪っていた。
 パンツァー隊たちは兵装の中に自分達の写真やピークの隠し撮りの写真などを飾り、全員が一丸となってこれまで戦っていたのだ。大事な仲間を殺され、戦場では感情をみだりに露見しないピークが怒りで我を忘れてサシャへ襲い掛かる。

「よくも……!」

 ピークはサシャのほうへ向かって大口を開けて駆け出したその瞬間。それと同時にサシャの背後から颯爽と建物を乗り越え、待ち構えていたと言わんばかりに四年前ライナーを取り逃がした自分の不甲斐なさを振り払うべく雷槍を装備したジャンが登場したのだ。

「あん時きゃぁどうも……」

 四年前のシガンシナ区決戦での雪辱を忘れたわけではない。自分のせいで捕まえたライナーを彼女に奪われた恨みを晴らすべく、ジャンは「車力の巨人」の鉄で覆われたその兵装に向かって改良された立体機動装置で真下を滑り込みながら雷槍をぶちかまし、それは兵装で覆われていない右目に突き刺さった。
 ジャンが突き刺さったピンを引き抜いた瞬間「車力の巨人」の右目が火柱を上げて爆発すると、撃たれ弱さを武装してカモフラージュしていた「車力の巨人」の目玉がボロンと飛び出し、弱点が露になった。

「今だ撃て!! 撃ちまくれ!!」

 ジャンの掛け声を合図に一斉に飛びあがった兵士たちの無数の雷槍がジャンの雷装を喰らった無防備な「車力の巨人」めがけて放たれる。
 次々と爆発する雷槍に立ち上る爆炎。一斉砲火を受けたパンツァー隊は絶叫の中でピークの名を叫び最後まで共に戦い仲間以上の絆で結ばれた彼女の名を断末魔に燃え盛る紅蓮の炎の海に包まれ全員が焼け焦げ絶命したのだった。

「(……みん……な……)」

 雷槍の爆撃をまともに食らい、火柱の中包まれる「車力の巨人」
 ピークは灼熱の熱風の中で悶絶し、雷槍の爆撃で巨人体のダメージをそのまま本体に設け彼女の口からおびただしい量の血が飛び出した。
 燃え盛る業火から逃れるべく火柱から飛び出した。絶叫にのたうち回りそのまま走った勢いで建物の屋上から建物に何度もぶつかりそのまま転がりながらガビたちの眼前で倒れ込んで動かなくなった。

「ピーク!!」

 マガトが大事な部下でもあり幼い頃から面倒を見てきた娘のような存在でもあるピークに慌てて駆け寄る。
 三人の前に姿を見せた「車力の巨人」の本体は目を覆いたくなるようなひどい有様だった。右目は目玉がだらんと露出し、煙の中で血まみれで動かなくなっていた。

「「車力の巨人」が逃げたぞ!!」
「急げ!! とどめだ!!」

 次々と倒れていく戦士たちにファルコはもうたくさんだと、顔色を青ざめ、深く絶望しした。

「もう……やめてくれ……」

 祈るように呟き、ファルコは負傷して動けず虫の息のピークのところへ駆け出した。

「グライス!?」
「撃つな!! やめてくれ!!」

 ファルコはピークを庇う様に立ちはだかり追いかけて虫の息のジャンにこれ以上攻撃をするのはやめてくれと必死に乞うが。突然姿を見せた幼い少年の姿にジャンの表情には迷いが生まれ、ジャンの動きが完全に止まる。
 因縁の相手のピークにとどめの雷槍を見舞おうとする中で突然姿を見せた少年ファルコがそれを庇う姿にジャンは彼が戦士候補生であることも知らず民間時の介入に迷いが生じてしまうが、それでも――やるしかないのだ。
 かつて自分達調査兵団が起こしたクーデターの中、自分は似たような状況に陥ったことがあった。人間を殺す事、自らの手を汚すことに躊躇う中でウミが飛び出し、アルミンがその手を汚した事で救われた命があったあの苦い記憶が蘇る。

「ああああぁああああ」

 誓ったのだ。もう二度と、あの時のようなへまはしない。と。覚悟を決め邪魔立てするなら民間人の少年で在ろうとも、自分は兵士だ。ジャンは未練を断ち切るように雷槍を放った。しかし、確かに「車力の巨人」諸共貫くためにファルコ目掛けて狙って撃ったつもりなのだろうが立ち上る蒸気は仁王立ちしていた少年を避け、狙っていた「車力の巨人」本体ではない全く見当違いの方向へ飛んでいって爆発したのだ。

「(蒸気で軌道が逸れた!? それとも俺が外したのか!?)」

 ジャンが放った雷装の爆発の衝撃の中、「車力の巨人」のうなじの中から口元を夥しい量の血液で真っ赤に染まったピークがずるりと出てきた。

「ピークさん!!」
「……にげ、なさい……」

 慌てて駆け寄るファルコへ虚ろな目で口元から血を吐きながらピークは武器や戦う術を持たない若き戦士候補生たちへここは危険だと自分を置いて逃げろと告げる。

「「車力」の本体が出て来た!!」
「逃がすな!! 確実に仕留めろ!!」

 全身血まみれのボロボロにやられている本体の彼女を抱き留め、ファルコは変わり果てた普段明るくて優しくて賢い彼女の満身創痍に絶句した。「獣の巨人」の自分達戦士隊を束ねていたジークでさえ、そして、恐ろしい兵器の前に成す術もなく知略を張り巡らせた彼女でさえもやられてしまった。
 そこへ、すかさず止めを刺すべく一斉に雷槍で襲い掛かる調査兵団。ファルコが焦ったように身を伏せた瞬間、飛んできた弾丸が調査兵団の一人を撃ちぬき、兵士はそのまま翼を奪われ地面へ落下した。弾丸を放ったのはマガトだった。

「ピークを守れ!! ブラウン!! グライスに手を貸せ!! ピークを安全な場所へ運べ!!」
「了解です!!」
「だめだ!! 距離を取れ!!」

 大事な「車力」を失うわけにはいかない。命懸けで銃弾で応戦するマガトたちマーレ兵達に任せ、慌ててファルコとガビは瀕死状態で血まみれのピークを肩に腕を回して近くの建物の中へと避難したのだった。



 その激戦の嵐の中で、崩落に巻き込まれて動けなくなったウミを巨人化の際に迸る稲妻が彼女の全身を覆う様に突然光り出したのだ。

「(……駄目よ、まだ……出てこないで……!! 今の私じゃあなたを……!!)」

 しかし、瀕死の身体は本能で生きようと自らがあの日投与した「遺産」が彼女へ「戦え」と、そう促し。13年の呪いに囚われていた肉体が二千年にもわたる長い沈黙の中で、今目を覚ます。

2021.04.09
2022.01.30加筆修正
prevnext
[back to top]