Order of the Phoenix-1
- ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団 -
名前の保護先は特段誰かと共に生活するわけでもなく、ただの小さなアパルトマンが手配されただけで、ダンブルドアに渡された旅行詩集の、部屋のストーリーが書かれたページにぽんと触れれば、本を離れ舞い上がるページと強い一瞬の光に包まれ、簡単に来ることができた。名前はホグワーツにて荷物をまとめ、一呼吸置けばすぐにそれに取り掛かった。ダンブルドアの意図を完全に汲み、家族のいる家にも友人たちのもとにも、向かわなかった。
魔法使いとマグル、二つの世界のちょうど境目のような部屋で、この建物自体も名前の部屋から右がマグル、左は魔法使いという状態は、まるで探し当てる者の死角に住まわせられているようだった。
自分の家とも離されてまでこのように隠されるのは、あちら側に自分の存在が知られるのはよほどまずいのだろう。そのあたりを自分で調べて進むのには体験した出来事も相まって、勇気が足りなかった。
「何か匂いを変えているな?名前」
「指を鳴らせば済むだろうが、なるべくこっちを使いなさい」
ムーディの姿の向こうから寄越される狂気じみた視線。閉じ込められる、暗く狭い戸棚。内密に自分が彼らから隠される理由へ、自分から近付くのは気が引け、ダイアゴン横丁から脇道を抜けるのとは、名前をもってしてもワケが違った。
だとしても、ダンブルドアからも聞かせられずにただ住まいを渡されるとは、恐怖を体験し、友を失い悲しみの真っ只中でもある自分に配慮が足りないのでは?
「……」
"コン" 「!」
不服そうにパララ、と本をめくっていると、暗い毛色のフクロウが、手紙をくわえて窓辺にやってきた。目を向けていた詩集のタイトル。肝心のホグワーツ関連の行先がないかわりに、"家""喫茶店"そして"本部"がある。
名前
其処が君の心をゆっくりと癒し落ち着か
せることを祈る。詩集の最後、あとがき
のページは、実はアラスターの周辺へ通
じている。彼からは君を訪ねさせるなと
念押されているが、私を訪ねるより安全
だ。君と、君の大切な人のために、君に
力を得てほしい。君が其処でじっと時を
待つだけの子ではないというのは、理解
しているつもりだよ。
もうひとつ、グリという名の犬について。
あれは……
手紙は、叫びの屋敷での一件以来面識などほぼ無い"とばかり思っていた"、シリウスブラックからだった。ムーディ
の名に驚きつつも、荷ほどきもまだまだのその部屋で、名前は知らされた親友グリの事実に口を手で覆い、黙った。