08



可能性は低くても対象が同じ"魔法の関係ある、紙"である以上、試してみる価値は十分ありそうだった。魔法使いの卵がそうしないと振り向けないということは、それが所謂、スイッチオフの合図なのだろう。

「"悪戯完了"!」ぴんっ
「「「……」」」

フレッドは意気揚々と名前の手にある羊皮紙を弾いてみせたが、今がスイッチオフ状態であるのだから、オフにオフを重ねたところで何も起きる筈がなく、ジョージと名前にただ視線を向けられたので、なんでもないと返した。気を取り直してと、名前が息を吸い込む。

「完了が解除の合図なら、始める合図もある筈ね」
「どうする?用途が分かんなくちゃ合図も出しようがないよ、フレッド」
「あぁ。その魔法使いの言ってたことも気になる。なんで見習い魔法使いだって分かったんだ?気味悪い店をうろつきたがる奴が名前以外に居たとでも?」

すかさず名前は喉を鳴らして制する。にやにやし合う二人を横目に、フレッドの言うことも一理あると名前は考える。肩にフクロウでも、頭に尖った帽子でも、この紙のほかに杖でも持っていたのか。
断り続けていたこの二人の協力を気付けばもう始めてしまっているのは、二人の口車でなく名前の止められない好奇心によるものだ。じゃあとは知りませんとこの場を去るのは惜しいと思うほど、名前は目の前の羊皮紙の謎を解きたくてわくわくしていた。
だが時間には限りがあり、もうすぐ夕食の時間。生徒がぞろぞろと大広間を目指すころで、この部屋は廊下のはずれとはいえ、3人そろって出てくるのを見られては確実に怪しまれ、悪いほうにしか転がらないことは明確である。

「勝手に始めさせる呪文があるんじゃないか?先生たちが俺たちに吐かせるときのような」
「あってもフレッドと名前には使えそうにないな」
「ジョージにもでしょ。…何もそんなことしないのに。こんなに拒絶されちゃね」

名前が魔法の代物といえ古びた羊皮紙をまるで一人の人のように話す調子が面白く、二人はだな、と笑って、とりあえずここまでかと歩き出そうとする。と、ふと、名前が微々たる香りの変化を感じとり、バッと羊皮紙を見た。

サラサラ!とペンを走らせたような(では誓いますか?)(ムーニー)という文字が、表紙のあっちとこっちに、いたずらに浮かんだその一瞬を、名前の目が確実に捉えた。

「誓う誓う誓う誓う!!!!」
「!!!!!!!!  なんだ!?」
「今ここに文字が!!」
「文っ字っだって!!!」


先に階段を降りようとしたフレッドジョージの肩が、初めてここで会った名前に負けないくらい大きく跳ねた。名前は羊皮紙を両手に握って懸命に叫ぶ。
お開きムードだった二人は打って変わって、ドタバタと名前のすぐ両隣へ急いで羊皮紙を凝視した。折りたたまれた羊皮紙相手に、三人の必死な顔が、ぎゅうと詰め寄る。
高鳴る心臓はそのまま、ふぅ…と息を整えて、名前はついでについさっき引っ掛かったことを、さっそく回収しようと、杖を構えた。左右から視線を感じてもいったん気にせず、そのまま杖を羊皮紙にトンと落とす。

「ミスター・ムーニーに誓います」

するとまたサララ!サラサラ!と走り書きを残すように、またはなるべく目に留まらないようにとも言えるスピードで、再び文字が現れた。

("我 ここに誓う")
("我 よからぬことをたくらむ者なり")
(" ")

一行ずつ示された後に現れたのは、表紙の中央を杖で叩く表現。示された通りに言われた通りに、名前が正しく唱えて杖でトンと叩くと、みるみると浮かび上がってきたのは、予想通り表紙であった。
右耳と左耳で、息をのんで感激する二人が感じ取られる。名前も同じく絶句するようにして感動で震えた後、三人声も発せないまま、辛うじて拳を合わせて、喜びを分かち合った。

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