Goblet of Fire-22



名前は皆と違うルートで城へ帰った足で、確信を持ってダンブルドアを訪ねようと図書室にも塔にも立ち寄っていた。ムーディを陥れるつもりはない、ただ舞踏会までに彼から香った満月草やニワヤナギのことを、たとえ的外れでもおおごとにならないうちに、彼の耳に入れておくべきだと名前は心に決めた。

夜の更けた暗い校長室前、影に身を潜めていると、想像とちがい複数人、しかも慌ただしく、しかもその中の一人は魔法大臣であったので名前は思わず引っ込んだ。
なんとかダンブルドアだけを引き止められないか、いっそムーディ以外であれば誰が居ても構わないか、森の茂みでクラウチの死体が発見されたことなど少しも知らない名前は混乱した。

「死人がでたのじゃぞ ファッジ」
「中止にはせん」

部屋の喧騒を背にどうしようか考えていると、遅れてハリーまでやって来た。名前は一瞬迷ったが、やはりダンブルドアのみに打ち明けるのがベストだと、今は声を掛けるのをやめ、すんなり部屋へ入れられた彼を見送る。喧騒は落ち着き、しばらくして部屋から魔法大臣と、ダンブルドアが出てきた。
名前は埒が明かないと、とにかく話があることだけ告げて帰ろうと考えた。あまり長居しては、城をうろついていることを咎められる。

だが呼びかけようと吸い込んだ息を声にするのは、背後から伸びた分厚い手に阻まれ叶わなかった。掠めた香りに、しまったと血の気を引かせた。

「!!」

鳴らそうと合わせた指も周到に、乱暴に拘束され、少しも動かせない。視界の隅でとらえたダンブルドアと大臣の背中は、もうすでに随分遠のいている。

「ンン゙!ン゙ー!」

強い力にしばらく引きずるようにどれほど移動させられたか、ひと気の更に減った通路の壁に、拘束したまま腕を乱暴に押しやられる。痛みと恐怖で、ぎゅっと目を閉じるとまつ毛に涙がついていく。
図書室よりも、舞踏会よりも近付いた彼からは今までで一番きつく、ポリジュース薬の香りを感じ取った。狂気に満ちた、中身は異なる、ムーディの目と、忙しく動く義眼に間近で捉えられ、名前はガタガタと体を震わす。夜更けで周囲が静かなのと、恐怖によって、ムーディの声は小さくとも名前の耳には大きく届く。

「よく見抜いたがこうなってしまっては無意味だ名前…憎むなら己の好奇心を憎め」
「…!ぅ…! 」
「折らないでやるが鳴らせんようにしておくぞ…!アハハハ!!!!」

示すようにぐっと力を込められた指の拘束。ビク!と小さくなり泣く名前が面白く、笑うムーディの声が、夜の城に不気味に響いた。


……――

最終課題。鳴り響くファンファーレに、賑やかな生徒たちの歓声。選手たちが入場し、ダンブルドアが話しだすとそれに合わせて喧騒はしぼんでいく。
フレッドジョージは、名前の姿をずっと見掛けていなかったが、会場にも居ないことに気付いた。同じく異変に気付いたハーマイオニーが、つい二人へ問いかける。

「ねぇ、名前を見なかった?」
「「俺たちに聞くな」」

分かったか?と言いそうなジョージと、怒りをも含めるフレッド。ハーマイオニーは若干呆れながら、前方のハリーをチラと見つつ耳を貸す。

「ここってときに居ないのはいつものことさ」
「ったく、いつまでいじけてんだ」

それはフレッドもでしょうと、出かけた言葉を飲み込んだハーマイオニーの横で、ロンも不満があるような表情を浮かべた。
始まりの大砲はダンブルドアの合図よりも早く早く放たれ、ムーディによって設置された優勝杯を目指し、選手は迷路へ足を踏み入れた。

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