Goblet of Fire-19



名前としては用とついでの用のためにここには来たにすぎず、その一つは"運命に関わる人"の可能性がある彼に、少しでいいからアクションを起こすことだった。元闇払い、魔法戦争にもかかわった魔法使い相手に積極的なのは、さすがは名前の好奇心であった。
だが、ははん、と言うように、今度はムーディが、耳を貸せというように名前の腕を引いて聞かせる。友人たちと懸念していたことは現実になってしまった。

「ヒッグズはお前に断られたと嘆いていた。ダームストラングの奴も」

見透かされてはならないと、名前はつとめて平然を装い、首を傾げたり、しかめたり演技をした。自然に見えるように口は止めずに、一番誤解のない言葉を選ぶよう頭をフル回転させる。

「確かですか?私…―」
「…」

賑やかな周囲の雑踏や音楽が少し遠のく感覚に陥る。名前は努力もむなしく、近付いたことで明らかになった香りについ口を止めて集中してしまった。つい最近図書室でも感じ取った満月草はもちろん、それも加えた別のものだった。
ハッと視線を彼に戻すがすでに遅く、なんとも読めない表情がすでに名前へ向けられている。どう言おうと軌道修正は困難そうで、腕から手を離しぎこちなく一歩下がる。

「…邪魔してごめんなさい。…戻ります、私。ペアのところに」
「……」

自然を装いきれなくなった名前はその場を後にするしか手は残っておらず、そうしろと促すようにも、怪しむようにも見えるムーディの視線から逃れた。ムーディはしばらく名前の背を見つめた後、今度は周囲を少しうかがい、いつものように小瓶を口へ傾けた。

音楽の調子が激変し、ロックステージへ一変した会場を後に、門をくぐった階段の途中で名前は足を止め、凍りかけた背筋を落ち着かせるよう深呼吸する。まさかと浮かび上がる疑念が、ふと自分を呼ぶ声に遮られる。

「名前?」
「、 ジョージ…」

振り返ると、ドレスローブで普段とすっかり印象の違う、ライブを少し抜けてきたらしいジョージが、門のそばからこちらを見上げていた。

「驚いた…帰っちゃうのか?」
「うん。ちょっと用に来ただけだから」
「…ドレスで舞踏会へ、ちょっと用に?」
「そうよ、ダンスじゃなくてこの用事」
「!」

茶化すように笑う、以前と同じジョージのふるまいがなんだか懐かしく、ジョージもまた名前と自然に話せるのが単純に嬉しい。階段のそばへ歩み寄ると手渡されたメモ。内容は随所に参考の添えられた魔法書の書き写しで、惚れ薬にまつわるすべての情報だった。ジョージは感激の目で名前を見上げる。

「…調べてくれてたのか……?フレッドを呼ぼう」
「いいのいいの、呼ばないで!今ごろ楽しんでるでしょ」

ジョージも早く女の子のところに戻ってと、気を取り直すように笑うが、少し曇った名前の表情を、ジョージが見逃すわけがない。ありがとうと伝えれば肩を竦めてみせ階段を進むのを、ジョージが見送る。

「おやすみ!名前」
「おやすみ」

少し振り返り足を止めない名前に、ジョージは急ぐように続ける。

「綺麗だよ、名前!見違えた」
「ふふ、ありがとう。ジョージもね」

ようやく笑顔で、今度は体もこちらに向け小さく指差して去る名前を、ジョージも笑顔でしばらく見送って、会場へ戻った。完全に今まで通りといかずとも、やっとこんな風に話せたと思う気持ちは、ジョージも名前も同じだった。

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