Goblet of Fire-18



名前、あんなやつのこと気にしなくていいわよ。名前、すっぽかすのやめない?飛び切りオシャレして飛び切りの相手誘って、見せつけちゃおうよ。名前、あんたから謝ったりしたら承知しないわよ。仮に謝ってきて名前が許してあげても、私たちはそうはいかないんだから。

そう訳は知らない頼もしい味方である同じ寮の友人たちの言葉を思い返し、頬を緩めながら図書室を物色する。窓の外には雪が積もり遠くまで真っ白だ。名前は目当ての棚に手を伸ばす。背伸びで届くと思えば、あと少し足りなかった。精一杯手や足先を伸ばしてもかなわず指を鳴らそうか迷った瞬間、目当ての本がポン!と前方の宙へ飛びだし、ゆっくり名前の目前に降りてきた。
驚いたものの自然と手に取りゆっくり横に目をやると、通路に杖を構えたままのムーディが佇んでいた。

「そいつじゃなかったか?」
「あ、いえ、これです。…すみません」

少し笑って、通路へ自分も向かい足早に去ろうとした際、近くで見たムーディの顔には義眼のそばともう一つ、顔には二つ傷があったのかと初めて認識した。名前は数歩進んで思わず立ち止まった。思い返される、"運命に関わる人"の幻想。顔を目掛けて二回、片足を目掛けて一回駆ける流れ星。だが今はそれよりも

「先生、部屋に満月草を?」
「―――  」

鼻をかすめた香りに、部屋に鉢や花壇を置いているのかぐらいの興味本位で聞いた。振り返ったムーディは本棚で顔を陰らせ、いいやと答える。

「なぜだ?」
「…なにも。だったら意外だなって」

取ってもらった本を少し上げ一礼して、名前は図書室を後にした。
運命に関わる人は、もしや彼では。いつもの自分だったらこの核心に迫る感覚や喜びに、上がる頬を両手で抑えたり寮までスキップで戻ったりもしただろう。
だがかすめた香りが満月草であったことが、名前をそうはさせなかった。少し前に寮で読んだ本の内容が、脳裏をよぎり、一人表情を強張らせた。


…――

ダンスパーティー当日、皆普段と見違えるほど美しく、または紳士として着飾り、浮足立たせて各々ペアと手を取り合い会場を目指した。
ファンファーレとともに扉が開き、皆の拍手に迎えられ選手たちのペアが誇らしく入場する。今夜のために白銀の装いを変えた広間の中は隅々まで美しい。音楽が始まると選手らが、次第に皆各々のペアとダンスを始め、舞踏会は伝統を守り緩やかに開催された。
隅に座り踵でリズムをとるムーディは、気怠そうながらも鼻歌交じりだった。

「先生!」
「!」

突然目の前に現れた名前に、ムーディは本物の目を丸くした。レースをあしらった黒のワンピースドレスで着飾った彼女は周囲に溶け込みすぎていて、ムーディも気に留めていなかった。

「おひとり?私と踊りましょう先生」
「またお前か。自分の相手のところに戻れ名前」
「私相手がいないんです。売れ残っちゃって」

シルバーの義足に添えられていないほうの腕を両手で取って、名前は説得した。

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