Goblet of Fire-10
歴史に名を残す永久の栄光と、優勝杯。勢いよくクロスを引き現れた、青く眩しい優勝杯に皆がわき歓声に包まれるなか、その横をスネイプが神妙な面持ちでゆっくり通り過ぎる。視線はゴブレットに向けられており、察知したダンブルドアもその視線を追った。
ゴブレットは明らかに異変を見せ、火を荒れさせている。それは再び、三人を選出したときと同じように、赤に色を変えて燃え盛った。もう一枚の羊皮紙を、投げ飛ばすように上空へ吐き出した。それは端に火を残したまま、ひらひらとダンブルドアの手に届く。
「… "ハリー・ポッター"」
周囲は一気にどよめく。広間の隅、集まる視線をよけようとハリーが引っ込む中、前方ではハグリッドが反対の声を上げる。その声色が、元よりこの魔法試合にいい気がしていなかった名前の不安をさらに煽る。
「ハリー、名前を入れたの?」
「まさか」
「そうよね、」
何人挟んでいてもこの静けさで名前の声は十分ハリーに届く。やがてダンブルドアの声は怒りを帯び再びハリーの名を呼ぶので、ハーマイオニーもハリーに、前で出るよう助言する。隣のロンは、ハリーに向ける視線を明らかに変えていた。
ロンに限らず、年齢線によって断念したであろう勇敢な生徒たちは、皆もれなくそうだった。
ハリーが前の三人に続き歩みを進める間、名前は彼の緊張や混乱が直接自分の身にも感じられる気分だった。やがてダンブルドアの声で生徒達がぽつぽつと広間を後にしだす。名前の気を紛らそうと、フレッドは名前に何気なく声を掛けた。
「誰応援するんだ?なんて…」
「"応援"!?」
「!」
しん、と彼らの周りだけが、名前の怒鳴るような声に静まり返る。しまったと思うときにはもう遅く、フレッドも"なんだよ"などと笑いを含めきれないように、ぎこちなく返し、ジョージも驚いた顔を向けている。名前は開きかけた口からごめんと出すこともできず、誰のことも置き去りにして、ずかずかと広間を後にした。
ワールドカップでの印のことから、またもハリーに関わる問題ごとなれば、ダンブルドア達もとっくに問題視しているだろう、
年齢の規則を守って、ハリーは降ろしてもらえるだろう、魔法試合の中止も、きっと叶わないことではないだろう、
寮までの道の間、なんとか名前は希望を見出す。そんな事態ではないのに"応援"だなんて、とフレッドに声を荒げ、謝りもせず飛び出してきてしまったが、瞬間の彼の驚いた顔が頭から離れない。
寮までの道に大雨の音が鳴り響き、名前の気持ちも沈む。発表の前の、手に触れていたときとの感情とは大違いだ、と、邪念を消すように大きくため息を吐いて、ふと止めてしまっていた足を再び動かす。
…――
グリフィンドール寮、夜中1時。シリウスは手紙の通り、ハリーのもとに、暖炉の薪としてあらわれた。
「ゴブレットに名前を入れたか?」
「入れてない!」
「だろうな」
「ハリー、名前を入れたの?」
「まさか」
「そうよね、」
ハリーを悩ませる、ヴォルデモートの夢のことやホグワーツに及ぶ危険を、シリウスは手短に忠告した。1mmも信用しようとしないロンと異なる彼の受け答えに、ハリーは名前を思い返した。シリウスが軽く冗談も混ぜるので、ハリーは少し笑ってしまった。
「名前はグリに会いたいと?」
「…、元気だよ。でもフレッドと喧嘩したらしい」
「それは双子の一人だな?あんなに彼らの話ばかりだったのに珍しい」
こちらに向かう人影に慌てて話を終わらせるあいだ、ハリー、君も友を大切にと、シリウスは残して薪から煙を上げ消えた。