Prisoner of Azkaban-22
シリウスから気を逸らすべく、ハリーはそこらの岩の破片を、思いきりルーピン目掛けて投げる。頭に喰らい振り向いたルーピンが的をハリーに変え、襲い掛かろうとした瞬間、名前はハーマイオニーのもとに縮こまり目を瞑った。
「 ァォ――…… 」
遠くから聞こえた遠吠えにはっと目を開ける。佇んで固まったハリーからルーピンは視線を向こうのほうに変え、ハリーに襲い掛かることなく、野を駆け下りた。はぁと息を吐くとすぐそばのハーマイオニーも安堵したようだった。グリの姿を探す暇も与えないように、医務室へ急ぐよう、スネイプに言い渡される。
よたよたとルーピンの後を追うシリウス。ハリーもこちらを振り返りもせず後を追ったので、スネイプが再び振り向いたときにはとっくに姿はなかった。
……――
真夜中の医務室には、しばらくしてハリーも運ばれた。名前は足に包帯を巻いたロンのベッドのそば、窓に向けた椅子に力なく座り、外を眺めグリの姿を探す。後ろのほうの別のベッドで、ハリーが目を覚ましたようで 父さんが向こう岸で…と、まるで夢をまだ見ている途中のような話をするので、そばにいたハーマイオニーが改めた。
「シリウスが掴まってディメンターのキスを…」
「殺されるの!?」
やっと正気になったようで急いで起き上がるハリーを、涙の跡をいっぱい残した名前が振り向くが、声も発さない。
「殺されるより悪いわ。魂を吸い取られるの」
―ギィ…― 「「!」」
話を遮るように開けられたドアから入って来たのはダンブルドア。姿を見るや否や、二人は駆け寄り疑いを晴らそうと、ハーマイオニーから懸命に訴える。
「校長先生 間違いなんです!」
「先生、シリウスは無実なんです」
「スキャバーズが…!」
「…スキャバーズ?」
ベッドから声を上げたロンにのみ、ダンブルドアが聞き返す。ハリーがようやく名前を目にうつしたが、ひどく傷心なのが見てとれた。ネズミです・それがネズミじゃなかった・パーシーからもらって…とロンの調子で続けられた説明がどれも的を外すので、ハーマイオニーがさっさと遮りダンブルドアを見つめた。
「とにかく私たちを信じてください」
「信じておるが、13歳の君らや15歳の名前の言葉では皆の説得は難しい」
言い聞かせるように二人の目を交互に見つめ、ダンブルドアはロンのベッドへ歩み寄り、名前の座る隣に立ち、話す節と節でポスンとロンの足に手を置く。
「子供の声は…聞くことを忘れた者には」
「ッッはぅ…!?」
「届かんのじゃ」
「う゛ッッ…」
手に合わせてロンは声を上げ、名前は肩を跳ねさせる。何気なくふと何か察知したように、ダンブルドアは再びドアのほうへ歩く。
「"時間"とは不思議なものじゃ…
強力で いたずらに扱えば危険が伴う」
「……?、」
ダンブルドアを目で追うのが遅れるほど戸惑った様子のハーマイオニーを、名前は涙が出尽くし重くなった瞳で見つめた。