Prisoner of Azkaban-21



ペティグリューの奥に月を見たまま佇むルーピンの姿。明らかに様子がおかしく、杖を持つ手もがたがたと震えている。驚く名前の杖はもうもはやペティグリューを指してもおらず、後退りそうになるのを堪える。シリウスが慌てた様子で駆け寄り、抑え込むが、シリウスに目もくれず、ルーピンの身は次第に何かに抗うようにうごめき、苦しそうに声を上げた。

「リーマス…!今夜の薬は飲んだのか?」
「アア゛…――! ア゛―…!」
「、先生…?」
「本当の自分を忘れるな!本当の君は心の中にいる!!」

名前の呟きも、シリウスの必死な呼びかけも、届かない。彼の手から離れた杖をペティグリューが拾い上げ、自分の額を一つ叩いたのに、ハリーが呪文を叫ぶまで、自分はペティグリューのすぐ背後に居ながら 名前は気が付かなかった。それほどに、ルーピンから目が離せないでいた。

「エクスペリアームズ!」「!!」

呪文はペティグリューの手の杖を弾いたが、一足遅く、嘲笑うように弾かれた手をひらひら振って、みるみるネズミの姿になった。すぐそこでシリウスが賢明に叫び続ける横で、彼の変貌に一瞬たじろぐが、ネズミに化けようと絶対に逃がすかと、小さくなった姿に目を見張った。

「待て…!!!」
「名前だめよ! ハリー!!」

続けて追おうとしたハリーを、危険から守るべくハーマイオニーは掴んで止めた。名前はもう既に何歩も野を駆け下りていた。立ち止まるべきか、このまま彼を捕まえられるか、迷っていると暗い藪のせいで、走るネズミの姿などすぐにそこらの植物と見間違え、見失ってしまった。悔しがっているさなか、遠吠えが元居たうえのほうから響いた。名前は懸命に足を動かし、ハリー達の元へ戻るべく急いだ。

「はぁ、!はぁ!!」

ばくばくとうるさい鼓動が、次々響く獣の鳴き声やハーマイオニーの悲鳴に、早さを増していく。
両手両足で這うようによじ登れば、元の姿とはとても結びつかないルーピンが、後退るように横たわる三人と、盾になるスネイプの姿。

「だめ!!!」「!?」

スネイプの驚く視線の先、名前がルーピンの咆哮に勝りそうなほど叫び、スネイプのさらに盾になろうと彼のもとに飛び込むと同時、黒い影はルーピン目掛け、続くように飛び込んだ。

「!! グリ!?」

ルーピンに力強く払われた 犬の姿になったシリウスは、体勢を直す名前をまるで下がらせるように足元を行き来し、ルーピンにゆっくり近づき威嚇した。さらに後方の三人を、急いで立ち上がったスネイプがルーピンから守るべく背後に覆い隠す。
やがて同時に牙を向け、互いを傷つける。

「キャァー!グリ!!!やめて!!」

スネイプは急いで名前の腕を掴む。こちらへ寄せようとしようにも名前も、この獣たちの間に飛び込もうというのか、グリへ駆け寄るべく懸命に抗う。痛みにあがるシリウスの声を拒絶するように叫び、ぎゅっと閉じた目から涙が落ちる。
一時引き離されたシリウスが、こちらへ向き直るルーピンを阻止するよう手首に噛みつくと、ルーピンはシリウスを追い岩の向こうへ駆けた。姿が見えなくなっても、ルーピンの凶暴さがうかがえる声や音が、容赦なく響く。

「だめ…!!グリ!!グリ!!!」
「! 戻れポッター!」

シリウス、とつぶやいてハリーはスネイプを追い越し岩まで走るが、戦況に立ち尽くす。スネイプに強く腕を掴まれたまま、這ってでも近くを目指しそうな名前をハーマイオニーが屈んで胸に抱きよせる。

「、ぁ……」

ハリー越しに遠くに見えた友は、岩に打ちつけられ弱々しい鳴き声をあげていた。ハーマイオニーの腕のなか、震える手を口にやり名前は瞬きもしなかった。

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