Prisoner of Azkaban-16



「行こう!」
「だめよ!!待って!!」

窮地のときこそ、人は滲み出る。名前はフレッドジョージと過ごしていて、彼らの突拍子もなさ・思い切り・度胸なんかには、五年生になった今でも驚かされる。同じグリフィンドールの彼らに姿がなんとなく重なりながら、制そうとしようがハリーとハーマイオニーは止まらない。
容赦なく振り下ろされる、拳のような太い幹を、飛びのけるように交わしながら、ロンが引きずり込まれた穴へどんどん近づいていく。名前もなんとか柳のふもとを目指そうと同じように足を進めた。

「友達にそんなことしないで!!落ち着いて!どうしちゃったの!!」

いつもそんなことしないじゃない!と必死に叫ぶ名前の声は、もがくように暴れる柳には届かない。瞬時に地面に寝るように屈んで避けた蔦が向こうのハーマイオニーを捕らえた。体勢を崩したハリーには、頭上から棍棒のような幹が振り下ろされ、地面を揺らす。
名前がなんとか柳に近づき、騒音に肩を縮めながら太い根を登っていたときには、蔦に掴まってるらしいハーマイオニーの悲鳴がぐるんぐるんと周囲を回りながら響く。一番近づこうが、どこに居ようが、全身で暴れる柳の衝撃はどこも優しくない。名前はしがみつくようにしてでもなんとか止めたかった。
するとハーマイオニーはそのままハリーの胸倉を掴み、柳に振り回されるままハリーを洞穴へ投げ飛ばし、タイミングを見て自分も追うように飛び込んだ。

「!! …」

柳にしがみついたまま、二人の行動に目を丸くしたあと、名前がよかった…とため息をついた瞬間、

「うわっ 、!」

ズリッと重心のほうの足を滑らせ、根で頭を打ちながら後ろ回りするように地面に転げ落ちる。次に目を見開くと標的が一人になった暴れ柳の幹や蔦。顔中についた土も草も払う余裕がなく名前は転げたまま後退る。

バキバキ、ぎしぎしぎし…とどの手にしようか選出したように、奥で、先ほどまでハリーを襲っていた拳の幹が構えられた。尻もちをついた名前の全身に、すべての振動が伝わる。

「(待って待ってどうしようどうしようどうしよう!!!)」

縮こまった手がポケットの中の物に当たり名前は考える暇もなく取り出したのは、ギラギラの小さな包み。彼らからのエジプト土産の中身は片手に隠せるほど小さな香水。せっかくの凝った装飾も名前は一瞬しか眺められない。
襲われる瞬間、間一髪、名前のきつく目を瞑った顔のそばで瓶のフタがずれ

―ゴォ…ン!―

きつい香りを吸い込んだ途端だった。名前を踏みつぶしてしまうはずだった幹は、突如現れた黒光りしそうな黄金の、ふざけたスフィンクスを思い切り叩きつけ、びりりと痺れるように震えながら跳ね返った。
名前を閉じ込めたそれもまた、衝撃に大きく跳ねあがり、横を向いて寝るように地面に重たく転げてしまった。


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