04



「良い部屋だね!」
「いつも来るの?」
「どの授業のときも?」

「……」

驚いて見開いた目もバクバクの心臓も元に戻せない名前とは対照的に、のんきに部屋を見まわし交互に喋る同じ格好の同じ顔。きょとんと返事を待つ二人を見ながら名前の頭の片隅は冷静なまま、瞬時に絶望を感じていた。お気に入りの場所が自分だけが知る場所じゃなくなったこと、よりによって噂の問題児二人がやって来てしまったこと、すぐに授業の輪に戻らなくては不自然なのに、このままだと抜け出した悪友3人組のようになってしまうこと。
それだけはだめだ。名前の思い描く魔法使い像、魔法学校生活像、優等生とはいかずとも合格ラインの程々の生徒像、諸々に反する。

「まさか俺たちを知らない?俺フレッド」
「俺はジョージ」
「ほら。名前も自己紹介」
「……………」

みんなよりは遅れた私ですら知っている問題児だとか、知ってるのに聞くなだとか、なぜ私を知ってるんだとか、言いたいことを飲み込んでいくうちに名前の目は警戒のそれに変わっていき、向けられた二人も握手するのに差し出した手を引っ込めないまま、少しずつしかめだした。

「……、二人はなんでここに?」
「名前を追ってきたんだよ。なぁ相棒」
「あぁフレッド。何か企んでる様子だったから」
「!? 企んでなんか」
「「嘘だね」」
「、……でもまずいよ。もう戻らなきゃ」
「「わかってる」」

まぁ待ちなよ、と手で止める動作は同時そのもので名前は思わずグッと黙った。自分のことを知られてるわなんだかリードされてるわで少し前まで上機嫌だったのはとっくに消えてしまった上に、上機嫌の時間もほんの一瞬だった。
目線を合わせて言い聞かせるようにジョージが覗き込めば、名前も自然と嫌そうに避けた。

「名前。先に助けてあげるから、君に協力してほしいんだよ」
「協力?」

不機嫌がつい露わになり助けて"あげる"だと?とでも言ったような悪態をついても、ジョージは怖い顔!と悪戯に笑ってみせるだけで全く気にしない。
ふと外に目を向けたフレッドが急かした。

「急ごう。そろそろだ」
「何が!?」
「いいから名前も早く!ほら!」

フレッドが駆け寄り名前に箒を持たせて窓の端まで誘導する。目を向けた先にはすでに助けられた気性の荒い箒の子に、先生や生徒たちが、もとの集合場所を目指してわらわらと戻ってくる様子だった。先に窓の外へ出た二人にならうように困惑したまま箒に跨る。何からいえばいいやら、口をパクパクさせながら二人を交互に見るが、表情になんの迷いもない。

「作戦通り。でしょ?」
「下手なふりだよ、名前!」

任せておけとでも言うようなフレッドと、笑顔で名前を振り向くジョージ。協力だの作戦だの、名前はひとつも理解しないまま、言われる通りに後に続いて部屋を後にした。窓枠から足が離れた瞬間の悲しさ。同じ赤毛の二人の後ろ姿を見ながら、これから起こることを名前はまた想像した。
この想像力をもってしても追いつけない、話すらままならない二人組が、授業に戻って何をしでかすのか。先生の前に突き出され、部屋の場所も告げ口、そこにこもってるだとかどの先生の授業でも居ないだとかあることないこと足されて、最悪ハッフルパフの減点にまで及ぶだろう。だんだん近づき、こちらを見上げる数人の表情が分かりだしたとき、名前はもう諦めた。どの顔もはてなが浮かんで見える、同じ顔をしていたからだ。

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