03



注目を集めるほどの悲鳴と、ちょっぴり乱暴な性格の箒が揃うことで、名前にとって最高に都合の良い状況が完成する。何度も受けてきた飛行訓練。その間の数回のシミュレーションで、立ち回りは完璧。勝手に生まれる混乱に紛れて消えてしまっても誰も気付かないことを立証した。"先生の視界から消えてみる"テストも三回中三回クリア。なんの問題も見当たらなかった。まだ誰の足も地面に着いたまま。そろそろかと悲鳴の常習犯に目を向けると、そのときはやってきた。

―ビュン!!―

「ぎゃあーーー!!!」
「!またお前は本当に……!待ちなさい!!」

箒に引っ張られ地面から打ち上げられたかのような生徒はグリフィンドール寮の顔しか知らない同級生。追いかける先生と生徒。どよどよと心配の声も笑い声も、歓声すらも携えて、みるみる遠くへ行ってしまう。小耳に挟んだ情報では飛んで行ったあとの落ち方が毎回違って見所らしいのだが、名前はあの子がどう落ちようがどうでもよく、1mmも興味がない。

「名前、私も見に行きたいんだから早く!」
「私の話になったら名前も飛んで行きましただからね!お願いね」

みんなに走って追いつきたいハッフルパフの友人一人にだけ耳打ちして、名前は逆方向へ数歩駆けた後、勢いそのままに箒に跨りさらにスピードを上げ塔の向こうを目指した。足や髪の間を吹き抜ける強風を感じながら想像を隅々まで、目指すあの部屋の窓から入る様子まで膨らます。名前の想像力は魔法の実現にすこぶる相性が良く、たとえ一年生でも、たとえマグルでも、箒に乗ることなどいとも容易いことだった。想像力も相まってか、選んだ箒の性質か、"はいはい、こう飛べば嬉しいんでしょ?"とまるで言われているかのように、名前の描く想像通りに飛んで行ける。
なるべく姿が分からないように、風に乗って加速するように、箒に上体を寄せ、思い通りに風を切れば、楽しくて仕方がなく笑みすらこぼれる。

古くてぐらぐらの窓を箒に乗ったまま器用に開け、少し勢いをつければ、吸い込まれるように部屋に到着。華麗に着地して、居心地の良いこの場所へ見事ゴールした。魔法学校生活、初の"さぼり"でもあるわけだが、
それはあまりに思い通りで、名前は上機嫌だった。立てかけた箒の柄に軽くグータッチをして、この限れた短い時間を何に充てようか、壁側に集めた古本に足を向ける。少し遠くからはまだあの子が飛び回っているかのような悲鳴が、よく響いている。やはり、混乱に紛れて消えても誰も気付かない。

「(ま、協力してくれてるあの子以外ね)」
「「へぇ〜!」」

「!!!!?」

自分ひとりと思っていた空間で声がするとき、人間の肩は面白いほど跳ね上がり、全身の動きは嘘のように素早く、鼓動は急加速するものだ。声のした、入ってきた窓を名前が慌てて振り向くと、すでに突っ立っている同じ背丈の影が二つ。

prev | top | next















×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -