Prisoner of Azkaban-12



ルーピンは皆ホグズミードへ出掛けている間に、翌日の授業の準備を済ませたかったので3C教室へ足を運んだ。開きかけのドアを気にも止めず通り過ぎようとすると声に気付き、足を止める。物陰のようで姿がないが、窓の外に向かって叫んでいるようだったので声は鮮明に聞こえた。

「今日はそっちに行けそうにないよ!忙しいから!またね!」
「…」
「グリもうまく隠れないと、早く帰って来た子に気付かれちゃうよ!私なら大丈夫!」
「……」

入り口に佇んだまま、クスと笑ってしまいそうなのを堪えていると、声の主の名前が物陰から飛び降りるように姿を現した。お行儀の良いことに、窓際に置かれた広い机によじ登って、窓の外へ叫んでいたようだ。一目散に奥の小さな本棚へ向かったので、ルーピンに気付いていない。好奇心旺盛に本棚を物色するハッフルパフのローブの子に、なんと言って呼びかけようか、ルーピンは考えた末、もうくぐったドアを、彼女に知らせるようにノックした。

"コンコン、"
「!!!!!!!」

名前がルーピンまでつられて驚きそうなほど盛大に驚いた拍子に、持っていた本が飛び跳ねぱたん!と音を立てて落下する。

「先生……」
「すまない、驚かせるつもりは」
「あの私、ごめんなさい」
「とんでもない、熱心だね名前。何をお探しだったかな?」

ルーピンが歩み寄り落とした本を取りタイトルに目を落とすと"極限呪文集"。

「それには、載っ…―、…」

焦りが災いして珍しく失言してしまい、いつもならすぐに機転をきかせて難を逃れるが頭が働かず気まずそうにルーピンを見上げる。ルーピンは察しが付き、誰かを守りたいんだねと言うと、名前の表情がぎく、と更に触れないでほしそうに曇る。見兼ねて本を棚へ戻した手を、ルーピンは自分ポケットに入れた。

「そんな君に…」
「…チョコ?」
「おや。前にもあげたかな?」
「いいえ」

ハーマイオニーの言っていた通りだと、名前が笑うと、ルーピンも笑みを返しチョコを手渡した。そのあたりに寄りかかったルーピンに、まるでなんと返すか試すように名前は投げかけた。

「…ハリーを守れたらと」

名前はルーピンの、一瞬引っ掛かるような表情の変化を見逃さなかった。名前、と一息つかれ、名前は受け取ったチョコを口に運べずに目をやる。

「君の探し物はこの城では見つからないよ。だから探すのはやめなさい」
「……」
「ハリーを信じることも、きっと彼を守ることに繋がるよ。クィディッチの一件なんかで滅入ってるようだったから、気に掛けてあげるといい」

難易度の高い魔法や、あわよくば許されざる呪文の解説がされた本がないか、どこまで見透かされたかは分からないながら、物色の目的は失言のせいでルーピンに割れてしまっていた。
はい、と短く答えれば、よろしい というように微笑みチョコを指したルーピンに、やっと気持ちが和らぎチョコを口に運んだ。気を取り直すようにルーピンが天気の良い外へ目を向ける。

「さっきの友人と、ホグズミードへは行かなかったんだね」
「……さっき話してたのは…その」

そのときから聞かれてたのかとハッとして、名前は言いにくそうにしたので、ルーピンは言葉を待つ。

「…犬です」

「…犬、」
「…はい」

迷子の…。
ぽそっと呟き、誰も居ないのをいいことに思いきり犬の友達に叫んでいたことに赤くなりだし、名前は私行きますとだけ言って、呆気にとられたようなルーピンを置いて走り去った。
ルーピンは忙しく駆けていく名前を少し笑いつつ見送る。"グリ"という彼女曰く迷い犬が、黒く大きな、友人の化けた姿のことだと分かったら、同じように見送っただろうか。

同じ頃の、叫びの屋敷付近。ハリーはホグズミードで知った真実に涙を流し、両親を裏切ったシリウスブラックへの恨みを深いものへ変えていった。

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