Prisoner of Azkaban-5
「ホグズミードへの外出はご褒美ですからね。悪い行いをした生徒に二度と外出の許可は出ません」
名前は友人を見送りにきた帰り道の通路でふと振り返る。見えるのは皆へ呼びかけるマクゴナガルにハリーが駆け寄るが許可が下りない様子。二年前、名前は"あのハリーポッターと握手をしたぞ!"と興奮気味で隣の魔法使いに話す長髪の老人を覚えている。上も下もボロでぶかぶかだったと話していたので、保護している大人にあまり良い扱いをされていないと予想した。だから去年、フレッドジョージに出した手紙に"★ハリーがもし閉じ込められていても…"などと書いたのだった。
その大人が許可証にサインをくれるわけはないだろう。サインのない許可書を健気に持ってきて、一人そこに残るハリーに胸を少し痛ませながら、名前は校内に歩を進めつつ一人呟く。
「ハリー、こういうのはチャンスに変えなきゃね」
「そう、生徒が出払うこの機は君には美味じゃろう」
「!!」
通り過ぎた陰からの返答に心臓を跳ねさせ振り返ると、驚くこちらがおかしいというように自然にそこに佇むダンブルドアの姿が。司書のイルマにだけ気を付ければ、生徒もフィルチも居ない図書館は名前がなんの棚を物色しようと人目をまったく気にする必要のない、オアシスだ。それが今、目の前の校長に筒抜けになっているので、かなり気まずく表情が強張った。
「先生…」
「今日の名前の調べものは?先日までは…魔法薬の保存法に随分熱心だったようじゃが」
「……」
ダンブルドアは、少し忠告するように名前のポケットを気持ち指差す。
「世を騒がせよる指名手配犯が…それに書かれておらんことを祈る」
笑ってみせ後にするダンブルドアの背中を見送り、"それ?"とポケットに手を入れるとフレッドから受け取ったメモ。去年二人に魔法薬凝固方法を助言したのも筒抜け、今からこの老け薬のメモのことを調べるのも筒抜け、
シリウスブラックのことが何か分からないか、ちょっとだけ棚を漁ろうと思っていたことも、筒抜けだった。
名前は絶句するほかなく、しばらく立ち尽くした。
図書館を出た名前は偶然ホグズミード帰りの彼らの波に合流する。
「名前にお土産!はいどうぞ」
「みんなに隠れて部屋で食べるんだぞ」
「…」
名前はジョージから受け取ったハニーデュークスの小さな紙袋に一瞬嬉しそうに見たが、忠告したフレッドに疑いの目を向けた。先日のお土産同様に開けないのが正解か、二人に仕向け返そうとするとフレッドは視線に気づきしかめて、名前の手の紙袋からヒョイとフィルム包を取り出す。
「なんだよ ほら召し上がれ?」
ずいと名前の目の前に出されたフィルムの中には、びっしり色とりどり様々な形のお菓子。シール留めをピンと取って一粒フレッドは自分の口に投げ入れた。引っ掛かったなという笑みも浮かべながら、包を名前に持たせる。
してやられたという顔の名前に笑いながら、ジョージも手を伸ばそうとしたとき、上の階の異変に気付く。
「?おいあれ、寮のとこ…」
「?」
フレッドと名前もジョージの視線を追い、同じ絵画に注目しその状態に言葉をなくす。階段を上がる間ジョージが名前の手のフィルムからビーンズを摘み取ったので、足を動かしながら、名前も選んだクッキーをかじりつつ二人の後に続く。
グリフィンドール寮の扉の絵画に無数の傷。
絵は豪快に破れ、レディの姿が無い。