Chamber of Secrets-8
それからのハリーはスリザリンの継承者と恐れられ、避けられたり、ヒソヒソと噂されたりと、どこに居てもそれらが鬱陶しかった。ともに居るロンとハーマイオニーすら誤魔化すような笑み、同じ寮のジニー達にも視線が合うだけで逸らされる。談話室に戻ると告げて教室を後にすると、皆勉強の手を止めてハリーを見た。
談話室へ向かう途中、少し先の教室からぞろぞろ出ていく上級生の中、一人だけハリーのほうへ向かってくる、小さな塔を目指す名前が目についた。
「! ハリー」
「…名前、僕は継承者なんかじゃ、…」
「…あぁそれ。言わせてればいいの!どっちだっていいことじゃない」
気を落とさないで。励ますように肩に手を置かれハリーは一瞬嬉しくなったが、彼女の手元の図鑑が目に留まり、この子は自分を元気付けているわけでなく、いま好奇心の矛先である魔法生物のこと以外割とどうでもいいのだと、少し黙ってしまった。
「ハリー、あれから…」
― 血だ… 血が欲しい …―
「!」
「ハリー?」
― 皆殺しにしてやる …―
ハリーがふと空中を見回したので名前が話すのをやめる。同様に見回してみるが、名前の耳には届かない。
「名前、聞こえる?」
「?何か音がする?、 っくさい…、何かしらこれ」
下水みたいな…と異臭に顔を歪めつつ、名前は何がなんだかわからず、壁に手を付いて彷徨いだしたハリーの後に続いた。
しばらく進み角を曲がると、石になって倒れるジャスティンと、首から煙を出して固まったまま宙に浮かぶ首無しニックに名前は両手で口を塞いだ。ハリーは歩み寄り、ジャスティンのもとに屈むと、逆の通路からフィルチがやって来た。名前の身がさらに凍るが、愛猫を石にされた彼の目にはハリーしか映らない。
「現行犯だな」
「!」
「今度こそお前は退学だ…覚悟するがいい」
「待って フィルチさん!誤解だよ!」
誰かへ告げ口に行ったのだろう、立ち去るフィルチを二人とも止められず、再び自分たちだけになると、城の外へ向かって行列をなすクモが目についた。ハリーと名前が何か話すよりも早く、フィルチがやはり告げ口をして戻ってきた。
「マクゴナガル先生…」
「先生…僕じゃありません」
「名前、自分の寮へお戻りなさい」
手に負えないと告げるマクゴナガル越しに、疑いが晴らせないハリーに心配そうな表情を向け名前は去る。
「……」
寮へ向かう間、名前はもっと調べようと、何から始めようか、石になった者たちと、ハリーが何か聞き取っていたことと、クモの群れを思い返しながら考え込んだ。ジャスティンもマグルだ。いつ自分の番になるかと思うと、すっかり日が傾いたまさに今のこの校舎すら不気味に感じた。
考えに更け、陰に潜む人にまったく気が付かなかった。
「ダンブルドア先生!待った!ハリーじゃねえです!」
「、ハグリッド……」
「一緒に居た名前も関係ねえです!
魔法省の前で証言する…―「ハグリッド!」
ハリーがやって来た校長室。まさか二人で不死鳥を眺めて微笑んでいるとは思わないハグリッドが、よほど慌てたのだろう、何か獣の殻を片手に握ったまま割って入る。やっと静かになったハグリッドに、ダンブルドアが落ち着けと言い聞かせる。
「わしはハリーが襲ったなどと思っておらん」
「でしょうとも!! っ …あ、」
「名前の身も案じておらん。安心して任せられる魔法使いが二人もついておる」
「あ… そんなら…あの…」
"名前を任せられる二人"が誰のことか、ハリーにも、二人に森の番で大概手を焼いたハグリッドにも分かった。
そんなら外で待ちます…となんだか小さくなったハグリッドを見送ったところで、ハリーがダンブルドアを見上げる。
「じゃ僕ではないと?」
「そう。君だとは思っておらんよ。だが聞きたい」
何か話したいことはないか。
そばで見つめるダンブルドアの目は、すべてを見透かしているようだった。ハリーは少し考えてしまったが、かき消すように首を横に振る。
「いいえ。ありません」
「…それならよい。 お行き」
ハリーを見送るダンブルドアはハリーの言動に別の人物を思い返し、表情を曇らせた。